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民法違反、境界から50cm未満に建てられた隣地建物に関する判例

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民法違反、境界から50cm未満に建てられた隣地建物に関する判例

 境界から50cm未満に建てられた隣地建物について、建物部分の収去請求を退け損害賠償のみを認めた事例

(神戸地判平15・6・19)

民法違反、境界から50cm未満に建てられた隣地建物に関する判例

 

 建物を築造するには、境界線から50cm以上の距離を保たなければならないとされています。(民法234条1項)しかし、実際には境界線から50cm離れていない物件はいくらでもあります。

 同じように隣地も50cm未満であれば、50cm未満で建築する際の合意書は取りやすいです。

 しかし、隣地が50cm以上離れているようであれば、建て替えの際に50cm後退するように求められる事があります。

 通常これは契約前に不動産業者の担当者が隣地に確認を必ずしておくべきです。この事が原因で契約がキャンセルになる事はたまにあります。

 道路に関しても私道で他人地を含んでいる場合には、「掘削の同意書」また通行際の「通行の合意書」。越境の場合には「将来撤去の覚書」も必要です。

事案の概要

 本件建物(倉庫ないし車庫)の建築主らに対し、隣地所有者は、建築主らが本件建物の新築工事を始めた直後から、本件境界線から50cm以上離して建築するよう口頭で求めたが、建築主らは、隣地所有者との交渉を一切拒否し、工事を強行したとして、隣地所有者は平成14年3月19日到達の書面で、建築主らに対し、本件建物を本件境界線より50cm以上離すことを求めるとともに、本件建物の建築廃止又は変更を申し入れた。

 ところが、建築主らは、隣地所有者の上記申入れにもかかわらず、工事を続行し本件建物を建築したことから、隣地所有者は、建築主らに対して、本件建物の建築により、良好な居住環境を形成し、平穏に生活する人格的利益を侵害されたとして、民法234条に基づき、本件建物のうち、本件境界線から50cm未満にある建物部分約4.4㎡の収去を求めるとともに、被った精神的苦痛に対する慰謝料の支払を求めた。

 なお、本件建物の存する地域は、防火・準防火地域ではない。

判決と内容のあらまし

 

 裁判所は、以下のとおり判断し、本件建物部分の収去請求については棄却したが、慰謝料20万円を認定し、建築主らに支払を命じた。

 (1)建築主らは、平成14年1月10日ころから、本件建物新築工事を始めたが、同年2月5日以降、隣地所有者から、本件建物の建築工事業者の担当者に対し、事前の十分な説明もないまま、隣地所有者の土地に無断で入って工事がなされている等の異議申入れがあったため、建築工事業者の担当者は、上記について謝罪するとともに、境界の位置について説明し、また、本件建物は、従前のプレハブ車庫及びそれ以前にあった木造平屋建建物と同じ位置に建築するもので、従前と条件は変わらず、建築確認も得られていること、隣地所有者の建物も50cm離れておらず、庇はむしろ越境している等、お互いさまのところと説明し、その理解を求めた。

 (2)同年3月10日ころには、本件建物はほぼ完成し、建築主らは、建築工事業者から本件建物の引渡しを受けた。

 その後、隣地所有者は、3月19日到達の書面で、建築主らに対し、本件建物を本件境界線より50cm以上離すことを求めるとともに、本件建物の建築廃止又は変更を申し入れた。 

 (3)以上の事実によれば、

 ①建築主らは、隣地所有者との交渉を一切拒否して工事を強行したわけではなく、隣地所有者からの異議申入れに対しては、建築工事業者の担当者が上記の謝罪や説明を行ったうえで、その工事を進めたものであること

 ②建築主らが、平成6年に、プレハブ車庫を建築した際には、隣地所有者から何らの異議申入れはなかったうえ、同プレハブ車庫は、それ以前に存在した木造平屋建建物とほぼ同じ位置に建築されたものであり、かつ、本件建物も同プレハブ車庫とほぼ同じ位置に建設するものであったこと

 ③隣地所有者が、建築主らに対し、民法234条違反を理由にして、本件建物建築工事の廃止ないし変更を明確、かつ、断定的に求めたのは、平成14年3月19日到達の書面によってであり、その時点では既に本件建物は完成済みであったこと

に照らすと、隣地所有者は、建築主らに対し、民法234条違反の本件建物の存在を受忍しなければならなくなったことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料は求め得るとしても、本件建物の収去を求めることはできないと認めるのが相当である。

 (4)なお、隣地所有者の建物の壁面が本件境界線から50cm未満の距離内に位置し、あるいは、庇が本件境界線を越えて存在するとしても、それらは、隣地所有者の土地と建築主らの土地がもともと一筆の土地であったのが、二筆に分筆されたために生じた結果であることからすれば、本件の損害賠償請求が、権利の濫用やクリーンハンドの原則違反になるとは認めがたい。

まとめ

 クリーンハンドの原則とは、「悪いことをしている者に他人を訴える権利は無い」「違法行為をしている者を法律で保護する必要は無い」という考え方です。

 「隣地所有者の建物も50cm離れておらず、庇はむしろ越境している」だからといって原則違反になるとは限らないという事です。

 一度こういった隣地の方とトラブルがあると何十年もいさかいが続きます。人によっては近所に「あそこの家は建築違反の建物だ」言いふらす人もいるでしょう。特に買主が個人の場合は、こういったトラブルがないようにしっかりと調査を行い、トラブルを未然に防ぐのが不動産業者の仕事だと思います。

民法 第234条(境界線付近の建築の制限)
建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。
前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

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