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検査済証の説明義務違反で、借主から1億1125万の支払い請求をされた事例

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検査済証の説明義務違反で、借主から1億1125万の支払い請求をされた事例

 建物賃借人が利用目的を達することができなかったことについて媒介業者に注意義務違反が認められた事例(東京地判平28・3・10)

検査済証の説明義務違反で、借主から1億1125万の支払い請求をされた事例

 宅建業者の注意義務違反によるトラブルは実際によくあることです。

 特に事業用賃貸物件に関しては、問題があった場合に損害賠償額も高額になります。

 この判例では、注目な点は貸主側の媒介業者は検査済証がないことを知っていて、それを事前に借主側の媒介業者に伝えていたにも関わらず、貸主側の媒介業者にも注意義務違反があったとされた点です。

事案の概要

 平成25年4月頃、貸主(被告・個人)は、某社が施工した東京都某区内の建物(平成12年築)の1階店舗部分について、某社の関連会社である宅地建物取引業者(被告・法人、以下「貸主側媒介業者」とする)に対してテナント斡旋を依頼していた。

 一方、介護事業者の借主(原告・法人)は宅地建物取引業者(被告・法人、以下「借主側媒介業者」とする)に対して、介護施設用物件の探索を依頼していた。

 同年7月、貸主側媒介業者及び借主側媒介業者の媒介により、貸主と、借主との本件建物の賃貸借契約が締結され、本件建物が借主に引渡された。

 借主はその直後から内装工事に着手した。

 同年8月に借主が所轄消防署に訪問した際に、某区建築課と協議するように指示されたため、同課を訪問したところ、床面積が100㎡を超える場合には用途変更が必要になる旨の説明を受けた。

 借主は、同年11月に内装工事を完了させるとともに、施設開業の申請をするために、借主側媒介業者を通じて貸主側媒介業者に、建物の確認済証と検査済証の提出を要請したところ、確認済証はあるが、検査済証はないとの回答を受けた。

 同年12月に借主は、建築士に調査を依頼したところ、賃借部分を介護施設として使用するには用途変更の確認申請が必要になるが、検査済証がないため現状ではその申請ができないこと、その対応として、建築基準法上の調査報告制度の利用が考えられるが、建物の現況が建築基準法等に適合しない点があることが指摘された。

 これを受けて借主は貸主に対して、介護施設開業に向けてどのように対応するか回答を求めたところ、貸主は、介護施設として使用可能にする義務はない旨回答した。

 平成26年3月、借主は貸主・貸主側媒介業者及び借主側媒介業者に対して、内装工事費用や支払済賃料、仲介手数料、逸失利益等として、1億1125万円余の支払いを求めて本訴を提起し、同年10月に建物を明渡した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、借主の貸主に対する請求を棄却する一方、貸主側媒介業者及び借主側媒介業者に対する請求を一部認容した。

⑴貸主側媒介業者及び借主側媒介業者の注意義務違反について

 借主側媒介業者は、借主の使用目的が介護施設であったことを認識しており、貸主側媒介業者から他の介護施設としての利用目的での照会があった相手先に、検査済証がない旨を告知するとするとすべて見送られていたことを聴取していたが、借主にこれを伝えていなかったことが認められる。

 仲介業者であれば、使用目的によっては用途変更確認が必要となり、その手続きに検査済証が必要となることは、基本的な知識といえるし、その知識を欠いていたとしても、貸主側媒介業者からの情報をもとに介護施設として使用することに疑問を持ち、その原因を調査する義務を負っていたというべきである。

 したがって、こうした障害を知り、あるいは容易に認識し得たのに、これを借主に告知しなかった仲介業者の委任契約上の責任は否定できない。

 貸主側媒介業者は、借主側媒介業者に検査済証がないことを伝えていたことは認められるが、そのことを聞いた借主があえて契約締結を希望することに疑問を持つのが通常であり、少なくとも賃貸借契約締結の際には、借主に直接これを伝え、確認する機会があったことから、注意義務を履行したことにはならない。

⑵貸主の債務不履行について

 借主と貸主の間に、調査報告制度を利用して用途変更確認を受けられる状態に貸主がしておくことの明確な合意があったわけでもなく、貸主は借主に建物を現状有姿で引渡せば足り、貸主に債務不履行があったとは認められない。

⑶損害額について

 貸主側媒介業者及び借主側媒介業者が賠償すべき損害の範囲は、借主が本件建物で介護施設を開業し得ると信頼したことにより支出した費用に限られ、逸失利益はこれに含まれず、また、借主が建築士に建物調査を依頼した以降に支出したものも、同様である。

 したがって、貸主側媒介業者及び借主側媒介業者の注意義務違反と相当因果関係がある損害は、支払済賃料、仲介手数料、内装工事費用等4155万円余なる。

 ただし、用途変更確認申請は,本来工事に着手する前に借主において行わなければならない手続であるから、工事が完了するまでそれを放置した借主に、上記損害の発生ないし拡大について、一定の過失があることは否定できず、その過失割合は、3割とみなすのが相当であり、借主が貸主側媒介業者及び借主側媒介業者に請求し得る金額は、2909万円余と弁護士費用の一部の計3199万円余となる。

まとめ

 「仲介業者であれば、使用目的によっては用途変更確認が必要となり、その手続きに検査済証が必要となることは、基本的な知識といえる」とありますが、実際にこれを知っている営業マンはどれくらいいるでしょうか?

 この手の注意義務違反をしてしまった場合、小さい会社であれば倒産してしまうレベルの損害賠償額です。

 また、取引に関わった営業マンもクビもしくは、数十年間給料から賠償金を天引きされ続けます。

 宅建士の試験にも、こういった実務で非常に重要な知識を勉強できる問題を出題してもらいたいものです。

 共同仲介の場合、「一方の業者に伝えたから大丈夫」とはならない事がよく分かる事例です。

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