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「耐震補強はしっかりとしている」と説明した売主の嘘

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「耐震補強はしっかりとしている」と説明した売主の嘘

 建物の基礎等についての不利益事実の不告知を理由として、消費者契約法に基づき売買契約の取消しが認容された事例(名古屋地判平28・12・20)

「耐震補強はしっかりとしている」と説明した売主の嘘

 不動産の売買契約時、耐震診断の記録の有無については物件状況報告書で説明を行います。

 これは、売主が買主に対して売買契約締結時に対象不動産の状況を説明する書面です。

 売主が事業者であれば消費者契約法によって、より重い説明義務が課され、虚偽の記載があった場合は損害賠償請求の対象になります。

 この判例の場合、売主は、対象不動産の耐震補強はしっかりしてあると、買主に説明をしていますが、実際には土台と基礎の一体性を欠く状態に陥った事実を隠していたと推認され、

契約は取り消しとなり、売主は約283万円の損賠賠償を買主に支払うように命じられています。

 契約を行った媒介業者は、建築士等とは異なり、取引物件の物的状態の調査能力を備えているわけではないため、不法行為あったとは認められませんでした。

事案の概要

 平成23年12月、売主(業者、被告)は、昭和52年築の中古戸建(以下「本物件」という。)を取得した際、北側の基礎が北に大きく沈下し、北側床面も北に沈下していたため、本物件の土台から上を持ち上げるジャッキアップ工法による工事をし、基礎天端と土台の間に生じた約5〜6cmの隙間に鉄板を挟み、床を水平にした。

 平成24年2月12日、本物件の売却を委託された媒介業者(被告)は、本物件のリフォーム工事筒所を確認するとともに、売主にリフオーム工事費用を確認したところ、売主から600万円かかった旨説明された。

 2月18日、本物件を娘夫婦の夫(原告・夫)、妻(原告・妻)の自宅として適当と考えた妻の父は、内覧に行き、媒介業者に本物件の耐震対策について問うと、媒介業者はリフォームに600万円をかけている旨回答した。

 同月19日、妻も内覧に行き、媒介業者に地震が来た時大丈夫かと尋ねた。

 媒介業者はフルリフォームしており、600万円をかけている旨回答した。

 翌日、夫が内覧時、耐震に関する質問した時も、媒介業者は同様の回答をした。

 同月26日、夫らは、売買契約締結前に、再度本物件を訪れ、売主に耐震対策について尋ねたところ、売主はリフォーム工事をし、耐震補強をしっかりしてある旨説明した。

 その後、重要事項説明の際、妻の父は、耐震診断欄の「無」との記載につき、媒介業者に確認した。

 媒介業者は、本物件は耐震診断を受けていないが、お金をかけ耐震補強をしっかりとしている旨述べたが、売主は、媒介業者の発言に対し何ら異を唱えなかった。

 夫らは売主と売買代金2380万円で契約を締結した。

 3月4日、夫らは売主に、不動産取得税の軽減措置を受けるため、本物件の耐震基準適合証明書の発行を求めたが、後日、同証明書の発行はできないとの回答を受けた。

 7月1日、妻は、本物件について市の耐震診断を受けたところ、耐震診断総合判定値0.57という結果であった。

 また、夫らが依頼した建築士の目視確認の結果では、建築基準法46条所定の方法で計算した耐力壁量は、1階X方向で必要壁量の34%しかなかった。

 これらの状況から、夫らは、売主に売買契約の取消し、売主、媒介業者に不法行為等に基づく損害賠償を求め、提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のように判示して、夫らの請求のうち、売主に対する売買契約の取消しと損害賠償請求を認容した。

 夫らは、媒介業者から、本物件が耐震補強してあり、震度6の地震にも耐えられる旨の不実告知を事実と誤認し、売買契約を締結したと主張する。

 確かに、夫らは、本物件の耐震性について強い関心を持っていた中、重要事項説明時に、本物件に対する耐震診断がされていない事実を知ったにもかかわらず、契約を中止等しなかったことから、媒介業者は、耐震補強した旨の説明をしたものと推認できるが、夫らは内覧時、耐震対策について漠然とした質問をしたに過ぎないから、その程度の質問を受けた媒介業者が自ら進んで、震度6に耐えられる旨、事実に反する説明をしたかどうか疑問が残るため、不実告知により、売買契約を取り消す旨の夫らの主張は理由がない。

 また、夫らは不利益事実の不告知による売買契約の取消しも主張する。

 本物件は、地盤の不同沈下と、本物件の土台から上を持ち上げるジャッキアップ工法の施工により、基礎天端(てんば)と土台の間には隙間が生じ、土台と基礎が緊結されているとはいえず地震による横揺れの際に転倒する危険があるものと認められ、この事実は本物件を購入するか否かの判断に通常影響を及ぼす不利益な事実であるということができる。

 ところが、売主は、本物件のリフォーム工事担当者として、土台と基礎の一体性を欠く状態に陥った事実を認識していたものと推認されるにもかかわらず、契約締結当日、夫らにこの事実を告知しないばかりか、あたかも本物件の基礎に問題がないかのように誤認させる説明をし、夫らは、売買契約を締結したものと認められる。

 以上より、売主の夫らに対する不利益事実の不告知の事実が認められ、夫らは売買契約を取り消すことができ、売主は、買主らに本物件の売買代金の不当利得返還義務を負う。

 また、売主は、本物件の北側部分の土台と基礎が分離した状態を告げず、本物件基礎に問題がないかのように、夫らに誤認させる説明をした行為は不法行為を構成するといえ、売主は不法行為によって生じた損害(登記手続費用他283万円余)を賠償する義務を負う。

 夫らの媒介業者への請求については、宅建業者は建築士等と異なり、取引物件の物的状態の調査能力を備えているわけではないから一般人の通常の注意をもって取引物件の現状を調査し、知り得た瑕疵について説明すれば足りると解するのが相当であり、夫らの主張する物的状態に係る瑕疵は、一般人の通常の注意をもって物件の現状を調査することで知り得る瑕疵ではないことから、媒介業者の説明が不法行為等を構成するはいえず、夫らの請求は理由がない。

まとめ

 物件状況報告書に記載されている耐震診断の記録は、売主が買主に対して売買契約締結時に対象不動産の状況を説明する書面ですので、媒介業者の社印や、宅建印を押印する場所はありません。

 空き家の場合や、売主が遠方に住んでいる場合、営業の担当者は、物件状況報告書を自分で勝手に調べて書いてしまう方もいますが、

 引渡後、買主から設備の不具合等クレームがあった場合は、売主に「私は物件状況報告書にそんな事は書いていません、あなたが勝手に書いたんでしょ?」と言われてしますケースがありますので、可能であれば売主本人に書いてもらうのが良いかと思います。

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