隣人の強迫的言辞により事実上建築が制限されることが隠れた瑕疵にあたるとされた事例(東京高判平20・5・29)
暴力団関係者らしき隣人は、隠れた瑕疵?
判例では、土地を購入した買主が建物を建てる際、暴力団関係者らしき隣人からか「日照がさえぎられる」として、脅迫的な言葉で建築禁止部分を指定を要求されたもの。
暴力団関係者らしき者が近所に住んでいたことは隠れた瑕疵にあたるのか?
また、瑕疵による減価率はどれくらいになるのかが焦点になっています。
しかし、今は「隠れた瑕疵」という言葉は使わなくなっています。
2020年4月1日に民法が改正され、「瑕疵」「隠れた瑕疵」「瑕疵担保責任」という言葉が使用できなくなり、代わりに「契約不適合責任」になっています。
簡単に言うと、「契約不適合責任」では、「隠れていたかどうか」は問われなくなり、焦点になるのは、契約書に「書かれていたかどうか」が重要な事となります。
この判例は、今後の判例と比較するためにも参考になります。
事案の概要
平成16年5月、買主は宅建業者の仲介により、住宅を建築する目的で売主(宅建業者)から25.65坪の宅地(以下「本物件」という。)を5170万円にて購入した。
平成16年9月頃、買主から設計を依頼された設計士が住宅の建築について近隣に挨拶回りをしたところ、北西側私道の反対側に住む隣人から日照がさえぎられるとして建築禁止部分を指定し、そこには建物を建築しないよう脅迫的な言辞(げんじ)をもって要求された。
買主が警察などから情報を入手したところ、隣人は暴力団関係者の可能性があり、建築を強行するとどのような危害を加えられるかと考え、建築を断念した。
買主はそのような住人が隣家に居住していることは本物件の瑕疵に当たる、又はそのような隣人が隣家に居住していることを買主に説明しなかったのは説明義務違反に当たると主張して、売主らに対し、瑕疵担保又は債務不履行を根拠として、売買契約を解除の上、5630万円余の損害賠償の支払を求めた。
原審は、買主が契約を締結した目的を達することができないとはいえないとして解除を認めず、売主は説明義務違反には当たらないとしたが、脅迫的な言辞をもって設計変更を求める隣人の存在は隠れた瑕疵に当たり、瑕疵による減価率を売買代金の30%として、売主に1551万円の損害賠償を命じた。
売主はこれを不服として控訴した。
判決と内容のあらまし
裁判所は以下のように判示し、売主に対する買主の請求を一部認容した。
(1)瑕疵該当と契約解除の可否
売買の目的物に民法570条の瑕疵があるというのは、その目的物が通常有すべき品質、性能を欠いていることをいい、物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物の通常の用途に照らし、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるという欠陥、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合も含むと解するのが相当である。
本物件には脅迫的言辞をもって建物建築を妨害する者が隣地に居住するという瑕疵(以下「本件瑕疵」という。)がある。
売主らが売買契約当時に本件瑕疵があることを知っていたと認めるに足る証拠はない。
また、売主らには近隣住民の素性、言動を調査する義務もないため、本件瑕疵を知らなかったことに過失はなく、本件瑕疵は隠れた瑕疵に当たるというべきである。
隣人による要求は法律上理由がないものであり、態様、程度によっては、刑事手続による検挙、処罰によってこれを抑止することも期待できるし、民事上も仮処分手続等による差止めも考えられ、本件瑕疵の存在によって本件敷地の上に建物を建築して平穏に居住することがおよそ不可能とまではいえない。
以上によれば、買主は瑕疵担保責任に基づき売主に損害賠償請求をすることはできるが、売買契約の解除をすることまではできない。
(2)説明義務について
売主らは本件瑕疵のような事実が存在しないと虚偽の告知をしたものではないから、作為による説明義務違反が成立する余地はない。
また、本来、不動産を買い受けようとする者は、それを買い受けるかどうかの意思決定の自由を有し、基本的には自己の責任において近隣の状況を含む不動産の性状、品質を調査すべきところ、本件瑕疵は売主らが作出したものとは認められず、売主らが買主の調査を妨げたと認めるに足る証拠もない。
そうすると、売主らが本件瑕疵の存在を認識していたとしても、積極的にそれを買主らに告知するまでの義務を負うものではなく、したがって、不作為による説明義務違反の前提となる作為義務が売主らにあったとはいえず、売主としての債務不履行になるとはいえない。
(3)損害について
本件瑕疵による解除は認められないので、本件瑕疵によって生じたと認められる損害は、本件瑕疵の存在を前提とした価格相当額を超える部分の支出に限られる。
本件売買契約の代金額5170万円は、本件瑕疵が存在しない場合には市場価格を反映した適正なものということができる。
買主らが提出した不動産鑑定士による意見書には、本件瑕疵が存在した場合における本物件の価格は、それが存在しなかった場合の価格から40%減じた額とみるのが相当としている。
上記意見書は本物件に建物を建築することが事実上不可能であることを前提とし、隣人による建築禁止要求部分を除いた部分を利用した建物建築は可能であることが考慮されていない。
また、隣人による妨害行為は、刑事上あるいは民事上の手続によってある程度抑止又は排除することが可能と考えられる。
一般に不動産売買においては、ある程度の迷惑行為を行う住民が近隣に居住することは珍しくはなく、買主は調査の上で購入するのが通常であり、そのリスクは相場価格形成の一因として織り込まれている。
これら諸事情に加え、隣人による建築禁止要求部分(約3坪)に対応する金額は約600万円となることにかんがみると、本件瑕疵の存在による本物件の減価率は15%と認めるのが相当である。
まとめ
これ一番悪いのは暴力団関係者らしき隣人です。
裁判所の言う隣人の妨害行為は刑事上あるいは民事上の手続で抑止できる事くらいは、買主も分かっているはずです。
ただ、それから何十年も報復に怯えながら家族と暮らすのが嫌だったから、売主の宅建業者に矛先をむけたのだと思います。
購入する時の周辺環境の確認は慎重に行いましょう。
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