判例解説 売買

民泊禁止のマンションで民泊経営

  1. HOME >
  2. 判例解説 >

民泊禁止のマンションで民泊経営

 管理規約上禁止されている民泊営業としての使用が共同利益に反するとした、マンション管理組合の区分所有者に対する損害賠償請求が認容された事例(大阪地判平29・1・13)

民泊禁止のマンションで民泊経営

 コロナ禍の今、宿泊業界は厳しい状況に直面しています。

 下記、観光庁が令和2年7月10日発表した、民泊の宿泊実績についてのデータをみても厳しい状況である事がよくわかります。

【住宅宿泊事業の宿泊実績について】※観光庁HPデータを基に作成

  2019年4月~2019年5月 2020年4月~2020年5月 前年同月比
宿泊者数(全国) 335,163人 29,555人 -305,608人(-91.2%)
宿泊日数(全国) 301,011日 64,352日 -236,659日(-78.6%)
日本国内に住所を有する宿泊者 90,089人 24,773人 -65,316人(-72.5%)
海外からの宿泊者 245,074人 4,782人 -240,292(-98.0%)

 コロナの感染者数が増え続ける今、やはり、これからしばらくはインバウンド需要も見込めないものと思われます。

 ただ、いつまでもこの状況が続くとは思えません。

 ワクチンの開発も進み、来年前半くらいからは徐々に海外からの旅行客も増えてくるのでは?と考えています。

 そうなると、また民泊をはじめようとする方も増えてくるかもしれません。

 民泊については、2018年6月15日に民泊新法が施行され、規制が厳しくなり、分譲マンションの管理規約を見ると、ほとんどのマンションで「民泊は禁止」という文言があります。

 判例は、民泊新法の施行前のものですが、海外の方が民泊を利用することによって発生するであろう問題に関しては参考になります。

事案の概要

 本件建物の区分所有者の伊藤氏(仮名、被告)は、平成26年11月頃、仲介業者を通じて旅行者に1日当たり15,000円で本件建物を賃貸する営業を開始し、その営業は少なくとも平成28年8月上旬ころまでの約1年9か月間続いた。

 ①上記の期間中、本件建物の利用者により、次のような問題が生じた。

 (ア)伊藤氏は、本件建物の利用者のために、キーボックスの所在を知らせるなどして、各利用者に本件建物の鍵を扱わせた。

 (イ)本件建物の鍵は本件マンションの玄関のオートロックを解除する鍵でもあり、本件建物の利用者が、鍵を持たない者を内側から招き入れることもあった。

 (ウ)伊藤氏による営業のため、本件マンションの居住区域に短期間しか滞在しない旅行者が入れ替わり立ち入る状況にあった。

 (エ)本件建物を旅行者が多人数で利用する場合にはエレベーターが満杯になり他の居住者が利用できない、利用者がエントランスホールにたむろして他の居住者の邪魔になる、部屋を間違えてインターホンを鳴らす、

 共用部分で大きな声で話す、本件建物の使用者が夜中まで騒ぐといったことが生じた。

 (オ)大型スーツケースを引いた大勢の旅行者が、本件マンション内の共用部分を通ることから、共用部分の床が早く汚れ、清掃及びワックスがけの回数が増えた。

 (カ)ごみを指定場所に出さずに放置して帰り、後始末を本件マンション管理の担当者が行わざるを得ないなど、管理業務に支障が生じ、また、ゴミの放置により害虫も発生した。

 (キ)本件建物およびエレベーターの非常ボタンが押される回数が、月10回程度と多くなった。

 ②本件マンションの管理規約12条1号は、本件建物の用途につき、住宅、事務所以外の使用を規制していたが、本件管理組合は平成27年3月8日に臨時総会を開き、「住戸部分は住宅もしくは事務所として使用し、不特定多数の実質的な宿泊施設、会社寮等としての使用を禁じる。

 尚、本号の規定を遵守しないことによって、他に迷惑又は損害を与えたときは、その区分所有者はこの除去と賠償の責に任じなければならない。」と、同規約を改正した。

 ③伊藤氏は、管理規約改正の前後を通じて、管理規約12条1号において、本件建物における民泊営業が禁止されていることを知っており、また、本件管理組合から注意や勧告等を受けたが、平成28年8月上旬ころまでは、本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかった。

 ④平成27年7月、本件管理組合の理事長兼管理者(原告、以下「理事長兼管理者」という)は、総会で承認を得て、伊藤氏に対し、本件建物の民泊営業に関して、区分所有者の共同の利益に反するもの(区分所有法6条1項)であると主張し、同法57条1項により民泊営業の停止等を求め、併せて弁護士費用50万円の損害賠償請求を提訴した。

 ⑤平成28年10月、伊藤氏は結審前に本件建物を売却し、区分所有権を失った。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、理事長兼管理者の請求を一部認容した。

 ①区分所有法57条1項は、「区分所有者」である行為者等を請求の相手方とするものであるから、区分所有権を失った伊藤氏に対し同項に基づく請求をすることはできない。

 なお、伊藤氏が本件建物を売却したことにより、伊藤氏による民泊営業は終了したと言わざるを得ないから、差止請求も認められない。

 ②管理者は、規約又は集会の決議によりその職務に関し区分所有者のために原告又は被告となることができ(区分所有法26条)、管理規約違反の行為に対する差止請求等について、費用償還ないし損害賠償を求めることもできる旨定められている。

 したがって、理事長兼管理者に本件訴訟における損害賠償請求の当事者適格を認めることができる。

 ③伊藤氏の行っていた賃貸営業は、インターネットを通じて不特定の外国人旅行者を対象とするいわゆる民泊営業そのものであり、旅館業法の脱法的な営業に当たる恐れがあるほか、改正前後を通じて管理規約12条1項に明らかに違反するものと言わざるを得ない。

 ④伊藤氏の行っていた民泊営業のために、区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状況、床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものを含む。)が現実に発生し、管理規約を改正し趣旨を明確にし、伊藤氏に対して勧告等をしているにもかかわらず、本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかったため、管理組合の集会で、伊藤氏に対する行為停止請求等を順次行うことを決議し、本件訴訟を提起せざるを得なかったと言える。

 そうすると、伊藤氏による本件建物における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当たり、弁護士費用相当額の損害を賠償しなければならない。

 本件の経緯にかんがみると、弁護士費用としては50万円が相当である

まとめ

 宿泊業界は今もt非常に厳しい状況ですが、私はコロナの後、インバウンド需要を取り戻すために政府が行う政策には期待をしています。

 Gotoトラベル政策に関しては、日常生活を早く取り戻ろうする発想は良かったと思いますが、タイミングが悪かったようです。

 7月14日現在で、安倍総理の支持率は36%、支持しない人の方が多くなっていますが、他の内閣よりは良いのではないかと思います。

 今は命を最優先で、耐えるしかありません。

【関連記事】

スナック店からのカラオケによる騒音、上階住民からのクレーム

学習塾の開設ができなかったとして、管理会社に654万円の損害賠償請求をした事例

騒音トラブルの説明義務違反

-判例解説, 売買

Copyright© クガ不動産【不動産裁判例の解説】 , 2024 All Rights Reserved