判例解説 売買

マンションの名所が商標権の侵害、4750万円の賠償

  1. HOME >
  2. 判例解説 >

マンションの名所が商標権の侵害、4750万円の賠償

 マンションの名称に対する商標の使用差し止め請求が認められた事例(東京地判平成16・7・2)

マンションの名所が商標権の侵害、4750万円の賠償

 「VOGUE(ヴォーグ)」というファッション雑誌をご存じでしょうか?

 おそらく知らない方も多いかと思います。

 知らなかったとしても、商品に名称を付ける際は商標検索をして調べてからにした方が良いです。相手に気づかれていないだけでに商標権を侵害をしている方も大勢いるかと思います。

 商標検索は「特許情報プラットフォーム」で検索することができます。

 ちなみにこの判例の「VOGUE」もしっかり商標登録と防護商標登録がされていました。

 後から、大変な事にならないためにも商品名は慎重に決めましょう。

事案の概要

 マンション販売業者は、分譲マンション(以下「本件物件」の建築を企画し、平成14年7月上旬、本物件の名称を「ラ・ボォーグ南青山」と決定し、同年9月建築に着工し、同月から本物件の分譲を開始した。

マンション販売業者は、これに伴い本物件の近辺に存在するビル内にモデルルームを設置するとともに、販売のための宣伝広告活動を開始した。

 マンション販売業者は、広告宣伝活動を行うに当たり

 ・本物件モデルルーム内フロア案内板

 ・入り口ドア

 ・パンフレット

 ・宣伝用ポケットティッシュ

 ・紙袋

 ・本物件壁面を覆うテント上の看板

 ・宣伝用チラシ

 ・予定価格表

 ・本物件周辺に置かれたモデルルーム案内板

 ・マンション販売業者のホームページ

 ・仲介業者の物件案内ホームページ等に

 アメリカのファッション雑誌「VOGUE(ヴォーグ)」を発刊しているアドバンスマガジンの標章と類似する標章を使用している。

 VOGUEを発刊しているアドバンスマガジンの標章をアドバンス・マガジンの周知または著名商品等表示であると主張し、マンション販売業者がアドバンス・マガジン標章と類似する標章を使用する行為は、不正競争防止法2条1項1号または同2号に該当するとして、同法34条に基づき、アドバンスマガジン標章の使用差止め及び損害賠償を請求した。

判決と内容のあらまし

(1)アドバンスマガジン標章の周知性について

 同誌は、世界的に知られたファッション雑誌であること、我が国においても、昭和24年頃から50年以上にわたり販売され、新聞・週刊誌等にも広告や各種記事が掲載されており、一般読者にも高級イメージのファッション雑誌として認識されていること、アドバンスマガジンらは、商標登録をし、防護商標登録も受けていること、アドバンスマガジンらがアドバンスマガジン標章につき、希釈化を防止するため、様々な法的手段を執ってきたこと等に鑑みると、遅くともマンション販売業者標章が使用された平成14年9月までには、「需要者の間に広く認識されているもの」として、周知性を獲得したものと認められる。

(2)マンション販売業者の商品等表示について

 不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務にかかる氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。

 ここにいう「商品」は、競争が行われることを前提としていることから、市場における流通が予定され、それ自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている、主として動産をいうものである。

 もっとも、不動産であっても、大量生産ないし大量供給を行われるマンション等の建築物は、一般に市場における流通が予定されており、マンション自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている。

 よって、マンションは商取引の目的となって市場における流通が予定され、それ自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えているものとして、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品」に該当するものと解される。

 また、大手の不動産業者がマンションの名称を同様に商標登録していることからも、マンションの名称も商品等表示に該当し、マンション販売業者標章は、いずれも商品等表示に該当する。

(3)類似性について

 マンション販売業者標章とアドバンスマガジン標章とは、呼称及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。

(4)混同のおそれの有無について

 アドバンスマガジンらの業務に係る商品は、ファッション雑誌であり、マンション販売業者がマンション販売業者標章を使用する対象商品は本件物件であって、両者の商品自体は類似するものとはいえない。

 しかしながら、同誌が高級なブランドイメージや都会的なファッションセンスのイメージを前面に押し出していること、近年デザイナーズマンションという高級で都会的でファッション性のあるマンションがもてはやされ、ファッション雑誌と建築が無縁ではなくなってきており、実際に同誌で建築を扱ったこともあったことに加え、マンション販売業者が本件物件をデザイナーズマンションと銘打ち、その高級感やファッション性を売り物にしていたことからすれば、両者の商品の間には、関連性が認められ、需要者については共通する場合があるというべきである。

 以上の諸事情から、アドバンスマガジン標章の独創性は、アメリカ及びフランスにおいては高くはないが、我が国においては、一般的に使用される語ではないこと、アドバンスマガジン標章が長年にわたって使用され、周知性が極めて高いこと、アドバンスマガジン標章がマンション販売業者標章と呼称及び観念において同一であって、両標章が類似すること、両標章の使用される商品の間に関連性が認められ、需要者が共通し、本件物件が同誌の高級でファッショナブルなイメージで販売されていること等を総合的に考慮すれば、マンション販売業者標章は、需要者に対し、アドバンスマガジン標章を連想させ、誤信させるものと認められる。

(5)損害について

 本件物件の総売上高は25億4,500万円であるが、敷地権付きマンションであり、価格には、建物部分のみならず、敷地権についての価格も含まれ、建物部分の価格(建築費、設計料等)の総額は、9億5,000万円である。

 また、マンションの名称はイメージとして多少の効果は否定し得ないものの、取引の際に大きな影響を与えるものとはいえない。

 以上の諸事情を考慮し、建物部分の価格の総額9億5,000万円の5%である4,750万円をもってアドバンスマガジンらの使用料相当損害額と認める。

 なお、アドバンスマガジンらの不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は連帯債権と解する。

(6)結論

 よって、マンション販売業者の行為は不正競争防止法2条1項1号に該当し、アドバンスマガジンらの請求のうち、マンション販売業者標章の使用差止め及び4,750万円の損害賠償を請求する限度で理由があるとしてこれを認容し、その余を棄却する。

まとめ

 不正競争防止法2条1項1号では、他人の「商品等表示」として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為を禁止しています。

 また、登録商標と防護標章の違いは、

 登録商標は、類似範囲の商品・サービスについては他人の使用を差止める強い権利(禁止権)があるのに対し

 防護標章にかかる権利は「非類似」の商品・サービスにまで禁止権が及ぶ点で違います。

 「日本には表現の自由があるから大丈夫」と思っていたら、ある日突然訴えられ、とんでもない損害賠償を請求されるかもしれません。

【関連記事】

眺望利益の侵害に関する事例

東洋ゴムの免震ゴム偽装事件のその後

「特例容積率適用地区制度」容積率を売却したのに評価が同じ!?

-判例解説, 売買

Copyright© クガ不動産【不動産裁判例の解説】 , 2024 All Rights Reserved