事故物件 判例解説 賃貸

自殺遺族への損害賠償金はいくらになるか?貸主の行き過ぎた損害賠償請求

  1. HOME >
  2. 事故物件 >

自殺遺族への損害賠償金はいくらになるか?貸主の行き過ぎた損害賠償請求

 心理的瑕疵による土地建物減価をもって貸室内の自殺事故と相当因果関係が認められる損害とはいえないとした事例(京都地判平29・12・13)

自殺遺族への損害賠償金はいくらになるか?貸主の行き過ぎた損害賠償請求

 賃借人が室内で自殺した場合、賃貸借契約の債務不履行を構成し連帯保証人は、損害賠償債務について保証債務を負うことになリます。

 では、賃貸物件の土地が共有名義で、建物が共有者の内一人の名義の場合はどうでしょうか?

 判例では、「賃借人が賃貸目的物でもない本件建物全体やその敷地について本件賃貸借契約に基づき善管注意義務を負うと解すべき理由はない。」とされています。

 また、このような事案の場合、4月に改正された民法はどのように適用されるのかは注目をしているところです。

事案の概要

 賃貸人(原告)は、賃貸人の姉妹(原告)と共有する土地上に、共同住宅(5戸)を建築し、保有していた。

 賃貸人は、平成22年10月26日、賃借人(被告:連帯保証人、賃借人の母)との間で、共同住宅の一室(1K)を次の約定で賃貸する旨の契約を締結し、本件貸室を引き渡した。

〇期間:2年

〇賃料:36,000円

〇共益費:3,000円

〇敷金:70,000円

〇本件賃貸借契約は3回更新されたが、賃借人は、平成27年9月27日頃、縊死(いし)した。

 翌28日(月曜日)、賃借人の無断欠勤について勤務先から連絡を受けた連帯保証人は警察に連絡し、同日午後10時頃、賃貸人から鍵を借り受けた警察官が施錠用チェーンを切断して本件居室内に立入り、賃借人が死亡しているのを発見した。

 事件から3か月後、賃借人らは訴外買主に対して本件土地建物を2,000万円で売却した。

 賃借人らから媒介を依頼された仲介業者は、連帯保証人に面談して賃借人の死因を問い質したが、連帯保証人は病死であると主張した。

 しかし、賃借人らと仲介業者は買主に対し、重要事項説明書ほかの書面にて、賃借人の死因は自殺の可能性がある旨の説明をしていた。

 平成28年10月、賃借人の自殺は債務不履行及び不法行為に該当するとして、賃貸人が連帯保証人に対して、債務不履行による貸室の修理・リフォーム費用、室内クリーニング費用12万円余、逸失利益として10年間分の賃料相当額468万円余の損害賠償を、連帯保証契約に基づき保証履行請求すると共に、本件土地建物が減価する損害1340万円余が生じたとして、当該減価を賃貸人と賃貸人の姉妹が土地の持分に応じて賃借人の相続人である連帯保証人、賃借人の母それぞれに対し、平成27年9月28日から支払済みまでの遅延損害金を含めた支払を求め、提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、賃借人らの請求の一部を認容した。

 ⑴賃借人は単に物理的破損・汚損のないよう当該居室を管理するだけでなく、心理的嫌悪感を生じさせるような自殺行為に及ばないことも善管注意義務の一内容を構成すると言うべきである。

 賃借人が本件居室内にて自殺したことは、本件賃貸借契約の債務不履行を構成し、連帯保証人は、損害賠償債務について保証債務を負うことになる。

 賃借人が賃貸目的物でもない本件建物全体やその敷地について本件賃貸借契約に基づき善管注意義務を負うと解すべき理由はない。

 賃借人らは賃貸借契約上の保護義務が、建物賃貸人以外の第三者の建物敷地共有持分にも及ぶ旨主張するが、賃借人が賃貸借契約関係に無い賃貸人の姉妹に対して、本件賃貸借契約上の債務を負う理由はない。

 ⑶賃借人らは、本件土地建物を、土地の価格については取引相場価格から5割減価が相当とした仲介業者の査定に、概ね沿うようにして売却したことが認められるが、賃貸用の共同住宅の一室で自殺事件が発生した場合に、当該事件から間もない時期に所有者が土地建物全体を売却することが通常一般的に発生する事態であるということはできず、事件当時、賃借人において賃借人らが本件事件から間もない時期に本件土地建物を売却することを予見可能であったと認めるに足る証拠はなく、そうすると、本件土地建物の本件事件前の価格と本件事件後の価格との差額(減価額)の発生をもって本件事件と相当因果関係のある損害ということはできない。

 ⑷賃借人らは本件土地建物の帯びた心理的瑕疵は永続し、収益低下、ひいては交換価値の低下の影響がかなりの長期間にわたり存続する旨主張するが、本件建物において入居者の入居期間は短期であるなどの事情から、その影響は比較的短期間であるといえる。

 ⑸賃借人が本件居室内にて自殺したことは、本件建物所有者である賃貸人との関係で不法行為は成立するものの、土地の所有者にすぎない賃貸人の姉妹との関係で不法行為は成立しない。

 ⑹本件事件と相当因果関係の認められる損害は、当該居室の賃料収入に係る逸失利益として77万円余(当初1年間は8割程度の減収、その後2年間は5割程度の減収が生じると考え、中間利息控除)、ドアチェーン交換費用1万円余、床リフォーム費用8万円余、室内クリーニング費用3万円余の計90万円余を認容する。

まとめ

 2020年4月に民法改正され、「極度額の設定」と「保証人への情報提供義務」の追加され、保証人の保護が強化されました。

 賃貸契約では今だ連帯保証人が必要なケースがほとんどです。保証人になる側からすると極度額の設定がある事は安心ですし、今までこれがなかったのが不思議なくらいです。

 ただ、今回の民法改正は保証人にはメリットがありますが、賃貸人からするとデメリットでしかないでしょう。

 自殺や孤独死はどんな場所でも起こりうる事です。これからは、万が一に備えて自殺や孤独死に対応する保険に加入しておくのも良いかもしれません。

【関連記事】

殺人?心中?損害賠償請求が棄却された事例

民法改正をわかりやすく解説。賃貸借2つのルール

賃借人の賃料減額請求を認容した事例

-事故物件, 判例解説, 賃貸

Copyright© クガ不動産【不動産裁判例の解説】 , 2024 All Rights Reserved