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原野商法に関わった宅建士の損害賠償責任について

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原野商法に関わった宅建士の損害賠償責任について

 取引主任者(宅建士)の損害賠償責任について(東京地判平成2・9・25)

原野商法に関わった宅建士の損害賠償責任について

 「原野商法」とは、値上がりの見込みがほとんどないような山林や原野について、実際には建設計画等は無いにもかかわらず「開発計画がある」「もうすぐ道路ができる」などと嘘の説明をしたり、「将来確実に値上がりする」などと問題勧誘を行ったりして販売をする商法です。

 1970年代から1980年代にかけて被害が多発していましたが、近年でもまた原野商法による被害者が増えてきいます。

 原野商法の二次被害として、節税になると説明をされ、売った原野の価格より高い金額で他の価値の無い土地を買わされてしまうという事があります。

 この判例では、契約時に説明をした取引主任者(宅建士)も、原野商法を行った詐欺会社の幹部社員らと連帯して、損害賠償責任を負う事となっています。

事案の概要

 詐欺会社は、昭和57年頃会社ぐるみで北海道の土地について原野商法による売買を行っていたが、同年秋から翌年にかけて、原告である被害者に対して次の売買を行った。

 ①同年秋、幹部社員の指示により、アンケートに答えてくれた者を観劇に招待するとして、営業担当社員が11月14日被害者を詐欺会社の事務所へ連れ出し、虚偽の資料を示して、5年後には5倍以上の価格になる、買受後希望すれば売ってあげる、と3時間以上にわたり執拗に土地1の購入を勧め、被害者は、その話を信用してその場で契約し、翌日残代金を支払った。

 ②その直後11月21日、詐欺会社はホテルで土地購入者パーティを行い、その際のくじ引きの1等(賞品は詐欺会社売買物件を安く買う権利)に被害者が当たったとして、パーティー終了後ホテル内の喫茶店で1時間にわたり土地2の購入を勧め、被害者は、その話を信用してその場で契約し、翌日残代金を支払った。

 ③翌58年1月、被害者が幹部社員に購入した土地の説明を求めた際、①の虚偽の資料を用いて、土地3の購入を勧め、被害者は、その話を信用してその場で契約し、翌日残代金を支払った。

 ④同年12月、営業社員が被害者を被害者宅近くの喫茶店に誘い出し、①と同様に説明をして、土地4の購入を勧めた結果、被害者は、その話を信用してその場で契約し、翌日残代金を支払った。

 ⑤詐欺会社のただ一人の専任の取引主任者は、これからの取引において、重要事項説明を行った。

 ⑥代金の合計額は、580万円である。

被害者の主張

 被害者は、営業部長幹部社員に対し、不法行為責任を問うとともに、専任の取引主任者に対し、次の理由により、損害賠償責任を求めた。

 なお、詐欺会社社自身は被告になっていない。

 1.本件土地は、いずれも利用可能性及び換金可能性がなく、代金額の1%~25%程度の極めて価値の低い土地であり、数年後に数倍に値上がりする見込みはなかったにもかかわらず、虚構の事実をいい、誤信させて、買い受けさせた。

 2.専任の取引主任者は、これらの土地がいずれも無価値であることを知りながら、詐欺会社の一連の詐欺商法の一環として、本件契約に関与し、被害者の意思確定に大きく影響を及ぼしたから、共同不法行為者としての責任がある。

 3.また、専任の取引主任者は、唯一の取引主任者として、土地の価値が売買代金と比較して著しく不相当なときは被害者に説明する義務があるにもかかわらず、これを怠り、被害者に買い受けさせたものであるから、責任がある。

 4.これらの責任が認められないとしても、専任の取引主任者の行為は、幹部社員らによる取引の実行を容易にしたものであるから、不法行為の幇助者としての責任がある。

専任の取引主任者の反論

 専任の取引主任者の反論は、次のとおりである。

 1.専任の取引主任者の重要事項説明は、被害者が購入の意思を決定した後に行われたものである。

 2. 専任の取引主任者は、本件土地が無価値であることは認識しておらず(本件土地を自ら買い受けてももいる)、取引当時、本件土地が値上がりしないことは予見できなかった。

 3.また、取引主任者には、取引の対象物の価値が代金に見合うかどうかを説明すべき義務はない。

判決と内容のあらまし

判決は、次のような判断を下した。

(1)本件取引の違法性について

 判決は、本件取引の違法性について、「本件各取引は、抽選に当たったと称して観劇等に無料で招待する等の手段を用いて、被害者に対して自分が幸運であり、かつ、幹部社員をはじめとする詐欺会社の社員が信用できると思い込ませたうえで、被害者に対し、本件各土地がいずれも極めて価値の低い土地であり、値上がりの見込みもないのに、詐言(さげん)を弄(ろう)してこれがあがるかのように巧妙に見せかけたうえ、執拗に購入を勧誘して被害者を誤信させ、各土地を不法な高値で買い受けさせ、売買代金及び費用を騙取(へんしゅ)したものであり、しかも、上記行為は、いずれも詐欺会社において周到に計画を立てたうえで社員の間で役割分担をし、会社ぐるみで組織的に行っているものであって、極めて悪質で強度の違法性を帯びた行為である」としている。

(2)専任の取引主任者の責任について

 ①その上で、判決は、

 上記一連の原野商法の過程において、専任の取引主任者は、被害者らが土地を買い受ける気持ちになった後、契約書を作成する直前に、自らが作成した重要事項説明書を被害者らに対して交付して重要事項について説明する役割を担っていたこと

 詐欺会社が一連の原野商法を実行しこれにより利益を上げるためには、適法な取引たる外観を作り出して、被害者を欺もうとする必要があり、そのためには宅地建物取引主任者が存在し、かつ、その者が被害者に対し重要事項の説明をすることが必要不可欠であったと認められること

 専任の取引主任者は、被害者に対して直接口頭で重要事項の説明をすることこそしなかったものの、詐欺会社における唯一、専任の宅地建物取引主任者として、売買契約書をチェックしてこれに記名押印し、被害者に対し、重要事項説明書を作成して営業担当社員らを通じて交付する形で関与したこと

からすると、「専任の取引主任者は詐欺会社が会社ぐるみで行った原野商法の重要な一部分を担ったものと評価するのが妥当である。」

 ②また、証拠からすれば、「専任の取引主任者は、自己がそのような役割を果たしていることを十分認識、容認していたと認められ、かつ、本件各土地の価値が極めて低く、各取引の当時においても価格の高騰は到底見込めなかったことについても認識し、または、少なくとも認識できなかったことについて重大な過失があったと認められる。

 ③これらを「総合考慮すれば、たとえ専任の取引主任者の行為と被害者の損害との間に厳密な意味での個別的因果関係が認められないとしても、専任の取引主任者は主観的共同による共同不法行為者として、本件取引において被害者が被った被害について、幹部社員らと連帯して、損害賠償責任を負う」をした。

 ④また、「専任の取引主任者の行為が幹部社員らが被害者との間で本件各取引を行うことを容易ならしめたことは明らかである」ので、「専任の取引主任者が幹部社員らの行った不法行為の幇助者として被害者が被った損害について幹部社員らと連帯して、損害賠償責任を負うことは言うまでもない」としている。

 ⑤以上により「専任の取引主任者は被害者に対し、代金額及び登記費用、弁護士費用を合わせ、金649万8660円及びこれに対する昭和59年3月1日から支払い済まで年5分の割合による金員を支払え」と言い渡した。

まとめ

 「上手い話には裏があります。」5年後には5倍以上の価格になるなら不動産業が手放す理由がありません。

 原野や山林を相続した人は買い手が見つからず、高い固定資産税だけ支払う事になったりして困っていたりします。原野商法はそういった悩みに漬け込む悪質な詐欺です。

 また、そのような詐欺に加担した宅建士も同罪とみなされるという判例です。

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