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相続放棄できない!?死後2ヶ月半の事故物件

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相続放棄できない!?死後2ヶ月半の事故物件

 賃借人の貸室内での死亡について、善管注意義務違反があったとする賃貸人の損害賠償請求が否認された事例(東京地判平29・9・15)

相続放棄できない!?死後2ヶ月半の事故物件

 借主が室内で死亡して、約2か月半経過後に遺体で発見された事例です。

 相続人である両親は、賃貸借契約の終了に基づく、不可分債務として、本件建物の明渡済みまでの賃料相当損害金及び原状回復費用の支払義務を負うことになります。

 相続放棄をするのであれば、相続の開始があったことを知った時から三箇月以内行う必要があります。

民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間) 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

【用語解説】

不可分債務(ふかぶんさいむ)とは?

不可分とは、分けようにも分けられないほど、密接に結びついていること。

不動産において「この建物を明け渡す」という債務は、普通は、分けようがないものなので、「不可分債務」と言われます。相続人が複数いる場合に用いられる事があります。

事案の概要

 賃貸人(原告)は、亡Aとの間で、平成18年2月25日、賃貸マンションの一室(本件建物)を次の約定で賃貸する旨の契約(本件賃貸借契約)を締結し、同年3月11日、本件建物を引き渡した。

 ○賃貸期間平成18年3月11日から平成20年3月31日まで

 ○賃料月額10万円

 ○支払方法毎月27日限り翌月分を支払う。

 ○原状回復本件賃貸借契約が終了した場合には、賃借人は、本件建物を原状に復して明け渡す。ここにいう明渡しとは、賃借人が全ての家財・物品等の搬出を完了させ、原状に回復した上で、本件建物の鍵を賃貸人又は賃貸人の指定する者に返還した時とする。

 ○終了事由賃借人が死亡した場合には、本件賃貸借契約は終了する。

 亡Aは、平成28年5月20日、本件建物内の布団の中で死亡した状態(死因不明)で発見された。

 死亡推定日時は、同年3月9日頃であり、遺体発見が遅れ、死亡後約2か月半が経過していたことから、布団から腐敗物が床に染み出していた。

 亡Aの父母であり、相続人(相続分各2分の1)である両親(共に被告)は、同年11月28日、亡Aを被相続人とする相続について、家庭裁判所に相続放棄の申述をし、同年12月20日、受理された。

 賃貸人は、両親に対して、本件賃貸借契約の終了に基づき、不可分債務として、平成28年7月1日から本件建物の明渡済みまで月額10万円の割合による賃料相当損害金及び原状回復費用63万6321円を求めるとともに、亡Aは本件建物内での自死又は病死等の予見可能な死を回避し、賃貸人に損害を生じさせないようにする善管注意義務を負っていたところ、これに違反したなどと主張して、善管注意義務違反に基づく損害賠償債務(長期間の空室損害として1年間の賃料の半額相当等)から、本件賃貸借契約に際し亡Aが賃貸人に交付した、敷金20万円を控除した残額65万6996円(分割債務としてそれぞれに32万8498円)の損害賠償を求めて提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、賃貸人の請求を一部認容した。

 ⑴証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件建物の原状回復及び明渡しは未了であることが認められる。

 よって、亡Aの両親は、賃貸借契約の終了に基づき、不可分債務として、本件建物の明渡済みまでの賃料相当損害金及び原状回復費用の支払義務を負う。

 ①賃料相当損害金について亡Aの死亡後、亡A名義で平成28年4月分から6月分までの賃料相当額が振り込まれたが、その後の支払はないことが認められる。

 ②原状回復費用について・賃貸人は、クロス剥がし及び畳処分費用として合計4万3200円、害虫対策費及び養生費として1万1437円、応急の原状回復をする間の車両の駐車場代として1400円を支払ったことが認められる。

 ・遺体が2か月半放置されたことにより死臭が残るなどしたため、大掛かりな原状回復が必要となり、その費用として55万3284円が必要となることが認められる。

 ・亡Aは本件建物の鍵を1本紛失して返還していないため、鍵の交換費用として2万7000円が必要となることが認められる。

 以上によれば、亡Aの両親は、賃貸借契約の終了に基づき、不可分債務として、平成28年7月1日から本件建物の明渡済みまで月額10万円の割合による賃料相当損害金及び原状回復費用63万6321円の支払義務を負うことになる。

 ⑵亡Aの死因は不明であり、亡Aが本件建物内で自殺したとは認められない。

 また、亡Aが生前持病を抱えていたなどの事情はうかがわれないから、亡Aが、当時、自分が病気で死亡することを認識していたとは考えられず、また、そのことを予見することができたとも認められない。

 以上によれば、亡Aに善管注意義務違反があったとは認められず、同違反を前提とする賃貸人の主張は理由がない。

 ⑶賃貸人は、平成28年6月28日及び同年8月2日到達の書面で、本件に関する亡Aに係る損害賠償請求を、相続人である亡Aの両親に対して行ったことが認められる。

 そうすると、亡Aの両親は、同年6月28日の時点では、亡Aの債務について認識し得たものというべきである。

 以上によれば、亡Aの両親が同年11月28日に行った相続放棄の申述は、熟慮期間経過後にされたものであって、相続放棄は無効である。

 ⑷よって、賃貸人の請求は、亡Aの両親に対し、賃貸借契約の終了に基づき、不可分債務として、各自、原状回復費用63万6321円及び平成28年7月1日から本件建物の明渡済みまで月額10万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

まとめ

 相続人として引き継ぐ義務は、亡くなって3ヵ月以内に相続放棄することで、最初から相続人ではない扱いとなるため、最終的に義務を負担することはありません。

 また、故人の財産を処分してしまうと最悪の場合は、相続放棄が出来なくなる可能性がありますのでご注意ください。

 オーナー側もこれからは、孤独死や自殺で相続放棄された場合のリスクを回避するために保険に入っておいたほうがよいかもしれません。

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