後日判明した隣地建物の私道への越境に係る合意につき、仲介業者の調査説明義務違反が否定された事例(東京地判平28・2・16)
契約後に判明した私道への越境に係る合意、説明義務違反になるのか!?
一戸建や土地等の取引をする上で隣地調査は重要な事です。
特に対象不動産が私道に面している場合念入りに調査を行う必要があります。
不動産業者の中にはこれらの調査の重要性を認識していない方も多く「今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫」と思って、市役所で調査した資料を重説に転記しているだけの方がいます。
今回の判例では、不動産業者の説明義務批判は認められていませんが、不動産担当者の意識次第で回避できた係争だったように思います。
事案の概要
⑴本件私道の状況
①本件土地および本件私道は元々Bらが所有していたが、平成19年6月に国に物納、売主(被告・法人)は国から本件土地を借地し、本件建物を所有していた。
②本件土地は位置指定道路である本件私道に面しており、隣地にはAが所有する3階建建物があり、2階、3階部分のベランダ及びその直下に当たる部分はコンクリートブロック塀で囲われ、本件私道に張り出して占有されていた。
このため、本件私道の幅員は本来4mであったが、出口部分は2.5m程度に狭められていた。
③本件私道部分の突き当りの借地人Cは、Aや売主らを相手に簡易裁判所に申し立て、昭和58年3月、本件私道につき、既存の建物越境部分は現状のまま存置することは認めるが、将来、新築等する際は撤去して道路に復すること等を内容とする調停が成立した。
またBらは前記物納に際し、平成17年9月、売主やA、Cの相続人らとの間で、Aの建物が本件私道部分に越境していること確認し、将来、改築等する際は撤去する旨の確認書を締結した。
⑵事案の概要
平成23年5月、買主(原告・個人)は、仲介業者(被告)の仲介にて、本件土地建物及び本件私道部分の共有持分3分の1(以下まとめて「本件土地建物等」という)を売買価格6570万円で売主と売買契約を締結した。
なお契約時に添付された物件状況報告書には、越境について取決め書も、紛争もないことが記載されていた。
売買契約締結後、売主は国から本件土地及び本件私道部分共有持分の払い下げを受け所有権を取得し、同年7月に本件土地建物等を買主に引渡した。
買主は平成23年11月頃、Aに対し、本件私道部分に越境している塀およびベランダ等の撤去を求めたが、Aは調停や確認書を引き合いに出し、譲らなかった。
買主はAと交渉を重ね、バルコニーの撤去は猶予するが、地上部分の塀等は買主の費用負担で撤去することを合意し、撤去工事と舗装工事を行った。
買主は、Aが私道部分に越境していることに関し、取決めはないと売主、仲介業者が虚偽の説明をしたことは、欺罔行為および説明義務違反の不法行為であるとし、不当に高価での物件購入による差額、仲介手数料相当額、越境部分の撤去工事費用等の損害賠償金の支払いを求め、本件訴訟を提起した。
一方、仲介業者は売主等からの回答を伝えたものであり、虚偽の説明はしていないと主張した。
売主も調停証書や確認書の各写しを所持しておらず、担当者が失念していたまでで、また物件状況報告書に記載した境界、越境に関する事項は本件土地のものであって本件私道部分に関するものではなく、虚偽の説明はしていないと主張した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次の通り判示し、買主の請求を全て棄却した。
⑴買主が主張する欺罔行為について、仲介業者は「越境の経緯はわからない。将来建て替えるまでは現状のまま。」と述べ、また売主を通じて財務省にも問い合わせて回答しており、事後的には誤った説明ではあるが、調停等を知って説明したものではないから、欺罔行為には当たらない。
また売主もその担当者が調停等の存在を前提に取引を進めたものではなかったから、詐欺の故意がなく、欺罔行為には当たらない。
よって、詐欺の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
⑵本件土地建物等の売買価格は、公道から本件土地への進入に支障があるとの現況説明の上で、斟酌(しんしゃく)して決定されたことが明らかであり、加えて、この支障を前提に、本件土地を売主が従前評価を依頼した不動産会社は、6390万円と評価しており、仲介業者も7064万円と見積もっている。
さらに、不動産鑑定事務所では6640万円と見積もっており、本件売買価格の6570万円は、不当に高額とはいえない。
したがって、損害は生じておらず、説明義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
⑶買主は前述の支障を認識し、仲介業者から越境の経緯が不明であり、さらに越境物の撤去が困難であると告げられていることにかんがみれば、買受後の本件私道部分の越境物の撤去に未確定の費用が見込まれることは、買主において甘受(かんじゅ)すべきものである。
したがって撤去に伴う工事費用は、買主の損害となるとはいえず、損害賠償請求は理由がない。
まとめ
私道に面している不動産の場合は特に隣地調査に念入りに行う必要がります。
この係争に関わった売主、買主、仲介業者の裁判に掛けた時間や、費用は調査次第で回避できたかもしれません。
ちなみに、本件土地を評価に関して
・従前評価を依頼した不動産会社は、6390万円
・仲介業者は7064万円
・不動産鑑定事務所では6640万円
売却価格が6570万円であれば、不当に高額とはいえないとされている事に対しては、鑑定士の評価は近いといえますが、仲介業者の査定金額の乖離は656万円です。
査定を依頼した時期にもよりますが、不動産業者の査定は担当者次第です。
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