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家賃滞納トラブル、借主の部屋の鍵をかってにロックすると【判例解説】

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家賃滞納トラブル、借主の部屋の鍵をかってにロックすると【判例解説】

 賃料滞納を理由に貸主及び保証会社から追い出された借主による損害賠償請求が一部認容された事例(大阪地判 平25・10・17)

家賃滞納トラブル、借主の部屋の鍵をかってにロックすると【判例解説】

 不動産トラブルの中でも特に多いのが家賃滞納に関するものです。賃貸物件のオーナーもローンを組んで購入している方が多いため、滞納をされるとローンを支払えなくなる方もいます。

 オーナーからすると、家賃を払わないのに居座る借主に対して腹が立ち、早く出ていってほしいと考えるのも当然の事だと思います。しかし、「鍵を交換して入れなくする」「借主を脅して部屋から追い出す」「借主の留守中に勝手に荷物を部屋の外へ出す」等の法的な手段や手続きを飛ばして解決しようとする自力救済は違法行為となります。

 感情的にならず、滞納している入居者と腰を据えて話し合いをしていくしかなさそうです。

事案の概要

 借主(原告)は、平成22年3月6日、貸主(被告)との間で、本件物件について、下記内容の賃貸借契約(以下「本件契約」という)を締結した。

 ・賃料:月額8万2000円

 ・共益費:月額1万2000円

 ・保証会社(被告、保証会社)への事務手数料:月額4500円

 借主は、平成22年3月6日、保証会社との間で、保証委託契約(以下「本件委託契約」という)を締結した。本件委託契約に基づく委託料は月額4500円(上記の事務手数料)であった。

 その後、借主は、貸主に対し、平成22年10月分の賃料等9万8500円を滞納し、同年11月26日までに分割で支払った。

 借主は、さらに、同年11月分以降の賃料等を支払わなかったため、保証会社の代表取締役は、平成22年11月30日、借主に対して、本件契約を解除する旨の意思表示をし、鍵ロックを付けて借主が本件物件に立ち入ることを不可能にした。

 そこで、借主は、保証会社の代表取締役及び貸主の従業員から追い出されたことにより、財産的損害及び精神的損害を被ったとして、民法709条等に基づき、損害相当額137万5000円の連帯支払を求めて提訴した(甲事件)。

 これに対して、貸主は、借主に対し、賃料等合計9万8500円の支払いを求めるとともに、明渡債務の履行遅滞に基づく賃料等の損害金103万4000円などを求めて提訴した(乙事件)もの。

判決と内容のあらまし

 裁判所は以下のとおり判示して、借主の請求を一部認容した。

争点①(借主に対する追出し行為等の内容及び加害行為該当性)について

 ・保証会社の代表取締役及び貸主の従業員による暴言について保証会社の代表取締役及び貸主の従業員が、平成22年10月19日以降、借主に対して、「11月中に出て行け」、「必ず放り出します」、「荷物出して捨てるぞ」、「どこの組のもんや」等、借主の主張のような発言をしたことは当事者間に争いがない。

 保証会社の代表取締役が、本件物件の玄関ドアの鍵穴に本件鍵ロックを取り付けたことにつき当事者間に争いがないところ、保証会社の代表取締役らは、本件鍵ロックは簡単に外れるものであったとして、借主を入居不可能にはしていないと主張するが、認定事実、供述等から、本件鍵ロックが容易に取り外しができるものであったとは認められず、本件鍵ロックによって、借主は本件物件内への立入りが不可能となったものと認められる。

 以上のとおり、保証会社の代表取締役及び貸主の従業員らによってなされた暴言行為、本件鍵ロックの取付け、本件物件内への立入行為及び鍵の付替えが借主に対する加害行為に該当することは明らかである。

争点②(追出し行為等の違法性阻却事由)について

 被告らは、本件物件への立入行為等は、本件物件の正当な管理権の行使として違法性を欠くと主張する。

 しかし、自力救済にあたるようなかかる行為は、原則として法の禁止するところであり、ただ、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において、その必要の限度を越えない範囲内でのみ例外的に許されるにすぎない(最高裁昭和38年(オ)第1236号同40年12月7日第三小法廷判決・民集19巻9号2101頁参照)ところ、本件では、そのような特別の事情は何ら認められないから、自力救済は許されず、本件物件への立入行為等は本件契約の解除の効力の有無にかかわらず、違法な行為であ

争点③(過失相殺)について

 法的手続によることなく、借主に対して本件物件からの退去を迫る一連の違法な行為は何ら正当化されず、借主による賃料等の不払をもって過失相殺すべきものとはいえない。

争点④(損害の有無及び額)について

 ・財産的損害については、立証する客観的な証拠がないから認めることはできない。

 ・精神的損害については、借主は約8か月もの間、本件物件での居住を妨害されたものであり、これらによって借主は生活に多大な不便を強いられ、名誉感情を傷つけられたものと認められるところ、これらにより借主は多大な精神的苦痛を受けたものというべきであり、慰謝料額は80万円と認めるのが相当である。

 ・弁護士費用相当損害金損害は8万円と認めるのが相当である。

争点⑤(貸主の借主に対する平成22年11月分の賃料等の請求の可否)について

 借主は貸主に対し、平成22年11月1日から同月29日までに相当する賃料及び共益費合計9万867円を支払う債務を負うものと認めるのが相当である。

争点⑥(本件契約は平成22年11月30日に解除されたか)について

 借主が遅滞していた賃料等は1か月分にすぎなかったのであるから、これをもって本件契約における借主及び貸主間の信頼関係が破壊されていたと評価することはできず、本件契約が解除されたとは認められない。

争点⑦(貸主の請求できる賃料等)について

 上記⑤以外に、貸主の請求出来る賃料(計算省略)は、25万2385円となる。以上を勘案すれば、借主の請求(甲事件)は、被告らに対し、連帯して、88万円の支払を求める限度で理由があり、貸主の請求(乙事件)は、借主に対し、34万3252円の支払を求める限度で理由があるので認容する

まとめ

 鍵にロックをかけて入れなくする行為や脅迫等は違法行為ですが、1ヶ月の滞納でそこまでするのは少し早すぎのような気もします。

 結果として滞納額以上の賠償金を支払わなければいけなくなってしまう事もあります。

 感情的になり、自力救済をしたくなる気持ちは分かりますが、冷静になり、借主が話し合いにも応じないようであれば弁護士に相談して、法的な手段で解決へと話しを進めていきましょう。

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