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旧43条1項ただし書き、共有地の共有持分権の権利濫用

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旧43条1項ただし書き、共有地の共有持分権の権利濫用

 共有地を建築基準法43条1項所定の敷地として申請することを拒否することが権利濫用に当たるとされた事例(東京地判 平成21.5.12)

旧43条1項ただし書き、共有地の共有持分権の権利濫用

 平成30年9月25日、建築基準法が改正され「43条ただし書き」の条文は全文削除されています。 

 ■削除された43条但し書きの条文

ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。

 ■追加された43条2項1号、2号の条文

前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物については、適用しない。

一 その敷地が幅員四メートル以上の道道路に該当するものを除き、避難及び通行の安全上必要な国土交通省令で定める基準に適合するものに限る。)に二メートル以上接する建築物のうち、利用者が少数であるものとしてその用途及び規模に関し国土交通省令で定める基準に適合するもので、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるもの

二 その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したもの 

 43条2項2号が、旧43条1項ただし書と同じ意味です。

 新設された43条2項1号の条件を満たす通路や空地については、特定行政庁が認定すれば、建設審査会の同意なしでもよい事となりました。

 改正されたからといって、私道や判例のような通路に関するトラブルが無くなる事はありません。

 私道に面した不動産や、建築基準法条の道路ではない通路や空地に面した不動産の取引を行う際は、近隣の調査を十分に行う必要があります。

事案の概要

 原告大山氏(仮名)小山氏(仮名)と被告中川氏(仮名)は幅員4mの本件共有地を共有している。

 大山氏所有地、小山氏所有地はいずれも本件共有地を介することによってのみ建築基準法所定の道路に通ずることができる。

 建築基準法43条1項は、建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならないと規定するが(接道要件)、同項ただし書は特定行政庁が許可したものについては接道要件が課されないとしている。

 東京都世田谷区は手続の簡略化を図るため、一括許可基準を定めており、そこでは、道路に有効に接続する幅員2.7m以上の道が確保され、その道に2m以上接する敷地で次の各号に該当するものとされる。

 1.本基準施工日以降の敷地分割がされていないこと

 2.道の中心から水平距離2mの線(現況幅員が4m以上の道にあっては、現況幅員の位置)を道の境界線とし、道の部分に関して所有権、地上権又は借地権を有する者全員の承諾が得られたものであること

大山氏、小山氏は、所有地の売却を考え、接道のため本件共有地の共有者全員から承諾を取る必要があるとの不動産業者の助言を受け、世田谷区役所の建築主事に相談して作成した承諾書を平成11年1月、中川氏に託したが、中川氏はその後、署名押印を拒否した。

 大山氏、小山氏は、不動産コンサルタントから道路協定をする方法を教示され、本件共有地について、大山氏、小山氏が建築基準法43条1項所定の敷地(路地状敷地)として申請することに同意する内容の「世田谷区既存通路申請図」と題する本件通路協定書を作成し、同年9月中川氏に説明したところ、「印鑑証明はいつ頃用意したらいいのでしょうか」と発言し、協定書を持ち帰った。

 しかし、中川氏はその後署名押印を拒否したので、大山氏、小山氏は、東京簡易裁判所に調停を申し出たが、不調に終わった。

 そこで大山氏、小山氏は、平成13年6月、民法252条本文により本件共有地を建築基準法43条1項所定の敷地として申請することに同意せよとの判決を求めて提訴したが棄却されたので、控訴した結果、平成14年12月、和解により取り下げた

 控訴審調書には「中川氏は、大山氏、小山氏所有地について、将来、建築確認が必要となった場合、中川氏所有地及び本件共有地に対するセットバックその他の不利益がないときは、中川氏が上記建築確認に同意する意向であることを確認することができたので、本件訴えを取り下げる」と明記されている。

 その後、大山氏、小山氏が建物の建替えや売却を必要とするに至ったので、中川氏に承諾を求めたが、署名押印を拒否し続けたので、改めて前訴で求めなかった不法行為損害賠償395万円を求めて提訴した。

判決と内容のあらまし

 (1)中川氏は大山氏、小山氏に対し、平成11年9月に本件共有地を通路として使用することに同意(通路協定の合意)をしたか否か。

 本件許可基準に則って世田谷区あての申請書面を作成するに当たり、中川氏が同書面に対する署名・押印を拒否して、大山氏、小山氏の要求を拒絶することが、信義則に反し、共有地の共有持分権の濫用として、不法行為が成立するか否か。

 認定の各事実にかんがみ、特に中川氏が平成11年9月に「印鑑証明はいつ頃用意したらいいのでしょうか。」と発言するとともに、大山氏、小山氏の各署名・押印のある本件通路協定書を自宅に持ち帰ったことに照らすと、中川氏が大山氏、小山氏に対し、本件共有地を通路として使用することにつき、暗黙のうちに同意(通路協定の合意)をし、その署名・押印をすることを黙示的に承諾したものというべきである。

 しかも、大山氏、小山氏が世田谷区あての申請書面を作成するに当たり、中川氏が同書面に対する署名・押印を拒否できる正当な理由が存在することにつき、的確な主張・立証もない本件事案に置いては、前提となる事実と上記認定の事実経過に徴して大山氏、小山氏の被るべき不利益を考慮すると、中川氏において大山氏、小山氏の当該要求を拒絶することは、信義則に反し、共有地の共有持分権の濫用として許されず、大山氏、小山氏主張の不法行為が成立する。

 (2)中川氏の拒絶は、世田谷区あての申請書面に対する署名・押印を拒否したものとして、信義則に反し、共有地の共有持分権の濫用として、不法行為が成立するか否か。

 中川氏は、中川氏所有地及び本件共有地に対し、セットバックその他の不利益がないにもかかわらず署名・押印を拒否しているというべきであるから、前訴に係る訴えの取り下げ経過等を併せ考慮すると、これらの拒否は、信義則に反し、また、共有持分権の濫用であるから、不法行為に該当する。

 (3)大山氏、小山氏は、中川氏の不法行為によって建築確認を得ることができないため、所有地の売却が困難であって流動価値は少なくとも半減されると主張するが、実損として大山氏、小山氏主張の具体的な経済的損害の発生を認めるに足りる的確な証拠はない。

 中川氏の不法行為により精神的苦痛を被っているものと認定することができ、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、これを慰謝するには、大山氏、小山氏各自につき、それぞれ30万円をもって相当と認める(弁護士費用は各3万円を認定)。

まとめ

 今だに43条2項2号の事を「ただし書き道路」と言っている人はいませんか?

 宅建の試験範囲にもなっているので、去年の合格者や今年の受験生はおそらく知っている可能性が高いです。

 また、こういった建築基準法上の道路に面していない不動産の価格が、近隣相場に比べてかなり安い理由は、単に道が狭いという理由だけでなく、判例のようなトラブルになる可能性や、再建築不可になってしまう可能性もあり、そうなると住宅ローンの審査も承認がおりない、もしくは減額になる可能性があります。安い不動産には必ずそれなりの理由が必ずあります。

 ただ、43条2項2号の事と、同じ「2項」の42条2項道路「みなし道路」と言い間違える人が続出しそうです。そういった意味では「ただし書き」の方が分かりやすかったです。

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