共同相続された不動産から生ずる賃料債権は各共同相続人の持分に応じて分割単独債権として帰属し、その帰属は遺産分割の結果による影響を受けないとされた事例(最高裁 平成17年9月8日)
賃料収入約2億円の相続、前妻と後妻どちらの主張が正しい?
相続は被相続人の死亡によって開始し、相続人が相続財産を引き継ぐ制度です。(民法882条、民法896条)
では、被相続人の死亡後に、発生する家賃収入についてはどうなるのか?
結論、最高裁の判決で、被相続人の死亡後に発生した財産である家賃は相続財産ではなく、遺産とは別個の財産というべきある、という考え方が示されました。
1審と2審では、収益不動産を遺産分割で相続した後妻が、相続開始後の賃料を全部取得するのが妥当だと判断していました。
収益不動産の賃料については、被相続人の死後、遺産分割でその不動産の所有者が決まるまでの間は、法定相続分で分割するということが明らかになった判決です。
ちなみ、この判例の遺産分割審判が確定するまでの賃料収入は約2億円もあったそうです。
事案の概要
結論
死亡後に発生した財産である家賃は遺産とは別個の財産というべきである。
本件各不動産を所有していた夫が平成8年10月に死亡し、後妻、前妻の子らが相続人となった。
各不動産の賃料収入については、共同相続人間の協議により、遺産分割が成立するまでそれを一括して保管する口座を設け、その口座は前妻の子が管理することとなった。
平成12年2月に裁判所による遺産分割決定がなされ、各不動産の各相続人への帰属が確定した。
後妻は、本件各不動産から生じた賃料債権は、遺産分割の遡及効(民法第909条)に基づき、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時に遡って、遺産分割開始決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を決定すべきものと主張して、賃料収入を保管する口座管理者である前妻の子に対し、不当利得の返還を請求する訴えを提起した。
これに対し、前妻の子らは、本件各不動産から生じた賃料債権は、本件遺産分割確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し、本件遺産分割決定確定の日の翌年から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を決定すべきものと反論した。
判決と内容のあらまし
第1審及び控訴審は、後妻の請求を認容した。
これに対し、最高裁は、次のように述べて、本件を大阪高裁に差し戻した。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、後妻及び前妻の子らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。
そうすると,上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、前妻の子らが本件保管金を取得すべきであると判断して、前妻の子らの請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、本件については更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
まとめ
この最高裁の判決が出るまでは、裁判所によって判決が分かれていたようです。
以降、収益不動産の家賃については、被相続人の死後、遺産分割でその不動産の所有者が決まるまでの間は、法定相続分で分割するということで統一されるようになったそうです。
個人的には、最高裁から「明らかな法令の違反がある」と言われてしまった原審の裁判官の「その後」についても少し興味があります。
民法第882条(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
民法第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
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