外国人向けゲストハウスの漏水等が隠れた瑕疵に当たるとして、買主による損害賠償請求が一部認容された事例(東京地判平26・7・16)
漏水被害の損害賠償請求。現状有姿で購入した外国人ゲストハウスの判例
事件の概要
結論
買主の請求は一部認められましたが、内覧をしっかりしていれば知り得たカビ等の被害までは、売主は責任を負わないものとされました。
登場人物
買主(原告、訴えを起こした側)
売主業者(被告、訴えを起こされた側)
賃料収納会社(被告、訴えを起こされた側)
売主業者及び賃料収納会社(ともに被告)は、不動産売買、外国人留学生らを対象とするゲストハウス(寄宿舎)の運営を行う会社であり、売主業者社の取締役は賃料収納会社社の代表取締役である。
買主(原告)は、平成24年2月28日、売主業者社所有の土地及び建物(以下、「本件建物」という。)を代金1億1350万円で買い受けた。
本件売買契約に係る契約書には、「売主は本物件を現状有姿のまま買主に売り渡し…」とする特約がある。
本件建物は、外国人留学生らのゲストハウスとして賃貸されていたが、買主は、本件売買契約の締結に際し、売主業者社と、次の約定を含む管理運営委託契約(以下、「本件管理委託契約」という。)を締結した。
①売主業者社は、入居者募集、入居者の管理等に関する業務を行う
②売主業者社は、買主に対し本件建物の使用料(賃料保証)として1か月80万円を支払う
③本件管理委託契約が解除された場合、売主業者社は、賃貸人退出と原状回復及び清掃費用を負担する。
賃料収納会社社は、売主業者社の委託に基づき、本件建物の賃料集金代行業務を行っていた。
本件建物の購入に先立ち、買主は、売主業者社の取締役であり賃料収納会社社の代表取締役である者の立会の下、本件建物の外観及び201号室の共用部分を見たが、その他の部屋は、留学生らが借りており、内覧はしなかった。
売主業者社は、本件管理委託契約に基づく使用料の3か月相当240万円を支払わず、本件管理委託契約は、平成24年8月末をもって解除された。
買主は、本件管理委託契約の終了後、賃借人である留学生らを退去させ、屋上からの雨漏りによる床及び壁のカビの被害、電気設備等の不具合その他の瑕疵(以下「本件瑕疵等」という。)の改修工事、原状回復工事及び清掃等を実施した。
買主は、売主業者に対して、瑕疵修補に代わる損害賠償等として990万円、本件管理委託契約に基づく使用料240万円、同契約の債務不履行に基づく逸失利益258万円余の合計1488万円余を、賃料収納会社社に対しては、売主業者社との共同不法行為に基づく損害賠償として、また、売主業者社又は賃料収納会社社の役員らに対して、会社法429条1項に基づき、売主業者社と連帯して同様の支払を求める裁判を提起した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のように判示し、買主の請求を一部認容した。
⑴本件売買契約は、「現状有姿」とするものであって、売主業者社は、売買契約の締結に当たって買主の知り得た瑕疵等の不具合については、瑕疵担保責任を負わないことが明らかであるところ、売主業者社が、買主に対し、本件建物の内覧を妨害したことを認めるに足りる証拠はない。
売主業者社として、内覧をしても判明し得なかったような「瑕疵」については責任を負うが、外観、内観上の汚れ、カビ、破損等についてまで損害賠償責任を負うものと解することはできない。
⑵103号室の漏水、屋上部分の防水の欠陥については、その位置や状況、性質等に照らし、内覧によっても直ちに発見、確認することは困難であると推認されるものであって、留学生らに賃貸使用させている間においても、これを補修する必要があることは明らかであるから、売主業者社において瑕疵担保責任を負うと解するのが相当である。
そして、それらについては、本件売買契約締結後の短期間に発したとは考え難いから、同契約前から存在したものと推認することができる。
したがって、これらに関する補修及び損傷等について、売主業者社は瑕疵担保責任を負うというべきである。
⑶本件管理委託契約は平成24年8月末日をもって終了している上、本件建物に居住していた留学生らも全員退去をしているのであるから、残置物の廃棄については、売主業者社が、原状回復義務の履行として処理をすべきものと認めるのが相当である。
これに対し、カビの発生等による部屋の汚れについては、内覧によって判明し得るものであって、「現状有姿」で買い受けた以上、買主自らが対応すべきものというほかはない。
⑷前記の隠れた瑕疵及び原状回復による買主の損害は、697万円余となる。
買主は、上記瑕疵を改修するまでの平成24年9月から同年11月までの間、本件建物を使用収益することができなかったとして、逸失利益の損害を主張するが、同年9月から本件建物を留学生の賃貸に使用できなかったことについて、本件瑕疵等との間に相当因果関係があると認めることはできない。
⑸賃料収納会社社において、買主の主張する不法行為を構成する事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
また、売主業者又は賃料収納会社社の役員らにおいて、会社法429条1項の任務懈怠(にんむかいたい)があったとも認められない。
以上によれば、買主の本訴請求は、売主業者社に対し、瑕疵担保責任又は原状回復義務に係る約定に基づき697万円余、本件管理委託契約に基づく使用料240万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。
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判決に対する主観的なコメント
「Can you speak English?」英語で不動産の説明できますか?
私はできません。
今は、コロナの影響で外国人旅行客だけではなく、留学生も激減しています。
コロナ終息後、また多くの外国人が日本に来られると思います。
2003年(平成15年)のSARSや、2011年(平成23年)の東日本大震災のときも、留学生の数は減少したものの、翌年には、例年以上に留学生の数が伸びる傾向でした。
これからは、「英語しか話せない」という外国人の方と取引をする機会も増えて来るかもしれません。
英語しか話せない外国人の方と契約をする際、日本語で作られた不動産の契約書を渡してもおそらく理解してもらえないことと思います。
そんな時、便利なのが、国土交通省のホームページにある14ヶ国語に対応した契約書類です。
日本語の雛形と比較しながらなら説明できますので、外国人にも重要な内容等を伝えたい時に役に立ちます。
上記の判例は、買主が外国人留学生向けのゲストハウスを購入後、物件から漏水被害やカビ等被害が発生し、売主に損害賠償請求をしたものです。
結果、買主の請求は一部認められましたが、内覧をしっかりしていれば知り得たカビ等の被害までは、売主は責任を負わないものとされました。
カビに関しては漏水が原因だったのかもしれませんが、日本はもともと湿気が多いジメジメした国、換気をしていなければカビは発生することも多いです。
外国人の方に日本で物件を借りるときのルール、またルールを破った場合のペナルティをしっかりと伝えておく必要があります。
まとめ
売主業者は、物件の関係書類の精査、契約前の現地下見と調査を入念にしていれば、問題点を事前に発見できることができたかもしれません。
買主に内覧を入念にしてもらうことも当然重要ですが、その前にプロである不動産業者が問題点に気づいていなければ意味がありません。
後から大きなトラブルにならないためにも、外国人の入居者には日本の賃貸のルールを理解してもらった上で入居してもらい、売却時は書類の精査と現地調査はしっかりしておくべきす。