組事務所の敷地として使用する目的を隠していたとして、所有権移転登記の抹消、土地明渡し等を求めたが棄却された事例(神戸地判平16・1・16)
暴力団事務所ができる理由
暴力団事務所を開設する際に、暴力団の組長本人が取引の場に顔を出す事はまずないと思われます。
この判例のようにダミーの買主を利用して、土地を購入することがほとんどでしょう。
判例では、売主は地方公共団体となっていますので、売却する際の応募条件もありました。
それを無視した買主の責任も問われず、当初から不審な点が多かったとされる事実も、この不動産取引を取消しをするほどでは無いとされると、これからも暴力団事務所はどんな場所にでも建つ可能性はあります。
事案の概要
地方公共団体である売主は、土地(以下「本件土地」という。)を平成13年1月、以下の応募条件で先着順による売り出しを実施した。
①自己が所有し居住する住宅の敷地として使用できる方
②自ら住宅を建築し、又は住宅の建築を条件として譲渡する方(この場合、事前に売主の承認が必要)
③住宅の敷地として使用しない場合は、申込者本人が使用できる方
買主(個人)は、平成13年2月、本件土地について市有地売り払いの申込みをし、平成13年3月、売主と買主は本件土地について代金1,295万円余で売買契約を、住宅用敷地として使用しない場合には、申込者本人が風俗営業及び性風俗特殊営業の用途以外を目的として、売買契約締結の日から3年を経過する日まで使用するとの特約を付して締結し(以下「本件売買契約」という。)、同年5月、買主は売主に対し、残代金を支払い、本件土地について所有権移転登記手続をした。
平成13年4月、買主は、本件土地に延べ162㎡の建物を建築する旨の建築確認申請をし、建築確認を受けた。
同年8月、建物(以下「本件建物」という。)は完成し、同年9月11日、買主名義の建物保存登記がなされた。
さらに同年9月25日、本件建物について、暴力団組長名義に所有権移転登記がされ、暴力団組長は、本件建物に暴力団事務所を開設した。
売主は、買主に対して所有権移転登記の抹消登記手続を求めると共に、暴力団組長に対して本件建物を収去し本件土地を明け渡すことを求め、次のように主張して提訴した。
すなわち、暴力団組長は、暴力団事務所として使用する目的で、買主をダミーとして利用し、本件土地を買い受けたものである。
普通地方公共団体である売主は、かかる事実を知っていれば、本件土地を売却するはずがなく、買主が暴力団事務所として使用する目的は本件売買契約の重要な事項であって、この点に関する錯誤は要素の錯誤であるから、本件売買契約は錯誤により無効である。(錯誤無効)
または、前記のとおり、暴力団組長は、暴力団事務所として使用する目的を秘して、ダミーである買主が買受け自ら使用するかのように偽って売買申込みをした。
売主は、買主が自ら使用するものと誤信して売却したのであって、暴力団組長が暴力団事務所として使用する目的で買い受けるのであれば、本件土地を売却することはなかった。(詐欺取消)
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のように判示して売主の請求を棄却した。
(1)宝石のリメイク事業のために本件土地を購入したという買主の言い分は説得力が乏しいし、買主が本件土地の購入代金や本件建物の建築代金を自ら出捐(しゅつえん)したことを裏付ける証拠もなく、本件建物を暴力団組長に売却した経緯に関する説明も説得力に乏しく、買主、暴力団組長(以下「買主、暴力団組長ら」という。)の間の本件建物売買の代金授受についても領収証以外には裏付けがないのであって、買主の本件土地購入の目的、経緯や、本件建物を暴力団組長に売却するに至った経緯については不審な点が多いというべきである。
しかしながら、以上のことは、買主、暴力団組長らの言い分の信用性を低下させるものではあっても、それを超えて、より積極的に、買主、暴力団組長らが本件土地を当初から組事務所敷地として使用する目的を有していたという売主の主張を推認させる事実としては未だ不十分といわざるを得ない。
(2)また、本件建物の建設当時から、本件土地の隣接地の管理者が、本件建物が暴力団事務所として使用されるということについて抗議の声を上げていたことが認められる。
しかしながら、同人がどのような経路からそのような噂を入手したのか、その噂に何らかの根拠があったのかなどの事実は明らかでないから、上記の事実もまた、組事務所敷地としての当初からの使用目的という売主主張の事実を推認するには不十分なものというべきである。
これらの売主に有利な事実や証拠を総合しても、買主、暴力団組長らが、本件売買契約当時から、本件土地を組事務所敷地として使用する目的を有していたと認定するのは、推認の過程に飛躍があり、困難であるといわざるを得ない。
(3)本件土地購入及びその後の本件建物の売買に関する買主、暴力団組長らの言い分にはあいまいな点、不自然、不合理な点があり、必ずしも全面的に信用することはできないものの、その一方で、買主、暴力団組長らが、本件売買契約当時から、本件土地を暴力団事務所敷地として使用する目的を有していたことを認めるのに十分な証拠はなく、かえって、これと矛盾する事実が認められることに鑑みると、本件売買契約当時における暴力団事務所使用目的の事実を認定することはできない。
そうすると、かかる事実を前提とする、売主の錯誤及び詐欺の主張はいずれも認めることができない。
まとめ
不動産業者は、取引する際は相手をあらかじめ「反社チェック」することがあります。
ここで調べる事によって、暴力団員であるかどうかはある程度は分かりますが、判例のようなダミーの買主をつかわれると見破る事は困難です。
暴力団同士の抗争事件はよくある事です。一日中パトカーが事務所の近くを見張っている事もあります。
暴力団事務所が近所に開設された人はたまったものではありません。売却時にも大きく影響します。
私はこの取引は取り消るべきであったと思います。
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