本件眺望利益等は法的保護に値せず、販売会社に説明義務違反もないとした事例(大阪地判平24・3・27)
目次
眺望利益の侵害に関する事例
購入予定のマンションの周辺の容積率が600%もあるような場所であれば、ある程度高い建物が建つ可能性があることは容易に想像が付きます。
不動産販売会社の営業であれば、マンションの販売前の説明会などもあり、物件の概要もしっかり頭に叩き込むように指導されているはずです。
「周辺環境が将来に渡って変わらない」とお客様に伝えてしまう者はいないはずです。
可能性があるとすれば、宅建士の資格も持っていない新人が接客をしてしまった等の場合です。
事案の概要
居住者ら(原告ら)のうち所有者らは、平成17年5月から平成18年7月にかけて、不動産販売会社である被告から、20階建のマンション(以下「本件原告マンション」という。)の区分所有権を購入し、平成18年9月30日ころ、各住戸の引渡しを受けた。
不動産販売会社は、平成19年2月9日、某市が所有していた本件土地を競争入札により落札し、同年3月1日、某市との間で売買契約を締結し、同月29日、所有権移転登記手続を完了した。
不動産販売会社は、平成20年7月26日以降、本件原告マンションの住民や近隣住民に対する説明会を開催し、数回の計画変更を経て、平成21年9月27日ころ、本件土地上に24階建の本件マンションを建設する計画を公表した。
不動産販売会社は、平成22年3月24日、本件マンションについての建築確認を受け、同月ころ、建築会社である被告が建設工事を請け負い、平成23年9月ころ、本件マンションは完成した。
判決と内容のあらまし
裁判所は次のように判示し、所有者らの請求を棄却した。
⑴本件眺望の価値
本件原告マンションは、都市機能の集中化や高層の建物の建設が予定されていた地区に存在しているのであるから、本件原告マンションからの眺望は、周辺環境の変化に伴って、当然に変化するものであるというべきであって、本件原告マンションからの眺望に、客観的な価値を認めることはできない。
本件原告マンションのパンフレットには、セールスポイントとして、眺望に関する記載はないこと、本件原告マンションの購入者に対するアンケートにおいて、購入に係る動機について、眺望・景観を選択した者は1.2%にすぎなかったことから、本件原告マンションの購入者らにとって、眺望が極めて重要と考えられていたとまでは認めるに足りない。
そして、原告らが、長期間にわたって、本件原告マンションからの眺望利益を享受していたとまではいい難いから、本件原告マンション購入後に、原告らにとって眺望の重要性が大きく高まっているなどともいえない。
したがって、原告らが本件マンションの建築前に有していた、本件眺望を享受する利益は、法的保護に値するほどに重要であったとはいえない。
⑵不動産販売会社の説明義務違反(情報提供義務)
①宅地建物取扱主任資格を有する者が、本件各売買契約締結に先立って、本件重要事項説明書の内容を説明していたこと、
②本件重要事項説明書には、周辺環境は将来変化する場合があること等についての記載があったこと、
③所有者所有者らは、本件重要事項説明書の内容を理解した旨記載された確認書に署名押印をしたことを認めることができる。また、
④本件重要事項説明書に係る説明は、一時間以上かけて行われていたとみられ、
⑤所有者所有者らが、「重要事項説明書」という書題の表面について、その内容について十分な理解をしないまま、安易に、その内容を理解した旨の文書に署名押印をするとは考え難い。
以上によれば、不動産販売会社は、所有者所有者らに対し、本件原告マンションの眺望に変化が生じる可能性があることを十分に説明していたというべきであり、不動産販売会社に、本件各売買契約に関して、情報提供義務違反があったとはいえない。
⑶不動産販売会社の説明義務違反(誤情報提供)
本件土地は、本件各売買契約の時点では、某市の保留地として業務・商業施設の誘致方針が立てられており、そのことを認識していた本件勧誘担当者らが、あえて、所有者所有者らに対し、本件土地に公園ができるなどと言ったなどということは考え難い。
本件土地が含まれる甲地区計画の乙地区は建築物の容積率が最大で600%とされているのであるから、低層の建物しか建たないという説明は、完全な虚偽説明になるところ、本件勧誘担当者らにおいて、安易に、あえて虚偽の説明を行い、将来の紛争発生の可能性を高めるような勧誘をするとは考えられない。
したがって、不動産販売会社が、本件土地に関し、所有者所有者らに対して誤った情報を提供したということはできない。
⑷不動産販売会社の将来の眺望についての説明
本件広告、本件写真資料、及び、これらに基づく本件勧誘担当者らの口頭での説明が、本件眺望に触れることはあったとしても、これらは、不動産販売会社において、所有者所有者らに対し、幾つもある本件原告マンションの利点の一つとして、当時における本件眺望が良好であることを指摘したものにすぎないというべきであって、それを超えて、本件原告マンションの売りが本件眺望にあるなどと本件眺望の良さを特に強調して勧誘を行ったとはいえない。
したがって、本件勧誘担当者らが、所有者所有者らに対し、本件マンション建設前の本件眺望が、将来にわたって保証されるかのような誤った情報を提供したとはいえない。(「圧迫感を受けずに生活する権利」「販売会社の付随義務」については省略。)
まとめ
「周辺環境は将来変化する場合がある」という内容はどんな重要事項説明書にも必ず記載があるはずです。
眺望を売りにするようなマンションは、周辺環境がどのように変化するのかを予測する必要がありますが、用途地域や容積率も変わる事がある為、特に都心では将来周辺環境がどのように変化するのかを確実に予測することは難しいかと思います。
とはいえ、眺望の良いマンションはそうでないマンションに比べて高額で売れる事が多いです。特にタワーマンションでは上階で眺望の良いマンションは人気があります。
将来の資産価値に大きく関わる事ですので、周辺環境の変化については、市のホームページ等でしっかりと調べておく必要があります。
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