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原因不明の健康被害、低周波音の恐怖

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原因不明の健康被害、低周波音の恐怖

 賃借人の迷惑行為を放置した賃貸人の不法行為責任が認められた事例(東京地判平17・12・14)

原因不明の健康被害、低周波音の恐怖

 判例は、ライブハウスの騒音に対する賠償金に関してですが、

 判決文の中で私が注目したところは、低周波音に関する記述です。

 低周波音に関する健康被害としては睡眠障害、頭痛、うつ病の発症などが挙げられています。

 また、低周波音の健康被害に関しては、近年増加傾向にあります。

出典:環境省HP

 人が聞き取れる音の周波数範囲は概ね 20~20,000Hzとされていますが、それに対して、低周波音は1~100Hzとされています。

 つまり、20Hz以下の低周波音に関しては、気付かない人も多く、知らないうちに健康被害を受けている可能性もあります。

 近年、苦情件数が多くなった原因の一つとして、「エコキュート」による影響があると考えられます。

 エコキュートは、深夜電力を使って電気代を節約できるヒートポンプ式給湯機で、エコキュートが発する運転音は約10~40Hzとされています。

 深夜、寝ているときにこの低周波音を近くで浴び続けると健康被害が出る方がいるようです。

事案の概要

■1階の賃借人(原告・訴えを起こした側・1階専有部分で飲食店を営業)

■ライブハウスの賃借人(被告・訴えられた側・地下店舗ライブハウスの経営者)

■賃貸人A(被告・訴えられた側・ライブハウスの区分所有者・賃貸人Bと共有名義)

■賃貸人B(被告・訴えられた側・ライブハウスの区分所有者・賃貸人Aと共有名義)

 ビルの1階で飲食店を経営していた原告1階の賃借人が、地下店舗の賃借人としてライブハウスを経営している被告ライブハウスの賃借人、同店舗の所有者で賃貸人である賃貸人A及び賃貸人Bに対し、ライブハウスから発生する騒音、振動及び低周波音により、営業損害及び精神的な損害を被ったとして、損害賠償等748万円余を求めた。

判決と内容のあらまし

(1)騒音の受忍限度について

 東京都は、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例を定めている。

 この基準の適用については、騒音等の測定場所が、音源の存する敷地と隣地との境界線とされているため、本件のように上下関係にある場合は想定されていないということもできるが、騒音等が受忍限度を超えるかどうかの判断について、一つの参考数値として考慮することは相当である。

 本件ビルのある地域は、商業地域に指定されており、前記条例の日常生活等に適用する規制基準において、騒音に関し第三種区域、振動に関し第二種区域とされている。

 本件1階店舗における振動に関する測定は、ライブ演奏が始まると60から73デシベルの騒音の発生が認められ、前記規制基準に定める60デシベルを超えており、騒音に関する測定は、会話又は電話伝達を必要としない作業スペースに推奨される値であるものの、低周波音については、平常時の50倍から1000倍の強さになっていることが指摘され、その値は心身に関わる苦情が発生して当然というべきものであったと解される。

 以上を総合的に考慮すると、本件店舗に発生した騒音等は受忍限度超える違法なものであったといわざるを得ない

(2)ライブハウスの賃借人の不法行為責任について

ライブハウスの賃借人は、1階の賃借人から騒音等につき繰り返し苦情を受け、それに対処するため、数度にわたり、防音、防振工事をおこなっているが、結果として1階の賃借人の店舗が閉店するまで、効果のでる工事をおこなわなかったことからすれば、本件1階店舗に生じる騒音等の程度が受任限度を超えているものであること、ライブハウスの賃借人の行った防音工事では、十分な防音、防振の効果が出ないことを認識し、あるいは認識しえたと認められる。

 そのような状況において、ライブ演奏をさせることにより、本件地下店舗から受忍限度を超えた騒音等を伝播(でんぱ)させたもので、このライブハウスの賃借人の行為により、1階の賃借人は損害を被っているということができるから、ライブハウスの賃借人は、1階の賃借人に対し、不法行為責任を負うといわざるを得ない。

(3)賃貸人の不法行為責任について

 賃貸人A、賃貸人Bの両名は、本件ビルの区分所有者であるが、本件地下店舗をライブハウスの賃借人に賃貸し、その使用を専らライブハウスの賃借人に委ねている。

 したがってライブハウスの賃借人による本件地下店舗の違法な使用により生じた損害については、同人のみが不法行為責任を負うべきとも考えられる。

 しかしながら、建物の区分所有等に関する法律6条1項は、区分所有者に対し、建物の使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為を禁止しているところ、同項は、同条3項において、区分所有者以外の専有部分の占有者に準用されているから、専ら賃借人が専有部分を使用している場合も、賃貸人の義務が消滅するものではなく賃借人の選定から、賃貸後の使用状況について相当の注意を払い、賃借人が他の居住者に迷惑をかけるような態様で専有部分を使用している場合には、その迷惑行為を禁止、あるは改善を求め、さらには、賃貸借契約を解除することによって、迷惑な状況を除去しうる立場にある

 したがって、賃貸人がその是正措置をとりさえすれば、その違法な使用状況が除去されるのに、賃貸人がその状況に対し何らの措置を取らずに放置し、そのために、他人に損害が発生した場合、賃借人の違法な使用状況を放置したという不作為が不法行為を構成する場合があるというべきである。

 賃貸人Aは本件地下店舗でライブハウスを営業する賃借人に賃貸するに当たり、本件ビルの管理会社から騒音等につき注意を受け、開店後も1階の賃借人から騒音等につき苦情を受け、自らも1階店舗におもむいて音を聞くなどして、本件地下店舗に改善すべき点があることを認識していながら、ライブハウスの賃借人に対し適切な改善措置を取らせることもせず、結果として、前記義務に違反し、原告に損害を与えたと言うことができる。

 したがって、同被告らも、不法行為責任を負うというべきである。

(4)1階の賃借人の損害金について

 1階の賃借人の請求する営業利益損害金及び閉店に伴う原状回復費用等の損害金については、賃借人らの不法行為により生じた損害と認めることは困難であり、慰謝料算定の一要素として考慮するのが相当である。

 1階の賃借人が受けた精神的苦痛、ライブハウス開店後の賃借人らの不法行為の対応、その間の交渉の状況等一切の事情を考慮し、1階の賃借人に認めるべき慰謝料は100万円をもって相当と認める。

まとめ

 コロナ禍の今、ライブハウスの経営自体が危うくなり、上記判例と同じようなケースはなかなか起こりにくいと思われます。

 しかし、在宅ワークが増える今、騒音低周波音についての問題は増えてくると考えられます。

 特に低周波音に関する問題は騒音に関する問題よりも厄介です。

 人の耳には聞こえない…、誰にも理解されない…

 そもそも低周波音自体を知らない人も多いかと思います。

 また、騒音に関しては騒音計を数千円で買えるのに対して、低周波音計は40万円前後もする高価なものです。

 低周波音計地は、地方自治体でも借りる事も可能なところがあるようですが、使い方をよく分かっていない人も多いようです。

 低周波音を発生するものとしては色々あります。下記はその一例です。

【低周波音の発生源】

■給湯器(エコキュート、エネファーム、エコウィル)

■24時間換気

■エレベータ 等々

※低周波音は誰にでも影響が出るわけではありません。個人差は大きくでます。

 エコキュートに関しては、実際に健康被害を訴えた判例もあります。

 消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)は隣家に設置された家庭用ヒートポンプ給湯機「エコキュート」の発する低周波音で不眠頭痛の症状が出たとする群馬県在住の夫妻の申し出に対して、「給湯機の運転音が申し出者の健康症状の発生に関与している可能性が高いとの報告書をまとめた。

 経済産業省などに対して、2014年12月19日に再発防止に向けた対策を求めた。

 夫妻は、2012年10月に消費者事故調に原因の調査などを申し出た。

 並行して、隣家の住民などを相手に損害賠償を求める訴えも起こしていたが、設置されたエコキュートを撤去するなどを条件に2013年11月に和解が成立。

 和解に基づき撤去した後は症状が治まったという。

【参照:日本経済新聞 2014年12月25日】

現在、エコキュート等の給湯器を使用している方や、それ以外でも低周波音の発生源がある環境にお住まいの方で、原因不明の頭痛や、睡眠障害の症状のある方は、計測器をレンタルして一度計測してみるのも良いかもしれません。

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