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競売による通行地役権の承役地の売却、買受人へ通行地役権を主張できるか?

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競売による通行地役権の承役地の売却、買受人へ通行地役権を主張できるか?

 競売による承役地取得者が、地役権設定登記の欠缺(けんけつ)を主張できるか否かは、抵当権設定時の事情によるとした事例(最高裁三小判平25・2・26)

競売による通行地役権の承役地の売却、買受人へ通行地役権を主張できるか?

 この判例では、承役地の買受人が、地役権設定登記の欠缺(けんけつ)を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たるか否かは、担保不動産競売による土地の売却時における事情ではなく、最先順位の抵当権の設定時の事情によるとされています。

 また、この判例は、専門用語も多いため解読するのに時間掛かります。ご興味のある方だけ読み進めてください。

上告人上告をする人(下級審で敗訴した側)

上告人…上告をされた人(下級審で勝訴した側)

訴外…当事者以外の人

買受人… 競売で落札した人

上告人が担保不動産競売により取得した土地…「本件土地」

取得した土地の一部…「本件通路」

ポイント

■地役権の「要益地・承役地」とは?

・要役地…利用する土地(通行地役権者)

・承役地…利用される土地

地役権とは、自分の土地の利便性を高めるために、他人の土地を利用することができるという権利のことである(民法第280条)。

この地役権が設定されている場合において、利便性を高めようとする土地(すなわち自分の土地)のことを要役地という。

例えばAが、自分の所有地から公道に出るために、Bの所有する土地を通行しようとして、Bの所有地の一部について通行地役権を取得し、通行路を作ったとする

このときAの所有地は、通行路の開設によって利便性を高めているので、Aの所有地は「要役地」である。

また、このときA利便性を高めるために利用されているB所有地は「承役地」となります。

事案の概要

 ⑴上告人が担保不動産競売により取得した土地の一部は、国道に通ずる通路の一部である。

 この通路は、昭和55年頃までに、当時本件土地を所有していた訴外本件土地の前所有者及び被上告人X1により開設された。

 本件土地の一部につき、昭和56年11月2日、訴外ウサギ銀行(仮名)を根抵当権者とする根抵当権が設定され、同月10日、その旨の登記がされ、本件土地につき、平成10年9月25日、訴外サル銀行(仮名)を根抵当権者とする根抵当権が設定され、同日、その旨の登記がされた。

 平成18年7月20日にサル銀行から根抵当権の移転を受けた訴外カエル銀行(仮名)の申立てに基づいて、本件土地につき、担保不動産競売の開始決定がされ、平成20年4月11日、買受人である上告人が代金を納付して、本件土地を取得した。

 本件土地の前所有者は、平成19年1月頃までに、本件通路某市に公衆用道路として移管することを計画し、本件通路を使用する者との間で順次「私設道路通行契約書」と題する書面を作成した。

 ⑵本件土地の前所有者は、昭和55年頃から各私設道路通行契約書の作成時までに、被上告人X1~X6との間で、X1~X6がそれぞれ所有する土地を要役地とし、本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨を順次合意した。

 また、本件土地の前所有者は、訴外近隣住人との間で平成18年8月7日に、訴外近隣住人が所有する土地を要役地とし、本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨合意した。

 その後、上記土地を近隣住人から訴外買主が取得し、同社から被上告人X7が賃借した。

 これらの通行地役権の設定登記はない。

 ⑶原審は、本件土地の担保不動産競売による売却時に、本件通路は外形上通路として使用されていることが明らかであり、上告人は、本件通路が使用されていることを認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったとして、X1~X7(以下「被上告人ら」という。)は、上告人に対し、通行地役権等を主張することができると判断したため、不服とする上告人が上告した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のように判示し、原審に差し戻した

 ⑴通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において、最先順位の抵当権の設定時に、既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることが、その位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、特段の事情がない限り、登記がなくとも、通行地役権は上記の売却によっては消滅せず、通行地役権者は、買受人に対し、当該通行地役権を主張することができると解するのが相当である。

 上記の場合、抵当権者は、抵当権の設定時において、抵当権の設定を受けた土地につき要役地の所有者が通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができる上に、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。

 これらのことに照らすと、上記の場合には、特段の事情がない限り、抵当権者が通行地役権者に対して地役権設定登記の欠缺(けんけつ)を主張することは信義に反するものであって、抵当権者は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず、通行地役権者は、抵当権者に対して、登記なくして通行地役権を対抗することができると解するのが相当であり(最二小H10・2・13判決)、担保不動産競売により承役地が売却されたとしても、通行地役権は消滅しない

 ⑵これに対し、担保不動産競売による土地の売却時において、同土地を承役地とする通行地役権が設定されており、かつ、同土地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用され、そのことを買受人が認識していたとしても、

 通行地役権者が承役地の買受人に対して通行地役権を主張することができるか否かは、最先順位の抵当権の設定時の事情によって判断されるべきものであるから、担保不動産競売による土地の売却時における上記の事情から、当然に、通行地役権者が、上記の買受人に対し、通行地役権を主張することができると解することは相当ではない。

 ⑶以上によれば、本件土地の担保不動産競売による売却時に、本件通路が外形上通路として使用されていることが明らかであって、被上告人らが本件通路を使用していたことを上告人が認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったことを理由として、被上告人らが上告人に対し、通行地役権等を主張することができるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

 論旨は理由があり、原判決中被上告人らに関する部分は破棄を免れない。

 本件土地に抵当権が設定された当時の事情等について更に審理を尽くさせるため、上記の部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。

まとめ

 民事執行法では、担保権者に対抗することができない地役権は、原則として競売による売却により消滅することになっています(民事執行法59条第2項,同法188条)

 このことからも、「最先順位の抵当権の設定時の事情によって判断されるべきもの」とされたのだと考えられます。

 地役権は、一戸建の件数が少ない場所ではあまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、稀にマンションにも地役権が設定されていることがありますので、土地の謄本も念の為チェックしておく必要があります。

 また、現地調査を行う際は地役権が設定されている可能性がありそうな通路や、高圧電線等は慎重に調査を行った方が良いです。

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