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医師に虚偽の説明で入居させ損害賠償を請求された事例

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医師に虚偽の説明で入居させ損害賠償を請求された事例

 入居勧誘に際し、誤った情報を提供したとして、不動産賃貸業者に不法行為責任を認めた事例(札幌地判平17・8・12)

判決内容に対する主観的なコメント

 貸主業者の説明義務違反に関する判例です。

 どこの不動産業者にも売上に対する目標やノルマはあるはずです。ノルマが厳しい会社であれば

上司「今月はどれを契約するんだ?」

部下「今月は●●を契約しようと思っています

上司「思っていますじゃないだろ!契約するのかしないのかどっちかを聞いてるんだ!!」

部下「契約します。」

という会話がよくあります。

 判例で出でくる担当者が、実際どういった状況かまでは分かりませんが、どういった状況であれ貸主に虚偽の説明をして契約をあせてしまうのは絶対にしていはいけない行為です。

事案の概要

 借主は小児科を開業している医師である。

 貸主は大手ドラッグストアの関連会社で不動産賃貸等を行っている株式会社である。

 貸主の担当者は大手ドラッグストアの社員である。

 平成13年3月ころ、貸主はS市内に土地を購入し、メディカルビル(以下「本件メディカルビル」という。)の事業計画を立てた。

 メディカルビルとは、1つのビル内に複数の医療機関や薬局が入居するビルで、開業コストの低減、患者を集める上での相乗効果、診察上の連携が図れるなどのメリットがある。

 平成14年6月ころ、借主は貸主の担当者と本件メディカルビルへの入居について協議を始めた。

 貸主の担当者は借主に対し、他に医療機関3件が入居確約済みであると説明したが、平成15年2月に借主が入居予定の医師の1人に確認したところ入居の予定はないという回答であったので、借主は本件メディカルビルに入居しないことにした。

 その後借主は、本件メディカルビルの建設業者から内装工事代金950万円の支払を求められ、訴訟の結果830万円を支払って和解した。

 借主は、貸主の担当者である貸主の担当者は借主に対し、本件メディカルビルには他の医療機関が確実に入居すると虚偽の説明を行い、借主を信じさせた。

 また貸主の担当者は借主が入居せざるを得ないように建設業者に対し内装工事の着工を指示し、借主が入居をためらうと恫喝するなどした。

 これらの貸主の担当者の行為は詐欺による不法行為を構成し、貸主は民法715条(使用者の責任)の責任を負う。

 また借主は、本件メディカルビルに入居するか否かの意思決定にあたっては、本件メディカルビルに他の医療機関が入居することを当然の前提にしていた。

 しかし貸主は故意又は過失により虚偽の情報提供等を行っており、借主の自由な意思決定を妨げているというべきで、いわゆる契約締結上の故意又は過失により、不法行為責任を負う。と主張し、上記工事代金830万円、旧診療所賃貸借契約を期間内解約したため返還されなかった敷金216万円、慰謝料300万円の合計1346万円を請求した。

判決と内容のあらまし

 地方裁判所は以下のように判示し、借主の請求を一部認容した。

 (1)まず、証拠および弁論の全趣旨によれば、貸主の担当者は借主に対し、本件メディカルビルの入居の意思を固めさせるために、本件メディカルビルへの他科医療機関が入居する確実性がないにもかかわらず、確実であるがごとき虚偽の説明を繰り返し行ったこと、及び借主が本件メディカルビルへ他科医療機関が入居することは確実であると誤認したことが認められる。

 (2)しかし、認定事実によれば、借主は本件メディカルビルへ他の医療機関が入居することは確実であるとの具体的な説明を受ける以前で、すでに本件メディカルビルへの入居を積極的に希望し、内装工事のための打ち合わせ及び旧診療所の賃貸借契約の解約交渉を行っていること、貸主の担当者は他の医療機関との入居交渉を現実に行っていたこと、本件メディカルビルへ他の医療機関が入居しなかったのは貸主の予測が甘かったことに原因があるが、貸主は他の医療機関が入居するよう努力はしていたことが認められる。

 そうすると、貸主の担当者の虚偽説明をもって、真実は本件メディカルビルへ他の医療機関が入居することはないのに、入居するかのように告げて、借主を積極的に誤認させ入居させようとしたとまではいえず、詐欺的不法行為であるとはいえない。

 (3)認定事実によれば、本件メディカルビルはその性質上他の医療機関が入居することが前提になっていること、借主は本件メディカルビルに入居するか否かの意思決定にあたっては、本件メディカルビルに他の医療機関が入居することを重要な要素としていたことが認められる。

 そうすると、貸主の担当者は借主が本件メディカルビルへの入居の意思決定をするにあたり、重要な情報について虚偽の情報提供をするなどして借主の自由な意思決定を妨げたといえる。

 したがって貸主の担当者を担当者としていた貸主は、契約当事者として、重要な情報を正確に説明する義務を怠ったというべきであり、信義誠実の原則に違反していることから、いわゆる契約締結上の故意又は過失により、不法行為責任を負う。

(4)最後に借主の損害について検討する。

 借主は本件メディカルビルへの入居については当初から積極的であり、貸主の担当者の勧誘行為とは別に自己の判断で内装工事の発注や旧賃貸借契約の解約を行ったことが認められる。

 しかしながら、借主は入居の合意書に調印しながらも、内装工事を中断したり、合意書記載の手付金を支払っておらず、入居について慎重な姿勢をとっていたところへ、貸主の担当者が虚偽情報を提供したといえる。

 以上からすれば、貸主は借主が受けた損害を賠償すべきものといえるが、借主が最終的に自己の判断で内装工事の発注や旧賃貸借契約の解約を行ったことを斟酌(しんしゃく)すべきであり、損害について5割を減ずるべきである。

 なお借主は慰謝料を請求するが、財産的損害が填補されることにより借主の損害は回復されるので別途慰謝料を求めることはできない。

 (5)以上の通り、借主の請求は内装工事代金830万円、旧診療所賃貸借契約を期間内解約したため返還されなかった敷金216万円の合計1046万円の5割である523万円を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとする。

まとめ

 根拠のない虚偽説明を行ない入居を勧誘することは違法行為です。

 不法行為が原因で、内装工事が入ってからの解約はゆうに1,000万を超える事例が多いので、契約締結前の説明や調査は、時間を掛けて慎重に行う事が必要です。

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