賃借人の賃料減額請求を認容した事例(京都地判平成8年5月9日)
家賃減額請求が認められた判例
住宅についての家賃の減額請求については、訴訟費用もかさむ為、裁判になること自体が少ないです。
また、家賃減額請求が認められ賃借人が勝訴したというこの判例は珍しいケースです。
弁護士費用や、不動産鑑定士に依頼する費用、訴訟にかかる時間を考えると、金銭面での損得以上の何かが目的でなければこういった裁判は怒らないのではないかと思います。
事案の概要
賃借人ら4人は、京都市内の9階建マンション(商業地域内9階建、昭和55年8月建築)を貸主業者から家賃月70,500円~85,000円で賃借していたところ、平成6年、貸主業者から76,000円~87,500円に値上げを求められた。
賃借人らは、逆に63,450円~76,100円に値下げを求めて、家賃減額請求訴訟を提起し、貸主業者は、増額請求の反訴を提起した。
賃借人らは、平成4年から平成6年にかけて、本件建物敷地の路線価は64.8%、また、近隣土地の公示価格も69.5%下落し、京都の賃貸マンションの家賃も10~15%下落したと主張した。
貸主業者は、本件建物の家賃改定はバブル期にもその急騰を反映せず、京都市の家賃指数をもとに改定してきたが、平成4年から6年にかけて、京都市の家賃指数は上昇していると主張した。
判決と内容のあらまし
(1)一般に、従前の家賃決定時から相当期間が経過し、その間に、租税その他の負担の増減、土地建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動、近隣の家賃の変動等の事情変更があったために、従前家賃が不相当となった場合には、当事者は、その増減を請求することができる」とした上で
(2)本件建物の適正継続家賃について
①基礎価格(敷地の再調達価格と建物の減額修正した再調達価格を階層別価格と建物の減額修正した再調達価格を階層別効用比、面積割合を乗じて得た価格)に期待利回り率(年09%)を乗じて「年間純家賃」を算定し、これに必要諸経費を加算して、「正常実質家賃」を求め、
②差額分配法(正常実質家賃と実質支払家賃の差額を折半法で配分)、利回り法、スライド法(物価指数9、地価指数1として変動率-0.3%)による家賃を試算し、
③これらの割合について、差額配分法と利回り法は地価の急騰、急落を受けやすく、賃貸物件の使用価値の変動を必ずしも反映しない面があることを考慮して、スライド法5、差額分配法3、利回り法2の割合とするのが相当であるとして、
④適正継続家賃は、それぞれ81,500円、70,000円、75,000円、82,500円であるとし、
賃借人1 | 賃借人2 | 賃借人3 | 賃借人4 | |
正常実質家賃 | 116,000円 | 100,000円 | 107,000円 | 105,000円 |
差額分配法 | 99,700円 | 85,000円 | 91,000円 | 95,000円 |
利回り法 | 67,000円 | 58,000円 | 62,000円 | 68,000円 |
スライド法 | 77,000円 | 66,000円 | 71,000円 | 81,000円 |
適正継続家賃 | 81,500円 | 70,000円 | 75,000円 | 82,500円 |
従前家賃 | 81,000円 | 70,500円 | 74,500円 | 85,000円 |
差額 | 500円 | △500円 | 500円 | △2,500円 |
(3)従前家賃に対して
①賃借人1、賃借人2、賃借人3については、金額で500円、率にして6~0.7%の差に止まるから、従前家賃が不相当になったとは認められないとしたが、
②賃借人4については、金額2,500円、率にして2.9%の差があるから、減額されるべき程度に至っているとして、
(4)賃借人4について、家賃を減額して月82,500円とし、その他の者については、据え置きを命じた。
まとめ
賃借人が結果として勝訴していますが、減額請求が認められたのは4人のうち1人だけ、訴訟費用と比べると月2,500円の減額は割に合うものだったのでしょうか?
弁護士や不動産鑑定士等の専門家と相談して、家賃の減額金額が多きかったり、また家賃減額以外の目的があるのであれば行動を起こしてもみるのも良いかもしれません。
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