賃借人側からの賃貸借契約の解除は可能であったとして、賃貸人の賃料支払請求等が認容された事例(東京地判平25・9・25)
25ヶ月間の家賃滞納、離婚で妻のみが占有
判例では、離婚した賃借人の元妻が、賃借人の退去後も占有を継続し、賃料を25か月滞納しています。
強制退去を求めるための条件として、法的に具体的な滞納期間が定められているわけではありませんが、一般的には3ヶ月以上の長期間、家賃の滞納があることが条件とされています。
お金のない人から一括回収はむずかしいので、経費がかかっても、早めに弁護士に依頼して法的手段にでた方が良いかと思われます。
事案の概要
⑴賃貸人(原告)の父は本件建物を所有していたところ、賃借人(被告)に対し、平成21年8月25日、本件建物を、以下の約定で賃貸し、同年9月1日、本件賃貸借契約に基づき、本件建物を引き渡した。
期間平成21年9月1日から平成23年8月31日ただし、当事者間で協議の上、契約を更新することができる。
また、当事者のいずれからも契約期間満了の1ヶ月前までに相手方に対して何らの申し出がない場合には期間満了の翌日から起算してさらに同一期間同一条件で契約を合意更新したものとみなす。
・賃料月額78,000円
・管理・共益費月額7,000円
・賃料及び管理共益費は、翌月分を毎月末日までに支払う。
・更新料50,000円
⑵連帯保証人(被告)は、賃貸人の父との間で、平成21年8月12日、本件賃貸借契約により生じる賃借人の一切の債務について賃借人と連帯して責任を負うとの連帯保証契約を締結した。
⑶賃借人と妻(被告)は、本件賃貸借契約締結当時婚姻しており、共に本件建物に入居していたが、賃借人と妻は離婚し、平成22年11月頃、賃借人のみが本件建物を退去した。
しかし、賃借人の名義変更はなされないまま本件賃貸借契約は継続し、妻はそのまま本件建物の占有を継続したものの、平成23年1月分から、賃料の支払いをせず、本件建物を不法に占有している。
⑷また、賃借人も、平成23年1月分からの賃料の支払いを怠っている。
⑸平成23年10月11日、賃貸人の父は死亡し、賃貸人は、賃貸人の父の本件建物を相続したことに伴い、本件賃貸借契約の賃貸人たる地位を相続した。
そこで、賃貸人は、賃料不払い(25か月)を理由に賃貸借契約の解除を通知のうえ、賃借人と妻に対しては建物明渡しを、また賃借人、連帯保証人、妻に対しては未払賃料及び更新料と明渡完了までの賃料相当額の支払いを求め、提訴した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のとおり判示し、賃貸人の請求を一部認容した。
⑴妻は、本件契約の当初から、本件建物において、賃借人と同居していた者と認められるところ、その後、妻は、賃借人と離婚し、同人は、平成22年11月頃、本件建物を退去して、その後は、妻のみが本件建物に居住していたこと、賃借人は、本件契約に基づく賃料の支払を平成23年1月分から滞納し始め、本件契約は平成25年2月3日に解除されたことが各認められる。
これらの事実によれば、妻は、少なくとも平成23年1月1日から、賃貸人に対抗できる正当権限なく、本件建物を占有し、賃貸人に対し本件建物の賃料相当額の損害を被らせたものということができる。
⑵①賃貸人の父は、平成22年12月前後頃、賃借人から、本件契約の名義人を賃借人から妻に変更して欲しい旨の申出を受けたこと
②賃貸人の父はこれに応じず、賃借人に対し、名義人を賃借人とするのが困難ならば、本件契約を終了する旨伝えたこと
③その後、賃借人から賃貸人の父に対し、上記申出に係る新たな連絡はなかったこと
④本件契約においては、当事者のいずれからでも契約期間満了の1か月前までに相手方に対して書面で本件契約の存続に関して何らの申出がない場合には、当該期間の満了の翌日から更に同一期間賃料等同一条件で本件契約が合意更新されたものとみなす規定が存在するところ、本件契約の期間満了の1か月前である平成23年7月末日までに、賃借人から上記申出はされなかったことが各認められる。
これらの事実に照らせば、賃借人は、賃貸人の父に対し、上記期日までに、本件契約の終了又は更新拒絶の意思を表示しさえすれば、本件契約は終了したものと認められるところであり、滞納賃料又は損害金の額が多額に及ぶこともなかったものと考えられるから、上記事態の責を賃貸人に帰することはできない。
⑶よって、賃貸人が請求しうる滞納賃料等は、信義則上、6か月分に制限されるべきとの賃借人及び連帯保証人の主張は、採用できない。
賃貸人の請求は主文の限度で理由があるから同部分を認容し、その余(妻の更新料支払)は理由がないから棄却することとする。
まとめ
判例で、賃借人の妻が滞納した理由は分かりませんが、離婚してシングルマザーになり家賃の支払いができない。親にも相談できないという方は実際にいます。
各家庭の事情は様々あると思いますが、それと家賃の支払いは別です。
3ヶ月以上の長期滞納は強制退去の対象、ただし、実際に強制退去が実行されるのは起訴から5ヶ月後となります。
話し合いで家賃滞納を解消できれば良いですが、強制退去の実行までにも時間がかかるので早めに行動をしておいた方が良さそうです。
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