媒介業者は、媒介業者を排除して直接取引をした買主に対し、約款に基づき、成立に寄与した割合に応じた報酬請求権を有するとし、寄与した割合は5割であるとした事例(東京地判平24・11・16)
媒介契約終了後2年以内の直接取引
媒介契約を受託する際に、媒介契約書の約款までお客様に説明をしっかりとしている不動産の営業担当者はいるでしょうか?
約款には、直接取引に関する条文があり下記の内容が記載されています。
【直接取引】
媒介契約の有効期限内又は有効期限の満了後2年以内に、売主が媒介業者の紹介によって知った相手方と媒介業者を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、媒介業者は、売主に対して、契約の成約に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができます。
おそらく、知らない人や説明をしていない人はかなり多いかと思います。特に一般媒介契約の場合は複数社に依頼しているため、あとから受託する不動産会社が、これを約款まで細かくすることはあまり考えられません。
判例では、売主は買主を媒介業者に紹介してもらってから、媒介業者を排除し、別の代理人に依頼することで契約を行っています。
この契約が、媒介業者との媒介契約終了後2年以内のものであれば、媒介業者は、契約の成約に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができます。
事案の概要
⑴媒介業者は、買主との間で、平成22年9月6日、本件物件について、本件仲介手数料を630万円と定め、一般媒介契約書に基づき、本件媒介契約(契約締結後3ケ月H22.12.5まで)を締結した。一般媒介契約約款(以下「本件約款」という。)には、一般媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に、買主が、媒介業者の紹介によって知った相手方と媒介業者を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結した時は、媒介業者は、買主に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求できる(以下「本件相当額報酬請求権」という。)との記載がある。
⑵売主(訴外)と買主は、媒介業者の媒介で、本件物件について、本件売買契約を同年9月6日締結、売買代金2億4000万円、決済日を同月10日と決定するに至った。
⑶媒介業者は、平成22年9月3日、本件物件に通行権の負担があることを知り、その後通行権の負担が記載された本件和解調書を入手した。
媒介業者は、上記通行権の負担及び本件和解調書の内容につき、売買契約当日まで、買主に連絡しなかった。
⑷買主は、平成22年9月7日、本件銀行に対し、本件和解調書を示して、その存在につき説明したところ、本件銀行から、融資条件の変更に当たるから、融資が予定通り平成22年9月10日までに行うことは無理である旨の回答を受け、媒介業者に相談し、同月9日、本件売買契約の融資特約条項に基づいて本件売買契約を解除した。
⑸買主は、本件物件を購入したい意向を継続していたが、既に媒介業者から、売買代金を2億円に下げるように折衝することは無理である旨伝えられていたこと及び本件解除の経緯から、媒介業者に再度交渉を依頼することなく、解除の当日、買主の代理人弁護士に売主との間の交渉を依頼した。
買主は媒介業者に対し、本件解除後も本件物件の売買交渉を継続していることを媒介業者に対し告げなかった。
⑹平成22年9月10日、買主と売主は、本件物件につき、売買代金2億2850万円とする売買契約(以下「売買契約2」という。)を締結した。
⑺買主は、会社分割の手続を実施し、平成22年11月10日、買主の新たな法人が新設分割された。
⑻媒介業者は、媒介契約に基づき、買主及び新設分割した会社に対し、仲介手数料等の支払いを求めて提訴した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のとおり判示し、媒介業者の請求を一部認容した。
⑴媒介業者の買主に対する本件仲介手数料請求権の有無媒介契約が、代金についての融資の不成立を解除条件として締結された後、融資の不成立が確定し、これを理由として契約が解除された時には、買主は、媒介業者に対して、仲介手数料の支払義務がないと解するのが合理的であり、本件売買契約は、上記のとおり、融資特約条項に基づいて解除されていると認められるから、買主は、媒介業者に対し、本件仲介契約に基づく仲介手数料の支払義務を負わないというべきであり、また、本件売買契約及び売買契約2は、別個の契約であり、一連の売買契約とは認められず、よって、媒介業者の買主に対する本件仲介手数料請求権は認められない。
⑵媒介業者の買主に対する本件相当額報酬請求権の有無
①買主は、一般媒介契約の有効期間内である平成22年9月10日に、媒介業者の紹介によって知った売主との間で、媒介業者を排除して本件物件につき売買契約2を締結したものであるから、本件約款に基づき、売買契約2の成立に寄与した割合に応じた本件相当額報酬請求権を有するというべきである。
そして、本件売買契約は、媒介業者の提案により融資特約条項に基づいて解除されたものであり、本件和解調書が、本件売買契約当日まで買主に呈示されなかったことが主たる原因となったものと認められることからすれば、買主が媒介業者ではなく買主代理人に売買契約2の交渉を依頼したことにも相応の理由があると認められること、売買契約2は、買主代理人による交渉がなければ締結に至らなかったことが推認されることなど、諸事情を総合勘案すれば、媒介業者が、売買契約2の成立に寄与した割合は5割と認めるのが相当であり、買主及び新設分割した会社は、媒介業者に対し、売買契約2の売買代金2億2850万円の2.5%に6万円及び消費税を加算した606万1,125円の5割である303万0562円を連帯して支払う義務があると認めるのが相当である。
②本件約款が本件相当額報酬請求権の支払義務を定める趣旨には、不動産取引の媒介に誠実に努力した媒介者の媒介報酬を意図的に排除する目的で、売買契約の当事者間で直接に取引することを防止する意図があるとしても、本件相当額報酬請求権を認める期間を媒介契約の有効期間の満了後2年以内と長期に定めていることからすれば、上記媒介者を意図的に排除する目的の有無にかかわらず、媒介者の行った労力に対し、その効果が残存していると認められる相当な期間について、媒介者の寄与に応じて仲介手数料の支払義務を認める趣旨があるものと解するのが合理的である。
まとめ
媒介契約後、契約直前まで話が進んだ買主と直接取引をす場合、契約期間後であっても媒介業者から仲介手数料を請求される可能性は高いです。
特に収益物件等、高額な物件の場合、不動産業者は法務局で所有者を調べていますので、後からでもバレる可能性は十分にあります。
ただ、今回の判例では通行権に関する調査が遅れたことによる事も、媒介契約が解除された一因だったようにも読み取れます。
また、買主は2億4000万円の物件を2億2850万円で購入でているようで、1150万円安く購入できています。媒介業者に支払った約303万円を差し引いても、結果として買主は得をしたのかもしれません。
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