破産会社売主との売買契約において、破産会社の元代表者に代理権があったとする買主の主張が棄却された事例(東京高判平29・10・11)
売主の代理人に騙されて、手付金3,000万円を奪われた事例
売買の契約の時には必ず本人確認を行います。また、契約前には法務局で謄本を確認し、所有者が法人名義であれば法人登記を取得して、内容に問題がなければ契約を行います。
この事例は、当然行うべき確認を怠ったために起こってしまった事案です。
事案の概要
⑴売主の前提事実裁判所は、平成24年2月、売主(被告・被控訴人・不動産業者)に対する破産手続開始決定をし、弁護士が破産管財人となった。
同裁判所は、平成25年5月、前記破産手続につき、費用不足による破産手続廃止の決定をし、同年7月に売主について閉鎖登記がされた。
平成28年8月、売主の清算人が選任され、売主の法人登記が復活した。
⑵事案の概要平成26年12月(売主の破産手続開始決定後、費用不足による破産手続廃止が決定され、閉鎖登記がされている時点)、買主(原告・控訴人・法人)は、本件不動産について、売主との売買契約を、売主の代理人と称する人物(売主の元代表者で、売主の代理人の肩書きであった)との間で、売買代金2億5000万円で締結し、手付金3000万円を支払った。
本件売買契約は、売主において、本件土地の境界確定・本件土地上に存する建物の賃貸借契約の解約と賃借人の立退き・整地工事・未登記の農業用建物の解体・本件土地の分筆を完了させることを条件(本件条件)に、買主は残代金を支払うこととされていた。
買主は、売主が契約日から2年以上経過しても本件条件を履行しないことから、本件売買契約の解除、支払済みの手付金の返還及び違約金の支払いを求めて提訴した。
原審は、本件売買契約当時、売主の代理人と称する人物は売主の代表権も代理権も有しておらず、売買契約は成立してないとして、買主の請求を全て棄却した。
原審が買主の請求を棄却したことから、買主は違約金5000万円の支払いを求める請求を取り下げ、手付金3000万円の返還のみに凝縮して控訴した。
買主は、
①売主の代理人と称する人物の代表権は破産手続廃止決定により復活したのであるから、本件売買契約は買主・売主間の契約として成立した
②売主は、売主の代理人と称する人物を代理人として行動していた
③売主の代理人と称する人物が売主の代理人でないとしても、売主が、売主の代理人と称する人物の法律行為を追認している
以上の原審での主張に加え、
④受任者である取締役の破産により委任契約が終了した場合ではなく、委任者である会社が破産した場合であるから、取締役が解任されたり、欠格事由に該当したり、死亡した場合に当たらず、受任者である取締役、売主の代理人と称する人物に委任契約を継続すべきでない事情はないので、原則に従って会社法351条1項の規定がされるべきである
⑤売主の代理人と称する人物は控訴人の株主であるから、自らを代理人と定めて行動すれば、代理人であると認めるのが正しい法解釈である
⑥売主の代理人と称する人物は買主から手付金3000万円を領得している
と主張した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次の通り判示し、原審同様買主の請求を棄却した。
⑴会社と取締役の間の契約関係は委任契約であり、会社が破産手続廃止決定を受ければ、当該委任契約は終了するから、取締役は会社の破産により当然その地位を失う。
すると、破産手続開始決定を受けた会社について、破産管財人が選任され、その後破産手続廃止決定がされたとしても、従前の代表取締役について、代表権が復活するとか、従前の代表権に基づいて権利義務を行使できるということにはならない。
⑵本件契約当時、売主において代表権を行使できる者がいたことは証拠上認められない。
すると、売主が、売主の代理人と称する人物に対して代表権とは別に個別の代理権を授与したということはあり得ず、この点に関する主張はそれ自体失当である。
⑶売主の代理人と称する人物が、売主の代理人を名乗っているからといって、売主がこれを追認したということにはならない。
⑷民法653条では、受任者だけでなく委任者が破産開始決定を受けたことも委任の終了事由として規定されている。
そして、破産手続が異時廃止になったとしても、既に財産に関する行為を内容とする委任契約は終了しているのであり、旧取締役が財産の管理処分権を有するに至ると解すべき理由はない。
⑸売主の代理人と称する人物が売主の株主であるか否かは定かではない上、会社法所定の手続に則って売主の代理人と称する人物が売主の代理人に選任されたとの主張立証もない。
⑹買主が3000万円を振り込んだのは売主の代理人と称する人物の口座であって、売主が買主から3000万円を受領したと認めることはできない。
⑺以上によれば、買主の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却する。
まとめ
委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けた場合、委任契約は当然に終了します。(民法653条2号)
法務局で登記事項証明書の確認をすることはたった数百円でできる事です。それを怠った為に、3,000万円ものお金を騙し取られてしまっています。
契約前の本人確認、法人登記の確認は重要であると再認識させられました。
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