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敷引について家賃の3ヶ月分までは有効とされた事例

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敷引について家賃の3ヶ月分までは有効とされた事例

 敷引特約について、賃料の3倍を超える部分については消費者契約法10条に反し無効とした事例(西宮簡判平23・8・2)

敷引について家賃の3ヶ月分までは有効とされた事例

 「敷引を取ることは違法行為だ!」

 と思っている方もまだいらっしゃると思います。

 約10年程前までは、敷引特約は消費者契約法10条を理由に無効をされる事例も少なくありませんでした。

 また、無効とされるかどうかも裁判所によって判断が分かれていました。

 その後、平成23年3月24日の最高裁の判決で、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるとは直ちにいうことはできないとされ、家賃の3ヶ月から3.5ヶ月分くらいの敷引であれば認められるようになりました。

 敷引に関しては、契約時に説明をし賃借人にも説明をしているはずです。

 それを後から「敷引は違法だ!」ということ自体が信義則に反するのではないか、と昔から私も思っていました。

 NHKの受信料に関しての最高裁の判決は正しくないと思いますが、敷引に関する最高裁の判決は正しいと思います。

事案の概要

結論

敷引40万円の内、27万9000円の敷引が有効なものとされる。

家賃9万3000円の3ヶ月分が27万9000円、残りの12万1000円については消費者契約法10条により無効

 賃借人は、賃貸人と賃料9万3000円、敷金50万円の内40万円を敷引金とする建物賃貸借契約を締結して6年間居住した後、退去した。

 賃借人は敷金50万円のうち40万円を敷引金とする敷引特約は消費者契約法10条に反し無効であるとして、敷金の返還を求めて提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、以下のように判示し、賃借人の請求の一部を認容した。

 (1)敷引の有効性について

 敷金は、賃料その他の賃借人の債務を担保する目的で、賃借人から賃貸人に交付される金員であり、賃貸借契約終了時に賃借人に債務不履行があればこれを控除した残額を、賃借人に債務不履行がなければ全額を賃借人に返還される目的のもと賃貸人に預託された金員と解されている。

 このような性質を有する敷金から、賃借人の債務不履行等がないにもかかわらずその一部を返還しないことを約することは、敷金授受の目的を超えるものとなるため、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害する特約といえるかが問題となる。

 この点については、

 ①京阪神地方においては、長年賃貸借契約終了時に敷金の一部を控除して返還するといういわゆる敷引特約の慣習が存在していること

 ②同慣習自体は、賃料額を低額に維持する効果も期待できることから直ちに不当とはいえないこと

 ③賃借人は、通常、賃貸借契約書等により敷引特約の存在を認識した上で賃貸借契約を締結していること

等からすると、敷引特約そのものが直ちに、賃借人の利益を一方的に害するとまではいえないと解する。

 ただし、その場合でも、

 ①賃借人の債務不履行等がないにもかかわらずその一部を返還しないとする特約は、敷金授受の目的を超えるものであるといえること

 ②一般的に賃貸借契約書は予め不動文字で印刷されており、当該物件を賃借しようとする一般消費者である賃借人は、敷引額の減額等について交渉の余地がないのが通常であること

 等の事情を考慮すると、敷引特約に基づく敷引額が高額に過ぎると評価される場合には、同敷引額に合理的な理由(特段の事情)が認められない限り、合理的な理由がない部分につき、消費者である賃借人の利益を一方的に害する特約として消費者契約法10条により無効と解するのが相当である。

(2)敷引の金額について

 本件敷引特約は、預託された敷金50万円から無条件に40万円を控除するというものであるが、敷引率が80%と高率であり、かつ、月額賃料の約4.3倍になることからすると、敷金授受の目的を超えるもので高額に過ぎると評価せざるを得ない。

(3)敷引を取る理由について

 上記高額と評価される本件敷引額を控除することに合理的な理由があるか否かについて検討する。

 賃貸人らは、上記合理的な理由(特段の事情)として、

 ①本件敷引以外には礼金や更新料等は授受されない契約となっていること

 ②本件敷引特約があるため、本件居室の賃料を近隣相場に比して月8000円低額に抑えていること

 ③本件居室は、谷町六丁目駅から徒歩6分という好立地にあり、タイル張りの高級感ある建物で3LDK56.7㎡の専有面積に照らしても賃料が高額過ぎると評価することはできない、

 ④平成23年度固定資産税中、本件居室分は180万4800円であること、

 ⑤賃借人は、本件敷引特約を含めた重要事項について説明を受け、本件敷引特約の趣旨を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結していること等から、本件敷引特約には合理的な理由があり賃借人の利益を一方的に害する特約とはいえず、消費者契約法10条に該当しないと主張する。

 しかし、上記②の主張については、本件敷引特約があるため、実際に本件居室の賃料が月8000円低額になっていることを認める証拠はなく、また、本件敷引特約が、賃借期間の長短にかかわらず一律に40万円を敷引すると定められていることからすると、当初から、賃貸人らが賃料を低額に抑えて、その分を敷引金から回収しようとする意図があったとは認めがたい。

 また、③④の事情については、本件居室が収益物件である以上、通常賃料額に織り込み済みであると認められるところ、賃料額に反映されない付加価値として認めるに足りる証拠もないため、いずれも、高額と評価される本件敷引額を許容する特段の事情に該当するとまでは認めがたい。

(4)敷引額を考慮する合理的な理由について

 ただし、本件については、

 ①賃貸人らは敷引金40万円以外には更新料及び礼金等の金銭を賃借人から徴収していないこと

 ②賃借人の本件居室の賃貸借期間が6年間であったこと

 ③賃借人は本件賃貸借契約に先立ち、本件敷引特約について説明を受け、その趣旨を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結していること

等の事情が認められるところ、これらの事情は、敷引額を考慮する合理的な理由と認めるのが相当である。

(5)敷引が有効となる金額について

 以上認められるところに弁論の全趣旨を併せ考慮すると、本件敷引特約については、月額賃料9万3000円の3か月分27万9000円が相当な敷引金の範囲と解するのが相当であり、その額を超える12万1000円については、敷金の性質からして、一般消費者である賃借人の利益を一方的に害する特約として、消費者契約法10条により無効となると解すべきである。

まとめ

 敷引が認めらる金額は状況により異なります。

関西地方の賃貸契約特有の商習慣ですので、それ以外の地域にお住まいの方にとっては関係ないものかもしれません。

今は、トラブルを避けるため、敷引を取っているところはほとんどないですが、関西地方でオーナーチェンジ物件や、収益物件を購入する際にも参考になる事例であると思います。

【消費者契約法第十条】

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項

その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

民法第1条2項】

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

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