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心理的瑕疵物件の告示義務期間は何年?

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心理的瑕疵物件の告示義務期間は何年?

 賃借人が変死事件をおこしたため連帯保証人に損害賠償請求が認められた事例(東京地裁 平成5年11月30日)

心理的瑕疵物件の告示義務期間は何年?

 自殺があった物件の告知義務の期間について、死亡時の状況や、近所付き合いのない都心部か、人づきあいが密な田舎でも違いはありますが、過去の判例から見ると最大で4~5年くらいとされている事が多いです。

 また、告知義務の期間は賃貸か売買でも異なり、一般的に賃貸物件の方が短く、売買の方が購入希望者に大きく影響すると考えられますので、長い期間告知義務があるとされています。

事案の概要

 

 (1)賃貸人賃貸人は、12階建のマンションの10階の一室を賃借人賃借人に、昭和63年7月23日、期間2年間(昭和63年8月1日から平成2年7月末日まで)、家賃月額7万3000円、敷金、賃料の二カ月分相当分の約定で貸し渡した。

 この賃貸借(貸家)契約は、その後当事者間で合意更新され、期間は平成2年8月1日から平成4年7月末日までの2年間、賃料は月額7万9000円となった。

 (2)他方、賃借人の父親は、賃貸人に対し、昭和63年8月24日、この賃貸借契約上の賃借人の一切の債務を連帯保証する旨を「連帯保証引受承諾書」をもって約定した。

 なお、この契約によると、賃貸借契約が更新されたときは、更新後の債務も保証する旨と特約されていた。

 (3)ところが、平成3年9月4日、賃借人は、本件マンションの借り受けた号室において、知り合いの女性を刺殺し、賃借人自身は本件マンションから投身自殺した。

 (4)この本件マンションにおける変死事件について、賃貸人は、「この事件により本件マンションの価値は下落した。

 仮にそこまでいえないとしても、このことにより賃料収入の減少等の損害を被った」として、連帯保証人(賃借人の父親)に対し損害の補塡を求めた。

この賃貸人の請求に対し、連帯保証人は、

「変死事件の真相は不明である。仮に賃借人に起因するとしても、保証人である連帯保証人の予測不可能な事態であり、連帯保証人に責任はない。また、連帯保証人は、賃貸借契約の賃借人から解除条項に基づき賃料2ヶ月相当分を賃貸人あて支払っているので、その余の損賠賠償するいわれはない

と反論した。

 この紛争は、当事者間では解決をみるに至らず、賃貸人は連帯保証人に対し、変死事件に伴う本件マンションの価値下落分一、842万2000円の損害賠償を求める保証債務請求事件の訴えを提起した。

判決と内容のあらまし

 判決は、賃貸人の連帯保証人に対する請求については、179万4800円の限度で容認した。

 判決の理由は以下の通りである。

(1)賃借人の賃借人としての責任

 賃借人は、本件マンションにおいて、知り合いの女性を刺殺し、自らは投身自殺をしており、賃借人として、用法義務違反ないし善管注意義務違反があったというべきであるから、右義務違反によって生じた賃貸人の損害を賠償する義務がある。

(2)連帯保証人の保証債務の範囲

 連帯保証人は、変死事件は連帯保証人の予測不可能な事態であり、保証責任はないと主張しているが、連帯保証人は賃借人の連帯保証人として、本件賃貸借契約上負うべき債務の一切を保証しているのだから賃借人が本件賃貸借契約に関しその責めに帰すべき事由により賃貸人に損害を与えれば、保証人としてその損害を賠償する義務がある。

 ただ、問題は、賃貸人が被った損害が、通常人の予測し得る範囲の損害かどうか、賃貸人の損害と賃借人の用法違反ないし善管注意義務違反との間の相当因果関係があるといえるかであるが、変死事件があれば、マンションの交換価値はある程度下がるであろうし、一定の期間、通常の賃料で賃貸することも困難になる。

 従って、賃借人の用法違反ないし善管注意義務違反と本件マンションの価値下落ないし賃料収入の減少及び賃貸人が出損を余儀なくされた修理費用との間に相当因果関係があり、連帯保証人の責任は否定できない。

(3)賃貸人の損害額

 ①本件マンションは、賃貸目的で購入されたものであって、直ちに売却する計画も必要性もないものであること

 ②変死事件後直ちには、通常の賃料で賃貸できないが、少なくとも4年すれば、居住用ないし事務所用の賃料の7割程度で賃貸できること

 ③変死事件後直ちに売却すれば、相当低額でしか売却できないが、通常の賃料で賃貸できるようになれば、通常の価格で売却できる可能性があること

が認められるから、

 賃貸人が求め得る損害は、賃貸人が本件マンションを通常の価格で売却できるようになるまでに生じる賃料の減収及び変死事件に伴う修理費用とみるのが相当である。

(4)具体的な損害額の算定

 変死事件がなければ、事件後4年間のうち従前の契約期間である約11ヶ月間は従前の賃料の月額7万9000円で、その後は月額8万5000円で賃貸し得たものであるから、変死事件による賃料の減収は、153万6000円であり、また、変死事件により床のカーペット等が汚損したことによる修理費用は、25万8800円で、計179万4800円となる。

 賃貸人が変死事件により、本件マンション価格が2000万円以上下がったという主張は、鑑定書もアンケートも変死事件後比較的近い時期における売却価格を問題にしており、連帯保証人の主張は採り得ない。

(5)損害賠償の予定の主張について

 連帯保証人は、賃貸人に約定の損害金として15万8000円を支払っているから損害賠償義務はないと主張しているが、連帯保証人は、「賃貸借期間内に当事者が契約を解除する場合には、2ヶ月分の家賃相当額支払って即時に解約することができる」旨の約定に従い、金員を支払ったに過ぎないのだから、連帯保証人の損害賠償義務が消滅ないし減額されるものではない。

まとめ

 2020年4月1日に民法改正があり、連帯保証人の保護が強化されています。

 その1つとして、連帯保証人の「極度額」を設定することが必須となり、極度額の定めのない保証契約は無効とされてる事となりました。

 例えば、極度額を50万円に設定し契約書に明記していれば、実際の損害額が100万円であった場合でも、50万円までしか支払わなくてもよい事になります。

 詳しくは過去の記事「民法改正をわかりやすく解説。賃貸者2つのルール」をご覧ください。

 また、相続放棄をするという方法もありますが、相続人は自己の相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。

 相続放棄の注意点は2つ

1.遺品整理はしないこと

2.相続人全員で放棄すること

 遺品整理をしてしまうと、「単純承認」とみなされ相続放棄が出来なくなります。

 単純承認を行うと相続人は、被相続人が残した相続財産に含まれる一切の権利と義務を無限に承継することになります。

 相続人全員で相続放棄をしないと、配偶者から連帯保証人へ、連帯保証人から兄弟へと、誰かひとりが損害賠償をかぶることになってしまします。

 心理的瑕疵の物件について、さらに詳しく調べたい方には下記の本がおすすめです。

 実際にあった話で、作者の妹の夫が自殺した事についての経験談が描かれた漫画です。

 読みやすく、分かりやすい本なので10~20分で一気に最後まで読めてました。

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