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最高裁判例、定期借家契約には契約書とは別個独立の書面が必要

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最高裁判例、定期借家契約には契約書とは別個独立の書面が必要

 借地借家法38条2項所定の書面は、賃借人(事業者)が契約更新がなく期間満了で終了すると認識していたとしても、契約書とは別個独立の書面とすることを要するとした事例(最高裁平24・9・13)

最高裁判例、定期借家契約には契約書とは別個独立の書面が必要

 定期借家契約を有効なものにする為には、契約書とは別個独立の書面が必要であるという事が最高裁の判決で確立されています。

 契約書や重要事項説明書に定期借家契約に関する文言があったとしても無効になる可能性があります。

 別個独立の書面に関しては、国土交通省のHPより下記「定期賃貸住宅契約についての説明」をダウンロードし、その書面に記載のある内容を基に、契約の更新がないこと、期間の満了により借家関係が確定的に終了することなどを賃貸人から賃借人に説明を行います。

 仲介者が賃貸人の代理人として、定期建物賃貸借契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明をすることも可能ですが、賃貸人には「説明義務は賃貸人にある」ということをしっかり理解していただく必要があります。

事案の概要

 

⑴契約締結から契約終了の旨を通知するまで

 賃借人(上告人)は、貸室の経営等を業とする会社であり、本件建物で外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる。

 賃貸人(被上告人)は、不動産賃貸等を業とする会社である。

 賃貸人は、平成15年7月18日、賃借人との間で、「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし、期間を同日から平成20年7月17日まで、賃料を月額90万円として、本件建物につき賃貸借契約を締結した。

 本件契約書には、本件賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨の条項(以下「本件定期借家条項」という。)がある。

 賃貸人は、本件賃貸借の締結に先立つ平成15年7月上旬頃、賃借人に対し、本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し、賃借人は、同原案を検討した。

 賃貸人は、平成19年7月24日、賃借人に対し、本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。

⑵原審の判決

 原審(東京高裁)は、次のとおり判断した。

 賃借人代表者は、本件契約書には本件賃貸借が定期建物賃貸借であり契約の更新がない旨明記されていることを認識していた上、事前に契約書の原案を送付され、その内容を検討していたこと等に照らすと、更に別個の書面が交付されたとしても本件賃貸借が定期建物賃貸借であることについての賃借人の基本的な認識に差が生ずるとはいえないから本件契約書とは別個独立の書面を交付する必要性は極めて低く、本件定期借家条項を無効とすることは相当でない。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のように判示し、原判決を破棄し、第1審判決を取り消し、賃貸人の請求を棄却した

 期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(借地借家法38条1項)、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項)、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)

 同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。

 同条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、契約の更新がなく期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである

 紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、契約の締結に至る経緯、契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。

 したがって、法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。

 本件契約書の原案が契約書とは別個独立の書面であるということはできず、他に賃貸人が賃借人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。

 なお、賃借人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。

 そうすると、本件定期借家条項は無効というべきであるから、本件賃貸借は、定期建物賃貸借に当たらず、約定期間の経過後、期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。

まとめ

 定期借家は、不動産業者であれば誰でも知っている事ですが、一般の方はまだ知らない方も多いです。

 賃貸人が定期借家にするの理由は、持ち家のある方が転勤で家を一時的に離れるため、不在期間に貸し出すことで賃料を住宅ローンの支払いに充てる為であったり、遠方にある実家が空き家になり、自分が住み継ぐまで定期借家として活用したなどの理由があります。

 こういった方の多くは、もともと大家になろうと思っていた方ではなく、定期借家についても詳しく知らない方が多いです。

「契約書とは別個独立の書面」が必要

「説明義務は賃貸人にある」

 という事は最高裁の判例でも確立されていることですので、賃貸人にはしっかり理解してもらう必要があります。

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