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私道の通行妨害、工作物の撤去が認められた事例

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私道の通行妨害、工作物の撤去が認められた事例

 二項道路に指定された私道の所有者による通行妨害について、妨害排除請求権に基づく工作物の撤去が認容された事例(大阪高判 平26・12・19)

私道の通行妨害、工作物の撤去が認められた事例

 最高裁平成9年12月8日判決では「人格権的権利」という表現で私道通行権を初めて肯定しています。

 最高裁判所は「日常生活上不可欠の利益を有する者は、敷地所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなど特段の事情のない限り、妨害行為(自動車を全面的に通れないようにする簡易ゲートなどの設置)の排除や将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するとした。」と判示しています。

 通行禁止請求については、裁判所の判断も分かれており、私道所有者の請求が必ず認められるとは限りません。

事案の概要

 氷雪等販売の経営者(原告控訴人、以下「経営者」という)の敷地は借地で、敷地所有者(被告被控訴人)の所有地に属する通路を含む建築基準法42条2項道路に指定された私道に面している。

 経営者は、本件道路を営業用車両等の通行に利用して店舗の営業を行っていた。

 なお、本件道路は、その東西で公道に通じているが、東側出口付近では幅員が狭くなっており、自動車での通行は西側部分を利用するほかなかった。

 敷地所有者は、本件通路を含む土地を平成16年12月に売買により取得したが、売買に際し、宅地建物取引業者から、約23.89㎡の「私道負担」がある旨を記載した重要事項説明書の交付を受け、本件通路が古くから存在し、これが近隣住民等の通行の用に供されていることを知っていた。

 敷地所有者は、取得した本件土地を駐車場使用目的で賃貸し、駐車場の拡幅のために本件通路を駐車場にする工事をしようとしたが経営者等の周辺住民の抗議により工事することができなかった。

 敷地所有者は、経営者に対し、本件通路に貨物自動車で乗り入れないように申し入れ、その後、本件通路に車止めブロック等を設置し、本件道路の中心線にロープを張った。

 これにより、経営者は、製氷業者の貨物自動車が本件道路を通行できなくなり、西側公道入口付近に車両を駐車し、手押し台車を使用して店舗内に搬入する作業を余儀なくされ、人件費を削減するために氷の仕入量を減らさざるを得ない状況に追い込まれた。

 経営者は、敷地所有者に対し、本件通路に設置された工作物等により店舗から西側公道までの本件通路の通行を妨害されたとして、人格的権利等に基づく妨害排除請求及び同予防請求として、工作物等の撤去及び通行妨害予防を求めて提訴した。

 これに対し、原審は、経営者は、現在も営業を継続しているから、本件通路を通行できなくなったことで、経営者の日常生活上不可欠の利益が害されているとはいえないとして、経営者の請求を棄却した。

 経営者は、これを不服として控訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のように判示して、控訴人の請求を認容した。

 控訴人は、本件道路を貨物自動車で氷を搬入、搬出することによって、その営業を営んでいて、控訴人が本件道路を貨物自動車等で通行する営業上の利益を有するところ、その利益は控訴人の日常生活上不可欠なものといえる。

 他方、敷地所有者である被控訴人が上記通行を受忍することによって受ける不利益は大きなものではなく、被控訴人は控訴人の通行利益を上回る著しい損害を被るとは認められない。

 したがって、控訴人は控訴人賃借土地の賃借権者であるが、その人格権的権利に基づく妨害排除請求権として、本件工作物等を所有する被控訴人に対し、本件通路上に置かれた本件工作物等の撤去を求めることができる。

 また、上記認定の経過によれば、今後、被控訴人が本件工作物等の設置と同様の形態により控訴人の通行を妨害する危険性が十分に認められるから、通行妨害予防請求権に基づき本件通路部分について本件工作物等その他通行の妨害となる車止めブロック、立体ブロック及びポール等を設置することの禁止を求めることができる。

 以上によれば、被控訴人の控訴人に対する人格権的権利に基づく妨害排除請求はこれを認容し、同予防請求は、上記の限度で理由があるからこれを認容する。

まとめ

 日本はじめ近代国家では、自力救済(じりききゅうさい)は原則として禁止されています。他人が私道を通行するのを見つけた後に、障害物を設置して私道の通行を妨害することは認められません。

 自力救済というのは、自らの力で被害を回復し、または権利を実現することをいいます。

 私道の出入口に「私道につき通り抜け禁止」等の看板を設置するくらいに留めておきましょう。

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