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東洋ゴムの免震ゴム偽装事件のその後

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東洋ゴムの免震ゴム偽装事件のその後

 新築マンション分譲会社が免震ゴムの欠陥により被った損害につき、免震ゴム製造会社への請求が認められた事例(東京地判平29・2・27)

判決内容に対する主観的なコメント

 2015年にあった東洋ゴムの免震ゴム偽装事件に関する判例です。

 免震ゴムの偽装が発覚し、予定していた引き渡し日までに引き渡しができなくなってしまった場合、手付解除ではなく、違約解除を選択した分譲会社の判断は正しかったのかどうかが焦点となっています。

 結論、違約解除は正しいかったです。

 中古の不動産の場合、契約後、売主が引き渡し日までに対象不動産を引き渡さなかった場合は違約となります。

 判例のような偽造事件が理由で、引き渡しを履行できなくなってしまった場合、分譲会社のブランドイメージがかなり悪くなります。

 そうなると今後販売する上で

「何かあってもたいした補償をしてくれない、ケチな分譲会社」

というイメージが付き、その後、建築するすべての分譲マンションに影響が出てきてしまします。

 今回、分譲会社が買主にとった行動は正しかったと言えますが、このような事件が起こる原因として、建築業界の慢性的な人手不足による建築費の高騰や、その建築費を抑えるため、分譲業者からの納期に対する強いプレッシャーもあったのではないでしょうか?

事案の概要

 

 マンション分譲会社(原告・マンション分譲会社)は、総戸数52戸の新築マンション(本件マンション)を販売することを計画し、平成26年2月に、完成時期を平成27年7月末とする本件マンションの新築工事にかかる請負契約を建築会社と締結した。

 本件マンションの建築には、ゴム製造会社(被告・ゴム製造会社)製造の免震ゴム(本件免震ゴム)が使用された。

 マンション分譲会社は本件マンションの販売を開始し、売買契約(本件売買契約)において

 ①相手方が履行に着手するまでは手付解除ができる

 ②売主の義務不履行に基づく解除のときは、売主は買主に対し受領済みの金員を無利息で返還し、売買代金の20%相当額を違約金として支払うこと

を合意していた。

 平成27年4月、本件免震ゴムが、国土交通大臣の認定基準に適合していないことが明らかになり、本件売買契約で定められた引渡期日である同年9月の引渡しができないことが判明した。

 この時点で、52戸中46戸につき本件売買契約が成立し、契約締結に当たって各買主からマンション分譲会社に支払われた手付金の合計額は、1億円余であった。

 本件免震ゴムの欠陥が理由となって、本件売買契約は、同年6月に各買主より解除され、マンション分譲会社は各買主に対し、契約条項に基づき、手付金合計1億円余を返金した上、違約金として合計3億5000万円余を支払った。

 ゴム製造会社社は、平成28年8月に、マンション分譲会社に対し手付金合計額相当の1億円余を支払ったが、マンション分譲会社は、賠償を受けるべき損害額は、違約金合計額3億5000万円余に弁護士費用相当額を加えた額であるとして、ゴム製造会社及びゴム製造会社の親会社に対し、各買主との契約の解除及びそれに伴う違約金の支払いを余儀なくされたなどとして、不法行為又は製造物責任法3条に基づき、3億円余(受領済み金額を損害金の元金及び損害金に充当後)の支払いを求めて提訴した。

 これに対し、ゴム製造会社らは、マンション分譲会社は手付解除をすることができたにもかかわらず、違約解除としたことは損害軽減義務違反であるなどと主張した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次の通り判示し、マンション分譲会社のゴム製造会社に対する請求を認容し、ゴム製造会社の親会社に対する請求は棄却した。

 ⑴本件マンションの販売に際しての目玉の一つとなっていた免震構造に、行政法規に適合しないという重大な問題が生じ、本件マンションの引渡しが売買契約に定めた期限どおりに履行できない状態になったことが認められる。

 そして、不適合の原因は、ゴム製造会社の社内データ改ざんによるものであり、ゴム製造会社が故意又は過失により、マンション分譲会社の法律上の利益を侵害したことは明らかである。

 ゴム製造会社は、行政法規不適合があったとしても、建物の基本的安全性には影響しないと主張するが、仮に客観的には安全性への影響がないとしても、本件ゴムをそのまま使用して買主に引渡すことは現実的には不可能である。

 社会的にも、ウエブサイトや国会答弁において、損害賠償に応じる意向であることを述べ、お詫びの意を示した事実関係からしても、本件免震ゴムの不適合によってマンション分譲会社が損害を被ったことは自明といえる。

 ⑵ゴム製造会社については、⑴のとおり一般不法行為責任が認められるから、製造物責任の成否については判断を要しない。

 ゴム製造会社の親会社は、製造物責任法2条3項の製造業者には当たらないことから、ゴム製造会社の親会社に対するマンション分譲会社の請求には理由がない。

 ⑶ゴム製造会社は、マンション分譲会社が手付解除の手段を執らなかったことが損害軽減義務違反であると主張する。

 手付解除が妨げられる事由は「履行の着手」であるが、住宅ローンの申込みなどの資金調達は準備行為であり、オプション工事代金の支払いをもって売買代金の支払いの一部が履行されたと見ることも無理があり、その他、履行の着手があったことは認められず、売主であるマンション分譲会社において、手付解除を行うことに法律上は支障がなかったといえる。

 しかし、買主が想定していたのは引渡しの遅延による債務不履行を理由とする解除であったと考えるのが合理的であり、少なくともマンション分譲会社において、買主が債務不履行解除を想定していると認識したことに不合理な点は認められない。

 このような状況の下で、マンション分譲会社から手付解除を持ち出すこと自体、違約金の支払いを免れるためと受け取られ、買主からの非難を招くおそれがある。

 そして、マンション分譲会社が、買主の経済的利益を損ねるような対応をしたと受け取られることは、マンション分譲会社の社会的評価を大きく落としかねないものであるといい得る。

 マンション分譲会社の信用が一旦大きく毀損された場合には、それを回復させることは非常に困難であり、社会的責任をも負っている企業の危機管理として、リスクをできる限り回避することは不合理とまでいうことはできない。

 したがって、マンション分譲会社に損害軽減義務違反を認めることはできない。

 ⑷以上により、マンション分譲会社のゴム製造会社に対する3億円余の損害賠償請求は認容し、ゴム製造会社の親会社に対する請求は棄却する。

まとめ

 免震ゴム偽装事件が起きた2015年には、横浜市で、三井不動産が事業主の「パークシティLaLa横浜」というマンションの、杭打ちデータの偽装・データ改ざんも大きな問題となりました。

 この時は、建て替え工事が完了するまでの仮住まいの家賃に関して、1坪当たり12,000円、約76㎡(3LDK)の間取りの場合、家賃27.6万円の支給がされているようです。住民への補償等の賠償総額は500億円以上になるとも言われています。

 どれだけの分譲会社がこれだけの補償をすることができるでしょうか?

 こういった手厚い補償をおこなった三井不動産の対応は良かったと評価されています。

 今、話題になっているのは福岡の欠陥マンション、販売したのはJR九州、若築建設、福岡総合開発の3社ですが、今後どういった対応をするのか注目です。

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