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建築現場で作業員2人事故死、手付金の返金が認められなかった判例

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建築現場で作業員2人事故死、手付金の返金が認められなかった判例

  

 建築中マンションの労災死亡事故に伴い、売主は最上級の安心感、高級感等の性能品質等を有するとしたマンションを引渡す義務を履行できないとして、手付金等返還を求めた買主の請求を棄却した事例(東京地判平23・5・25)

建築現場で作業員2人事故死、手付金の返金が認められなかった判例

 建築中のマンションでの事故で、2人の作業員が死亡し、マンションの買主が手付金の返還慰謝料を求めた事例。

 結論としては、買主の主張は認められませんでした。

 判決の理由は、作業員が死亡した事によって市場価値が減少したとも認められず、買主の購入した目的が達成できないほどの瑕疵ではないと考えられたからです。

 エレベーターシャフトとは、エレベーターが走行する縦穴状の空間のことをさします。

  事案の概要

結論

買主の手付金返還請求や慰謝料請求は認められませんでした。

 (1)買主は、売主及び訴外会社との間で、次のとおりマンションの売買契約を締結した。

①契約日:平成20年4月6日

②所在地:東京都

③売買代金:1億3420万円

④手付金:1342万円

 (2)平成20年8月29日、本マンション施工業者の下請企業の従業員2名が、本マンションの共用部分となるエレベーターシャフト内において、同作業員らが乗った作業中のゴンドラが11階付近から地下1階ピットに落下する事故が発生し、搬送先の病院で同作業員らの死亡が確認された。

 本件事故については、事故直後、ニュースで報道された。

 また、インターネット上では本件事故について、事故直後に多数の書き込みが行われ、その後も、動画投稿サイトにおいて、本件事故に関する映像がアップロードされ、閲覧が可能な状態にあった。

 (3)買主によれば、本件事故により、本件建物は、本件マンションのエレベーターを利用するたびに強い不快感を抱き、居住すること自体に精神的苦痛を感じ、さらに、市場価値も下落し、これを回避することができないものとなり、またこうしたことと売主らの買主に対する十分な説明がない等の不誠実な対応が重なった。

 その結果、最上級の安心感、高級感、くつろぎ等の性能、品質、価値を有するもの(以下「買主の期待感」という)として引渡す義務、さらに本件事故による市場価値の低下のないものとして引渡す義務を売主らは果たすことができなくなったとして、買主は、売主らに対し、平成21年10月29日、解除の意思表示をした。

 (4)そして、買主は、売主に対し、手付金額に相当する1342万円と精神的な苦痛を受けたことによる慰謝料として200万円、及びそれらに対する遅延損害金の支払を求めて訴訟を提起した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示した。

 (1)請求原因1(主位的請求:債務不履行に基づく売買契約解除による手付金返還請求及び損害賠償請求について)

 一般に、債務が不完全であり、不完全な部分が追完不可能となったかどうかは、履行不能な場合と同様、この不完全な部分の追完が、物理的又は社会通念上、もはや追完不可能となったかにより判断されるものであり、マンションの区分所有部分の引渡債務においては、物理的に引渡可能であるが、社会通念上、買主が当該部分を買い受けた目的を達せられないほどの瑕疵がある場合

 (例えば、居住を目的として買い受けた場合において、当該部分で凄惨な殺人事件が起こったなど、社会通念上、忌むべき事情があり、一般人にとっても住み心地の良さに重大な影響を与えるような場合のように重大な心理的な瑕疵がある場合など。)を含むと解され、

 単に買主が主観的に不快感等を有するためにそのような目的が達せられないというものではこのような瑕疵があるとはいえない。

 そこで本件について検討するに、本件事故に関し本件マンションの住み心地の良さに重大な影響を与えるような情報や、それらの価値を貶(おとし)めるような情報が流布しているなどといった事実も認められないことに照らせば、本件建物に、社会通念に照らし、上記のような瑕疵が存在すると認めるに足りない。

 また、本件建物の市場価値が減少したと認めるに足りない。

 また、買主の期待感を保護すべき義務の不履行についても、この期待感が毀損されたと認めるに足りない。

 売主らは本マンションの案内書において「フラッグシップ」等の最上級の形容詞を用いて買主に期待感をもたせる建物であることを謳っているが、これは本件建物等の購入を勧誘するための文言に過ぎず、買主の期待感等を殊更保証するものとは認められず、売買契約書や重要事項説明書においても一般的マンションとして通常備わっている価値を超えて買主の期待感を殊更に保証しているとは認めるに足りない。

 この点においても、本件建物ないし本件マンションの立地、物理的な性能及び品質などのこれら高級性において重要である点については、前記のような価値や期待感が毀損されているとも認められない。

 (2)その他の請求原因

 買主は

 請求原因2(主位的請求:事情変更に基づく売買契約の解除による手付金返還請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求)、

 請求原因3(予備的請求:約定解除による手付金返還請求権(信義則ないし権利濫用による手付金放棄規定の不適用)及び債務不履行に基づく損害賠償請求)、及び

 請求原因4(予備的請求:工事施工者との共同不法行為)を併せて主張したが、いずれもそれらを認めるに足りないとした。

 裁判所は、買主の請求はいずれも理由がないとして、買主の請求を棄却した。

まとめ  

 昔、問題になったシンドラー社製の殺人エレベーターが、今も整備もされずマンションに付いているのであれば私も住みたくないです。

 シンドラー社のエレベーターが問題となったのは平成18年6月、この事件から約2年後のことでまだ記憶に新しかったから買主は余計に気にしたのかもしれません。

 

 暑い中、寒い中、日々建築現場で働いてくださる方がいるから私達は帰る家があり、生活ができているのだと思っています。

 今は、テクノロジーの分野ばかりに注目され、犬と人間の寿命と比較して、IT業界は「ドッグイヤー」といわれるほど発展は目覚ましいものがあります。

 いくらテクノロジーの分野が発展したとしても、その一つだけでは絶対に社会は成り立ちません。

 半沢直樹の4話で言っていた言葉ですが

 「どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、 自分の仕事にプライドを持って、日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝ち組と言うんじゃないかと俺は思う。」

 本当にそうだと思います。

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