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媒介業者を排除、売主が仲介手数料の支払いを拒否

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媒介業者を排除、売主が仲介手数料の支払いを拒否

 媒介業者を排除して直接取引にて売買契約を締結した売主に対して媒介報酬全額の支払が命じられた事例(東京地判平29・11・15)

媒介業者を排除、売主が仲介手数料の支払いを拒否

 不動産を売り買いする時、どこの不動産会社を選ぶかはお客様の自由です。

 しかし、媒介契約を結んだ不動産会社に、契約直前まで色々動いてもらって、売買契約の成立が確実な中、

 仲介手数料を支払いたくないからという理由で、媒介業者を排除し、売主と買主の当事者間で直接取り引きをすることは、

 不動産業界ではルール違反の行為であり、裁判になった場合、結局仲介手数料の支払いを命じられる事が多いです。

事案の概要

 媒介業者は、売主(宅建業者)から売主が所有する賃貸ビルの売却の媒介の依頼を受け、平成27年4月10日、売主と標準媒介契約約款に基づく一般媒介契約を締結した。

 媒介業者は、本物件について物件調査を行うなどの必要な初期調査を済ませたうえで、レインズに登録し、チラシを配布し、金融機関にダイレクトメールを送信するなどして買主を募集した。

 平成27年6月、不動産情報サイトで本件物件の存在を知った買主(一般事業法人)が媒介業者に連絡し、本件物件を内覧したうえで、同年7月、買主は媒介業者に対して、銀行融資が得られれば本件物件を購入したい旨を表明し、不動産購入申込書(有効期限は同年8月16日)を提出した。

 その後、媒介業者は、本物件について不動産自体の通常調査に加えて、機械や設備の作動状況、賃借人や駐車場利用者との契約状況等、賃貸物件としての収支を把握するために必要な事項について売主から資料を入手し、その結果に基づき重要事項説明書や付属資料を作成し、売買契約書案と共に売主に送付した。

 これらの媒介活動の結果、売主と買主との間では、買主が売買代金について融資を受けることができれば、多少の事務的な手続きを経るだけで直ちに本件物件について売買契約を成立させることができる状態になっていた。

 この間、媒介業者・売主の媒介契約期限が7月10日に到来したため、10月10日まで更新した。

 しかしながら、8月になって銀行からの融資が不承認となったため、媒介業者・売主・買主が集まり今後の方策を協議し、媒介業者と売主のそれぞれが買主に融資してくれる金融機関を探すことが話し合われた。

 買主が退席後、売主の代表者は媒介業者の営業担当者に対して「当社が買主に融資してくれる銀行を見つけた場合には、約定の媒介報酬は払わない」と発言したが、媒介業者の営業担当者はこの発言に対して返答しなかった。

 その後、売主が自社の取引銀行に買主を紹介した結果、買主は本件物件購入資金の融資を得られることになった。

 この間、再度、媒介業者・売主の媒介契約の期限が到来したため、媒介業者は本件媒介契約を再度更新するよう売主に求めたが、売主は更新を拒絶した。

 そして、売主と買主は、10月23日、媒介業者を媒介業者とすることなく媒介業者が作成した重要事項説明書や売買契約書の内容を利用して2億8640万円で本件売買契約を締結し、所有権移転登記手続をした。

 媒介業者は、売主が媒介業者を排除して売買契約を締結し、故意に媒介業者の媒介による売買契約の成立を妨げたと主張して、民法130条により条件の成就が擬制された事を前提とする約定の媒介報酬又は同媒介契約上の直接取引条項に基づく相当額の媒介報酬の支払を求めて訴訟を提起した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のように判示して、媒介業者の請求を認容した。

 ⑴媒介報酬の不払特約について売主は、売主のあっせんによって買主が融資を受けられたときは、本件媒介報酬を不払とする特約が媒介業者の黙示的承諾によって締結されたと主張する。

 しかし、買主に対する不動産購入資金の融資の紹介、あっせん等は、売主から売却依頼を受けた媒介業者が本来的に行うべき媒介業務には含まれず、本件媒介契約書上も媒介業者が契約の相手方の融資の実現に向けた業務を行うべき旨は定められていない。

 また、媒介業者と売主はいずれも不動産仲介業等を営む株式会社であり、仮に媒介契約における合意内容を変更するのであれば、媒介契約の変更契約書等の書面を作成するのが当然であり、媒介業者の営業担当者が明示的に異議を述べなかったからといって本件において黙示的承諾によって特約が成立したとは認められない。

 ⑵本件売買契約からの媒介業者の排除について売主は、売買契約の成立が確実な中で媒介業者との媒介解約の更新を拒絶し、媒介業者が提供した媒介行為の成果を利用して、買主と直接交渉により本件売買契約を成立させたものであり、媒介業者を排除して故意に媒介業者の媒介による売買契約の成立を妨げたものと認められ、媒介業者は、民法130条に基づき、媒介業者の媒介により本件売買契約が成立したものとみなし、約定の媒介報酬の支払を請求できる。

 ⑶本件媒介契約に基づく媒介報酬額媒介業者は、本件売買契約を成立させる上で必要とされる媒介行為をつつがなく実施しており、売主が殊更(ことさら)に媒介業者を排除しなければ、残務を問題なく完結し、本件売買契約を成立させたものと見込まれるから、約定の媒介報酬全額を請求するにふさわしい媒介行為がされたものと評価するべきであり、本件媒介契約に基づく約定の報酬を減額すべき合理的な理由も認められない

 よって、売主は媒介業者に、本件売買契約の成約本体価格に対する約定の媒介報酬934万4160円(=売買代金額の3%+6万円+消費税)を支払え。

まとめ

 媒介業者を排除するこのような行為を「飛ばし」といいます。

 裁判になると媒介業者の営業活動の内容にもよりますが、結局仲介手数料を命じられる事が多いです。

 どうしても仲介手数料を支払たくないというのであれば、売主が不動産業者になっている物件を見つけるか、希望の物件を見つけたら法務局で謄本を取得し、所有者が不動産業者になっている場合は、連絡先を探して電話すると直接取り引きできるかもしれません。

 ただし、売主と連絡を取れたとしても、土地の仕入れた時の関係で仲介業者を通してしか契約しないという売主もいますので、そう簡単に「飛ばし」行為はできない事が多いです。

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