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和解金の支払い停止、保証協会は和解金の残額の認証拒否

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和解金の支払い停止、保証協会は和解金の残額の認証拒否

 不動産取引関連の訴訟に係る和解金債権に関して、保証協会の認証が認められた事例(東京地判平25・5・27)

和解金の支払い停止、保証協会は和解金の残額の認証拒否

 この判例では、訴訟が2回行われています。

 1回目の訴訟は、分譲業者が、分譲マンションの敷地を区分所有者に所有権移転せず、第三者に売却(寄付)をした結果、容積率違反にしまったというもので、極めて悪質な分譲業者です。

 おそらく、分譲マンション建築確認申請時にあった土地を、分譲業者が勝手に分筆して土地だけを売却し、利益を取ろうとするやり方です。

 容積率オーバーの物件では、ほとんどの銀行で融資をしてくれなくなってしまいます。そうなると売却時の買い手は限れてくることが考えられます。

 実際にこういった悪質な分譲業者によるこのようなマンションはいくつか存在しています。

 2回目の訴訟では、宅地建物取引業保証協会に対するものですが、個人的には

 「保証協会ってこういうときの為にあるのではなかったでしたっけ?」という内容です。

事案の概要

①【別件訴訟と和解】

 マンション管理組合法人(原告)は、分譲業者A社が分譲したマンションの管理組合法人である。

 当該分譲マンションでは、分譲時にA社がその敷地の一部を各区分所有者(以下、「本件区分所有者」という)に所有権移転せず、数年後第三者に売却又は寄付した結果、当該分譲マンション(以下、「本件建物」という)が容積率違反となった。

 この為、本件区分所有者がA社に対し損害賠償を求め提訴し(以下、「別件訴訟」という)、その後、A社が和解金として3000万円の支払義務を認め、うち1500万円については25年間にわたり毎月分割で支払うことで両者は和解(以下、「本件和解」という)した。

 また、和解協議の際、和解金の受領窓口を一本化する為、マンション管理組合法人の前身であるマンション管理組合(以下、「本件管理組合」という。

 マンション管理組合法人は当組合が法人化したもの)が利害関係人として加わり、毎月の和解金の受領窓口となった。

 その後、A社は約13年半の間、和解条項に従い分割払いを続けてきた(計805万円)が、宅地建物取引業を廃止したのに伴い、支払いを停止した。

②【本件訴訟】

 この為、マンション管理組合法人宅地建物取引業保証協会(以下「保証協会」という)に対し宅地建物取引業法64条の8第1項及び第2項に基づき、本件和解金の残額について認証申出(以下「本件認証申出」という。)を行ったが、保証協会は、本件和解金債権が同法64条の8第1項に照らし、「宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者が有するその取引により生じた債権」に該当しないと判断し、本件認証申出を拒否した為、マンション管理組合法人が認証を求め本件提訴したもの。

 本件の争点は、マンション管理組合法人のA社に対する本件和解金債権が保証協会の弁済対象債権に該当するか否か、マンション管理組合法人が宅建業法64条の8第1項の「宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者」に該当するか否かである。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のように判示し、マンション管理組合法人の請求を認容した。

 宅地建物取引業法の定める弁済業務保証制度は、宅地建物取引業者側の経済的負担を軽減する目的の下で営業保証金制度に代替するものとして、宅地建物に関する取引事故について取引の相手方を保護する制度であると解されることから、同法64条の8第1項に定める弁済対象債権は、宅地建物取引業に関する取引を原因として発生した債権であり、前記制度の趣旨に照らして弁済に値すると法的に評価しうる、当該取引と相当因果関係を有する債権をいうものと解するのが相当である。

 そして、前記制度の趣旨に照らし、同条項に定める「宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者」には、当該取引をした者から契約上の地位を譲り受けた者や弁済対象債権の譲受人も含まれると解すべきである。

 本件和解は、本件区分所有権者が、A社に対して本件分譲販売取引に関して被った損害の賠償を求めて提起した別件訴訟において、A社が本件区分所有権者に前記損害の一部を解決金として支払うこととした上で、本件管理組合を同解決金の支払や請求の窓口とするために、A社が本件和解金を本件管理組合に支払う旨を合意したものであると認められる。

 そうすると、本件和解金債権は、宅地建物取引業に関する取引を原因として発生した損害賠償債権合計4236万4569円の一部について、本件区分所有権者が支払額及び支払方法等を譲歩する内容の和解によって生じた債権であると認められることから、弁済業務保証制度の前記趣旨に照らして弁済に値すると法的に評価しうる、宅地建物取引業者との取引と相当因果関係を有する債権であると解される。

 したがって、本件和解金債権は保証協会の弁済対象債権に該当する。

 また、前記の本件和解の内容に照らせば、本件管理組合は、本件区分所有権者全員で構成される本件建物の管理を行うための団体として、本件区分所有権者及びA社との間の合意に基づき、解決金の支払や請求の窓口として前記損害賠償請求権を本件区分所有権者から承継し、これを前提に本件和解金債権を取得したものと認めるのが相当であるから、マンション管理組合法人は、「宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者」に該当すると言うべきである。

 なお、本件管理組合は、本件和解において、訴訟行為のために信託を受けたものでも、業として権利を実行するために債権を譲り受けたものとも認められない上、本件管理組合の管理者及びマンション管理組合法人は、いずれも本件区分所有権者を代理する法的地位を有するものであるから、前記損害賠償請求権の承継が信託法10条や弁護士法73条に抵触しないことは明らかである。

まとめ

 保証協会の主な業務としては、宅地建物取引業に係る取引に関する苦情の解決や、宅地建物取引業に関する取引を原因として発生した債権に関し弁済する業務等があります。

 また、不動産業者が保証協会へ弁済業務保証金分担金を納める弁済業務保証制度は、宅地建物に関する取引事故について取引の相手方を保護する制度のはずです。

 あまり無いかもしれませんが、取引をした不動産業者が倒産し、不動産業者に対してて債権等が残っている場合には、過去にこういった判例もあったと覚えておいたほうが良いと思います。

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