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判例解説、交付金の返還が認められた事例

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判例解説、交付金の返還が認められた事例

 「仮契約締結時に支払った交付金につき、売買契約が成立したとは認められないとして、返還の請求が認められた事例」東京地判 平成27・12・3

判例解説、交付金の返還が認められた事例

 不動産の売買契約において、売主、買主(不動産業者)の間で仮契約を締結し、買主は手付金の一部として交付金を売主に渡しています。

 契約締結後、契約条件の調整段階で、売主は買主より売買代金全額が支払われても、売主が引越を終えるまで、本物件の所有権移転登記手続を拒絶する旨を通知し、本件交付金を買主に返還することも拒絶しています。

 結果、売主の身勝手とも思われる主張は通らず、買主への交付金の返還が認められました。

【事案の概要】

 売主は、不動産仲介業者(不動産仲介業者)から売主の所有する土地建物(本物件)を売却することの提案を受け、売却する意向があることを連絡し、不動産仲介業者はそれを受けて、購入希望者として買主(不動産業者)を紹介した。

 不動産仲介業者は、売買契約書案を作成し、売主の意見を聞き、手直しを加えて売主に再確認するという作業を繰り返して、最終的な売買契約書案を作成したが、そこには買主が売買代金全額の支払をするのと引換えに、売主は本物件の所有権移転登記手続に必要な書類を交付することが記載されていた。

 平成24年7月、売主、買主、不動産仲介業者が集まり、本物件の売買契約の協議をしたが、売主が本人確認できる書類を持参していなかったことなどから、買主及び不動産仲介業者は、売主に対し、その日のうちに売買契約を締結することは無理であると告げた。

 しかし売主は、買主及び不動産仲介業者に対し、その日のうちに売買契約を締結して手付金を支払って欲しいとの要求をし続けた。

 協議が深夜に及び、売主の健康状態も心配されたため仮契約(本件仮契約)を締結することとし、買主は交付金(本件交付金)250万円を支払い、売主は「手付金の一部」と記載した領収書を交付した。

【本件仮契約の内容】

①本日、手付金の一部として250万円を買主は売主に渡します。

②売主は、買主に250万円の領収書を渡します。

③手付金残金など売買契約に関する諸条件については、平成24年9月初旬に両者が協議して決めることとします。

 その後、不動産仲介業者は契約条件を調整しようとしたが、売主は、買主より売買代金全額が支払われても、売主が引越を終えるまで、本物件の所有権移転登記手続を拒絶する旨を通知し、また、本件交付金を買主に返還することも拒絶した。

 買主は、売主に対し本件仮契約の解除及び本件交付金の返還を求めて提訴した。

【要旨と判決】

 裁判所は、次の通り判示し、買主の売主に対する請求を認容した。

 ⑴平成24年7月に作成された契約書は、「売買仮契約書」という題目自体、売買契約書そのものではなく、その前提となる契約であることを示す記載がなされている。

 記載された契約条項も、交付金の交付及び受領の確認と、仮契約締結後に協議が続けられることを定めたものとなっており、諸条件の協議が整えば売買契約を締結するという停止条件付きのもの又は売買契約締結に向けた協議継続の合意を表したものにすぎないと解釈されるべきである。

 また、不動産売買契約においては、買主が売買代金全額の支払をするのと引換えに売主から所有権移転登記手続に必要な書類を得て、同登記手続を完了することがほぼ例外なく必要になるのに対し、これを拒絶する売主の態度は本物件につき売買契約が成立したことと相反するものである。

 売主は、売買代金全額が支払われたとしても、本物件を所持し続けたいという意思を有していたものと推認され、売主に売買契約を成立させた自覚や売買契約上の債務の履行に備える自覚があったとは認められず、本件仮契約締結時に、本物件を買主が買い、売主が売るという意思の合致があったと認めることはできない。

 加えて、売主自身、本件交付金で手付金の交付は完了していないと認識していたと認められ、買主及び売主双方とも、本件仮契約締結時においては、手付金全額の交付という本物件の売買契約が成立したことを前提とした行為をしないことで合致していたと認められる。

 以上を照らせば、本件仮契約は、売買契約そのものではなく、買主及び売主に、売買契約成立のための準備を行う義務があることを確認した契約に過ぎず、本件交付金は、民法557条1項所定の手付金ではなく、売買代金の一部の前渡金に過ぎない。

 したがって、本物件についての売買契約は成立していないから、買主は、いわゆる手付流しによらなければ、売買契約を解除できない地位におかれているものではない。本件交付金は、買主と売主間における本物件についての売買契約が成立しないことが確定した場合には、買主に返還されるべきものである。

⑵仮契約書第3条の記載からすれば、売主自身、本物件の売買のためには、仮契約後も買主と協議を重ねなければならず、その協議が整わなければ、売買契約が成立に至らない可能性が残っていることを自覚していたと言わざるを得ない。

 さらに、売主は、本件交付金が手付金のすべてでないと認識していたのであるから、交付金が一種の前渡金であり、売買契約が成立しなければ返還しなければならない金員であることも自覚していたと認められる。

 これらのことと、仮契約書において、売買のための諸条件の調整時期が平成24年9月と定められていたことに照らせば、本件仮契約には、解除返金特約が付されていたというべきである。

 買主と売主との間において、売買契約に関する諸条件は、平成24年12月時点で調整できなかったのであり、買主は、解除返金特約により本件仮契約を解除し、本件交付金の返還を請求しうる。

 以上により、買主の請求は理由があるから認容する。

まとめ

 売買代金全額を支払ってもらい、引渡は自分が引っ越しを終えるまでという売主の主張はむちゃくちゃなように思えます。

 買主が不動産業者だったからでしょうか?

 ちなみに引渡日は、地震や台風の影響により交通機関が使えなくなった場合など、やむを得ない事由により延期になる事があります。

 契約書に記載してある引渡期日も、売主買主で話し合いができれば合意書で引渡期日を延期にする事も可能だったはずです。

 おそらく合意書が取れるような状況ではなかったのでしょう。

 今後、申込金の返還だけでなく、仮契約であっても返還される可能性があるという事の参考になる判例です。

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