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借地借家法の適用で、賃料減額請求を認容した事例

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借地借家法の適用で、賃料減額請求を認容した事例

 特殊な賃料の仕組みを有する百貨店の店舗用建物の賃貸借契約において借地借家法32条1項の適用の可否が争われた事案において、同法の適用を肯定し賃料減額請求を認容した事例(横浜地裁平成19・3・30)

借地借家法の適用で、賃料減額請求を認容した事例

 大規模な百貨店であっても、借地借家法第32条1項の適用を肯定し賃料減額請求を認め、当事者で合意された特殊な賃料の仕組みを尊重しながら相当な賃料を認定した事例です。

事案の概要

 昭和34年10月横浜駅西口開発に伴い百貨店業を主とする賃借人不動産会社である賃貸人は、百貨店事業用建物の賃貸借契約を締結した。

 契約内容は、使用目的が百貨店業店舗、契約期間15年、等に加え、特約として「契約の翌年以降の賃借人の推定売上高を設定しその一定割合を売上基準額と定め、さらにその一定割合を定額賃料(固定賃料に相当)とし、現実の売上高のうち売上基準額を超過した部分の一定割合を比例賃料(売上高にスライドする賃料)とする」とした。

 「改定期以降の定額賃料は、改定期前年度の定額賃料を下回らない」との合意に加え、「賃借人の売上高が改定期前年度より減少した場合、年度末に当年度の既払の定額賃料と比例賃料を合計し改定期前年度の定額賃料と比例賃料の合計額に不足する分を精算するため、『精算賃料』を賃借人は支払う」こととした。

 その後契約面積が増加し、更新が行なわれたが、平成14年8月以降同年10月以降の賃料額、支払い方法で協議が整わず、平成16年1月調停も不調に終わったため、原告の賃借人は、典型的な賃貸借契約であること、平成11年10月以降租税公課の減少、近傍同種の土地価格の下落、諸物価の下落等により借地借家法32条による賃料の減額請求と、賃料額の確認を求め、訴えを起こした。

 被告の賃貸人は平成14年10月以降の設定賃料不払いとして既支払額との差額を請求した。

判決と内容のあらまし

 地方裁判所は以下のように判示し、借地借家法32条1項の適用を肯定し、賃料減額請求を認め、適正賃料を示した。

(1)借地借家法32条の適用について

 本件契約書は「建物賃貸借契約書」と題する契約書である上、内容は賃借人が賃貸人から本件建物を賃借し、賃料を支払う他、賃貸借期間、転貸借、保証金、敷金などの規定が置かれており、本件契約は建物賃貸借契約としての性質を有することは明らかである。

 賃貸人は駅前開発事業の一環として本契約が締結され、共同事業的な側面があり、共同事業としてのリスクの分担もあると主張するが、そこから賃貸借契約としての性格が排除されるものではなく、借地借家法の適用を排除すべき特段の事情があるとはいえない

 また、賃貸人は本契約の賃料設定の仕組みは賃料の減額請求権の不行使が含まれると主張しているが、借地借家法32条は契約の条件にかかわらず賃料等増減額請求権を行使できる旨規定し、強行法規としての実質を持つもので(最高裁昭和31年5月15日・民集10巻5号49669頁)、本件の仕組みを理由として同条項の適用を排除することはできない。

(2)賃料減額請求及び相当な賃料額について

 借地借家法32条1項の規定による賃料減額請求及び相当な賃料額を判断するに当たっては、衡平の見地に照らし,同条文所定の事由のほか契約当事者による賃料決定の要素、その他諸般の事情を考慮する必要があるとした上で、

 ①賃料減額請求については、本契約が当事者の駅前再開発事業を共同で遂行する中で締結された経緯があること、店舗の売り上げは借地借家法32条に言う経済事情の変動に結びつく要因の一つといえること等から、賃料設定の仕組みは百貨店事業に伴うリスクを原被告で分担し合うという一定の合理性を有していたと認められる。

 しかし本件賃料設定の特約は、原告に一定の範囲でリスクを負担させ、将来生ずべき事情の如何に拘わらず常に一定の方式により原告にリスクを負わせることとなっており、現在の賃料は原告の事業に伴うリスクとしてはその範囲を超え、当事者間の衡平を保つことができない。

 従って、借地借家法32条1項の趣旨に照らして、本契約の特約に基づく仕組みを当事者に強制する基礎は失われており、原告による賃料減額の請求は借地借家法の「賃料が不相当になった」との要件を満たしている。

 ②相当な賃料については、賃料は一般に不動産鑑定評価基準に従った鑑定による適正賃料額を参考にすることが多いが、本契約が純粋な賃貸借契約に加え共同事業的な側面を付加された契約であること、賃料は利益配分としての性格を満ち合わせていること、特約による賃料設定にも合理性はあることなどからできるだけ当事者間で合意された賃料の仕組みを尊重しこの仕組みが基本的に合理性を有することをも考慮する必要があるとした。

 その上で、平成14年10月、同15年同月、同16年同月からの各一年間の賃料額を検討するといずれも精算賃料が発生し賃借人の売り上げ減少が続く中でもピーク時の賃料との差額を支払うこととなり契約に伴うリスクを分担し合うという趣旨からして「改定期以降の定額賃料と比例賃料の合計額」を、「精算賃料」を含めずに考えれば、時間的ズレはあるものの、賃料は百貨店の売上高とも連動することとなり、相当の賃料とし妥当であるとした。

まとめ

 賃料減額等の賃料改定の計算は、①差額配分法、②利回り法、③スライド法、④賃貸事例比較法等の手法を適用し、かつ当該契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して求められます。

 賃料の改定は、弁護士や不動産鑑定士に相談しながら話しを進めて行くのが良い方法ですが、依頼するには費用がかかります。現在の賃料と改定された場合の賃料等の比較を行い、訴訟費用を差し引いた上でも、訴訟を提起するメリットがあるかどうかを考える必要はあります。

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