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更新料不払いで信頼関係の破壊、賃貸借契約解除が認められた事例

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更新料不払いで信頼関係の破壊、賃貸借契約解除が認められた事例

長期にわたる2回の更新料不払いが信頼関係の破壊にあたるとした、賃貸人からの賃貸借契約解除が認められた事例(東京地判平29・9・28)

更新料不払いで信頼関係の破壊、賃貸借契約解除が認められた事例

 賃貸借契約の更新料に関しては、最高裁判決(平成23年7月15日、第二小法廷)で一定の条件のもと適法性が認められています。

賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当として一定の条件のもとでその適法性を認めた。

 更新料を取るか取らないかは、地域によって大きく変わります。

 国土交通省が平成19年にまとめた「民間賃貸住宅に係る実態調査」によれば、更新料を徴収する割合は神奈川県90.1%、千葉県82.9%、東京都65.0%ですが、大阪府、兵庫県では0%となっています。ただ、少し古いデータでもありますので実際には更新料を取っている賃貸物件も少しはあります。

事案の概要

 平成24年11月、賃貸人(法人)賃借人(個人)との間で、下記内容の建物賃貸借契約(本件契約)を締結し本件建物を引き渡した。

・月額賃料:5万6000円

・賃貸期間:2年間

・特約:当事者協議の上、更新後の賃料の1か月分を賃借人から賃貸人に支払うことにより本件借契約を更新できる(更新特約)

 平成26年10月、賃貸人は賃借人宛てに「本件契約を更新するか否か、更新の場合には、賃借人は賃貸人に対し、更新後の月額賃料1か月分(5万3700円)の更新料(第1回更新料)を支払う必要がある」旨を記載した第1回更新に関する連絡書を送付した。

 同連絡書について、賃借人は賃貸人に本件契約の更新を希望する旨の通知を行った。

 賃貸人は、賃借人に対して、再三にわたり第1回更新料の支払い、賃借人の賃料債務等の第三者への保証の委託(賃料等保証委託)を催告したが、賃借人が対応しないことから、平成27年3月、第1回更新料の支払及び賃料等保証委託を同年4月末日までに行うよう催告する旨の通知書を賃借人に送付した。

 平成28年10月、同年11月の本件契約の第2回更新時期に先立って、賃貸人は賃借人に対し「再三の催告にもかかわらず、第1回更新料の支払いと保証委託手続が未了であるため、賃貸人・賃借人間の信頼関係は既に破壊されており、本契約の継続は不可能であること、賃借人が本件契約の更新を希望する場合には、第1回更新料に加え第2回更新料(5万3700円)を合わせて支払うとともに、保証委託手続が必要であること、これら所要の手続をしない場合には本契約は終了し、本件建物から退去してもらう」旨の通知をした。

 しかし、この後も賃借人による更新料の支払い等はなかったことから、平成29年6月、賃貸人は賃借人に対し、本件更新料の不払い等を理由とする本件契約の解除の意思表示をするとともに、本件建物の明渡し、未払いの更新料10万7400円の支払を求める本件訴訟を提起した。

 これに対し賃借人は、「本件更新料の支払等をしないのは、賃貸人が更新後契約書を交付しなかったこと、本件建物の鍵を修理してくれないこと、共用部分の掃除をしてくれなかったことが原因であり、今後も更新契約書の交付がない限り、未払更新料を支払うつもりはない。

 本件契約は法定更新になっているから、更新料の不払いは解除事由にならない。」などと主張してこれを争った。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次の通り判示し、賃貸人の請求を全て認容した。

 ⑴賃貸人は、本件契約の第1回更新が更新特約に基づいて行われたとして、第1回更新料の支払を賃借人に求め、賃借人も更新特約に基づいて更新を行う意思を賃貸人に表明しており、また、本件契約の第2回更新時期において、賃貸人は、本件契約が更新特約に基づいて更新されたとして、第2回更新料の支払を賃借人に請求し、賃借人も更新料の支払債務が発生していることを前提に、賃貸人の対応が改善されない限り、同債務を履行しない旨の意思を表明しているのであるから、本件契約は、第1回、第2回の各更新時期において、更新特約に基づいて更新されたというべきである。

 よって、賃借人は賃貸人に対し、更新特約に基づく更新料10万7400円を支払う義務を負う。

 ⑵本件更新料の不払は、不払の態様、経緯その他の事情からみて、賃貸人・賃借人間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には、更新後の本件賃貸借契約の解除原因となり得るところ、賃借人は、第1回更新料については口頭弁論終結時までの2年9か月あまりもの間、第2回更新料については9か月あまりもの間、同義務を履行していない。

 賃借人は、本件更新料を支払わない理由を縷々(るる)述べて、賃貸人が賃借人の要求に応じない限り、今後も本件更新料を支払う意思はない旨を明言するが、賃貸人が賃借人の要求に応じることは更新料支払義務の発生条件にも履行条件にもなっていないから、賃借人において本件更新料を支払わなくてもよいとする法的な根拠はない。

 ⑶以上のように、本件更新料の不払の期間は相当長期に及んでおり、不払いの額も少額では無く、賃借人が合理的な理由なく本件更新料の不払いをしており、当該不払が解消される見込みは低く、賃貸人・賃借人間の協議では、その解消も期待できないなどの事情に照らすと、本件更新料の不払は本件契約の当事者の信頼関係を失わせるに足る程度の著しい背信行為であるということができる。したがって、本件更新料の不払いは無催告解除の原因となるから、賃貸人の本件契約解除の意思表示の賃借人への到達により、本件賃貸借契約は終了し、賃借人は賃貸人に対し本件建物を明渡す義務を負う。

まとめ

 賃貸借契約の更新料は、最高裁判決でも一定の条件のもとで適法性が認められていますので、更新料の支払いをしない場合、この判例と同じ結果になると思われます。

 賃貸借契約は、長期間の継続的契約関係である為、当事者間の信頼関係が重要となります。

 信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行がなければ契約を解除することは出来ません。これを「信頼関係破壊の理論(法理)」と言います。

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