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医師の死体検案書では自殺、裁判所は自殺と認定できないとした事例

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医師の死体検案書では自殺、裁判所は自殺と認定できないとした事例

 死体検案書では睡眠薬中毒による自殺という記載があったが、事実認定により自殺があったとはいえないとして瑕疵担保責任が否定された事例(東京地判平22・1・15)

医師の死体検案書では自殺、裁判所は自殺と認定できないとした事例

 事故物件にもいくつか種類があり、病死や孤独死ですぐに発見されたくらいであれば大丈夫と考える方も多いです。

 しかし、事故物件になった理由が自殺となると「夜中に亡くなった人が化けて出てくるのではとか?」とか「呪われてしまうのでは?」などと考えている方も多いかと思います。

 この判例では、監察医が作成した死体検案書に死因の種類は「自殺」である旨の記載あったにもかかわらず、裁判所が「死体検案書の記載は死体を検案した医師の所見であって、民事訴訟において、その記載を直ちに事実として推認するものではない」とし、「自殺か否かの認定は、死亡前後、死亡時の状況を総合考慮して判断されるべきものである」とされています。

 死亡前後の状況が考慮された結果、中毒死ではあるが「自殺によるものであったと認めることはできない」と判決された珍しい事例です。

事案の概要

 本件は被告不動産投資会社(不動産投資等を目的とする株式会社)から土地及び建物を買い受けた原告買主(溶接亜鉛メッキの製造等を目的とする株式会社)が、購入後、かつて本件建物内で自殺をした者がいることが判明し、隠れたる瑕疵が存在していたと主張し、不動産投資会社に対し、4500万円の損害賠償と遅延損害金の支払とを求めた事案であり、主な事実関係は下記のとおりである。

 (1)本件不動産(土地・建物)は、買主が、平成19年12月21日、買主(溶接亜鉛メッキの製造等を目的とする株式会社)の代表者家族が居住する目的で、不動産投資会社から、代金1億8300万円で買い受けたものであるが、それ以前の本件不動産の所有関係・利用関係等は下記のとおりである。

 ア.補助参加人であるA社(服飾品の製造・販売等を目的とする会社)親会社で、A社の代表者が代表を務めるC社は、平成7年3月6日、本件土地を購入し、A社の代表者が本件土地上に本件建物を新築し、A社の代表者の妻(以下「代表者の妻」という。)らとともに住居として使用していた。

 本件建物は、平成15年11月20日、親会社であるC社に譲渡された。

 イ.本件不動産は、平成19年1月31日、C社からA社に売却され、A社は、同年8月31日、本件不動産を不動産投資会社に売却した。

 (2)その後、代表者の妻が、平成13年3月7日、本件建物内で死亡したことが判明した。

判決と内容のあらまし

 本件では、代表者の妻の死体検案書において、代表者の妻の死亡の原因は「睡眠薬中毒」であり、死因の種類は、「自殺」である旨の記載があるが、裁判所は、死体検案書の記載は死体を検案した医師の所見であって、民事訴訟において、その記載を直ちに事実として推認するものではなく、特に、死因が意思的なものである自殺か否かの認定は、死亡前後、死亡時の状況を総合考慮して判断されるべきものである。」とした上で、下記のように事実認定をし、本件不動産においては過去に自殺した者がいたという瑕疵は認められないとした。

(1)代表者の妻の死亡前後、死亡時の状況

 ア.代表者の妻は、ヒステリー(現在の身体表現性障害)に罹患しており、平成12年11月ころから通院し、投薬治療を受けていた

 代表者の妻が最後に受診したのは、平成13年2月16日であり、睡眠導入剤等が2週間分処方されたが、このときには病状は安定していて悪くない状況であった。

 イ.C社では、同年3月6日及び7日に、代表者の妻の企画・立案した新商品を披露し、受注を獲得するための重要な機会であり、同社にとっての最大のイベントである展示会が開催される予定であった。

 ウ.代表者の妻は、同月3日には体調不良を訴え、同月6日、展示会に参加したものの、病院で治療を受けた。

 しかし、帰宅後は明日も展示会に出ると言い、知人と近所の居酒屋に飲みに行くような状態であった。

 エ.代表者の妻は、同月7日、朝から具合が悪く、展示会の2日目を欠席した。

 オ.同日夜、A社の代表者が帰宅した時、代表者の妻は、5階の和室で座ったままうつ伏せになって倒れており、救急車が到着したが、既に死亡していることが確認された。

 カ.救急車の臨場後、警察官が本件建物に臨場し、代表者の妻が倒れていた和室に薬のシートが散乱していたことを確認し、調書にとどめ、監察医は、代表者の妻の死体を検案し、上記調書の記載に基づき、死体検案書を作成した。代表者の妻の死体の解剖は行われなかった。

 (2)上記のとおり、代表者の妻は、睡眠導入剤等を医師から処方されており、その死体が発見された当時、死亡現場には、薬のシートが散乱していたことが認められ、この状況は、代表者の妻が、睡眠導入剤を服用し、中毒死したという本件死体検案書の記載を裏付けるものといえる。

しかしながら、

 ①代表者の妻が有していた睡眠導入剤等はおよそ致死量に達するものではなく(平成13年2月16日に処方された睡眠導入剤は2週間分で、それも代表者の妻は毎日医師の指示どおり服用していたので、減っていたはずであった)、代表者の妻は、自殺の手段となりうる量の薬剤を持っていなかったこと、

 ②代表者の妻の死亡当日は、服飾デザイナーとして最大の活躍の場である自社ブランドの展示会の最中であって、その中で、自ら死を決意する動機も見いだせないことに照らすと、代表者の妻の死亡が自殺によるものであったと認めることはできない。

 (3)なお、買主の主張(代表者の妻が平成6年3月上旬に自宅マンションの8階から飛び降り自殺を図ったことと、ヒステリー症による通院加療中であったことから、自殺に結びつきやすい精神的な不安定さを有していた。)については、代表者の妻の死亡から約7年も前のことであり、また、その後、代表者の妻は、ヒステリーについて、投薬治療も受けていて、代表者の妻の死亡当時は病状も安定していて悪くなかったものであるから、上記飛び降り自殺未遂の事実等をもって、代表者の妻の死亡が自殺によるものであったと認めることはできないとした。

まとめ

 自殺、殺人は、心理的瑕疵の中でもかなり重いものであり、売却する時の価格にも大きく影響してしまいます。

 今回の事例で、医師が作成した死体検案書に書かれた死因が覆る事もある、という事が分かりました。

 また、「大島てる」というサイトで、誰でも事故物件を検索出来ますが、たまに間違った情報も記載されている事がある為、事実を確認する必要があります。

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