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借主の長期不在中に鍵の交換、家財処分した場合の判例

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借主の長期不在中に鍵の交換、家財処分した場合の判例

 借主の長期不在中に、管理会社が貸室の鍵を取換え、室内の家財等を処分した行為は違法な自力救済にあたるとした(事例東京地裁 平22・10・15)

借主の長期不在中に鍵の交換、家財処分した場合の判例

 生活保護者が借主となっている場合で、その借主と連絡が取れなくなり、契約書には「無断不在1か月以上に及ぶ時は敷金の有無にかかわらず、本契約は当然解除され賃貸人は立会の基に随意室内遺留品を任意の場所に保管し、又は売却処分の上債務に充当するも異議なき事」と記載がある。

 判例では、この事を理由に自力救済を行ったようですが、契約書の特約等で自力救済に関する条項があるからといって直ちに適法なものになるとは限りません。

 契約書に書いてあるから大丈夫と思って行動すると、借主側から多額の賠償請求をされる事になります。

事案の概要

 借主は、平成17年2月頃、貸主との間で賃貸借契約を締結した。

 家賃月5万1000円は、某区(振込名義人は某区福祉事務所)から生活保護の一部として、管理会社に直接振り込まれていた。

 平成20年8月頃、借主は、某区の生活保護担当者の勧めで、アルコール依存症の治療のため病院に入院した。

 同年11月1日、管理会社は借主に対し、更新案内の手紙を発送し、同月5日、管理会社従業員が借主の携帯電話に電話したがつながらず、2通目の更新案内を発送したが、連絡がなかった。

 同月20日、管理会社代表者及び従業員は、本件貸室内に立ち入ったところ、ゴミが山積みになって足の踏み場もない状態で、異臭が漂っていた。

 借主の家賃は、同年12月初旬、これまでと同様に支払われた。

 管理会社は貸主と相談の上、専門業者にハウスクリーニングとリフォームを依頼し、同社が手配した業者によって、同年12月26日までに残留物を撤去し、鍵を交換した。

 借主は、同年12月26日の夕方、本件貸室に入ろうとしたが、自分の鍵では開かなかったことから、管理会社に連絡をとった。

 管理会社は借主に対し、業者の見積金額に1割程度を加えたリフォーム代及び損害金49万9245円の支払いを求めた。

 借主は、管理会社から、念書に署名捺印しないと部屋の鍵は渡せないと言われたため、本件念書に署名捺印した。

 本件念書には、前記金額を毎月末日限り分割支払う旨の記載がある。

 管理会社は、某区の担当者との間で、直接分割入金する旨の内諾を得た。

 借主は、本件念書に署名捺印した後、管理会社から新しい鍵の交付を受け、本件貸室に入ることができた。

しかし、借主は同年12月28日、本件貸室内で倒れているのを発見され、平成21年1月1日まで、低体温症他の診断名で病院に入院した。

 借主は、平成21年1月6日及び翌7日、管理会社の事務所を訪れ、本件念書に基づく支払いを拒否し、勝手に荷物を処分した賠償金として100万円の支払いを求めた。

 その後、双方代理人によるやり取りがなされたが、本件賃貸借契約は同年2月に終了した。

 そうした経緯があり、借主は管理会社に対し407万円及びこれに対する遅延損害金の支払と、念書に基づく金員の支払義務不存在の確認を求めて訴訟を提起した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示した。

 (1)本件賃貸借契約には、「賃借人が無断不在1か月以上に及ぶ時は敷金の有無にかかわらず、本契約は当然解除され、賃貸人は立会の基に随意室内遺留品を任意の場所に保管し、又は売却処分の上債務に充当するも異議なき事」との約定がある。

 しかし、自力救済は、原則として法の禁止するところであって、法律の定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるにとどまる(最三小判昭和40年12月7日)。本件賃貸借契約に上記のごとき条項があるからといって、自力救済が直ちに適法となるものではない。

 管理会社代表者は、本件処分行為前において、隣室の住人から異臭がするとの苦情の電話があったとか、平成20年12月に本件貸室に入ったところ腐敗臭があった等供述するが、借主の証言によればそれらを裏付ける証拠はない。

 また、本件処分行為前の時点においては、害虫の発生や異臭の流出は現実化していなかったと認めるべきであり、借主による建物所有権に対する違法な侵害があったとは認められない。

 また、管理会社が、賃料を入金していた某区福祉事務所に連絡をとれば、借主の所在を知ることができたのにもかかわらず、管理会社は何らそのような措置を講じなかった。

 本件において、自力救済を認めるべきやむを得ない特別な事情があるとは認められない。

 したがって、本件処分行為は違法であり、管理会社は不法行為に基づく損害賠償責任を負うべきである。

 (2)借主の財産的な損害額は40万円、借主が受けた精神的損害は60万円と認めるのが相当である。

 また、管理会社に請求し得る弁護士費用としては10万円をもって相当と認める。

 (3)管理会社代表者は、借主に対し、専門業者から出ていた見積書を見せ、この見積金額に、管理会社がクリーニング等のために費やした時間や労力を補填してもらう意味で見積金額に1割程度を加えた49万9245円を提案したと供述する。

 しかし、その見積書は提出されていない。

 管理会社代表者は、専門業者に対し45万円くらい現金で支払ったものの、この支払いに関係する領収証等を探したがみつからないと供述する。

 他方、借主は、法的知識もなく、長期の入院直後の身の上で、12月という寒い時期に、念書に署名捺印しなければ鍵は渡せないと言われ、その支払義務の有無や金額の相当性を検討する十分な時間が与えられることなく、本件念書に署名捺印したものである。

 したがって、本件念書は、管理会社の違法な自救行為に係る費用を支払わせる内容である上、借主の無思慮・窮迫に乗じて、相当範囲を逸脱した金額の支払いを認めさせたものというべきであるから、公序良俗に反し無効である。借主は管理会社に対し、本件念書に基づく支払義務を負わない。

 (4)以上から、不法行為に基づく損害賠償金として110万円及び遅延損害金の支払いと、本件念書の支払義務が存しないことを確認する判決が下された。

まとめ

 「異臭がしたことを裏付ける証拠がなかった」とありますが、その証拠とは何でしょうか?借主の証言によればともあります。

 では、管理会社代表者及び従業員は、本件貸室内に立ち入ったところ、ゴミが山積みになって足の踏み場もない状態で異臭が漂っていた。という証言はどうなったのでしょうか?

 借主は、アルコール依存症の独身の方のようで、少なくとも部屋がキレイな状態ではなかったのは事実かとも思えます。

 また、「某区福祉事務所に連絡をとれば、借主の所在を知ることができたのにもかかわらず、管理会社は何らそのような措置を講じなかった。」とありますが、知っているならば教えてほしいとも思ってしまします。

 しかし、だからといって自力救済をすること事態は違法行為ですので、結果として110万円もの損害賠償金を管理会社が支払う事になっています。

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