判例解説 売買 瑕疵担保責任(契約不適合責任) 義務違反

5億6000万の物件を関係書類の精査をせず購入、約1455万の損害

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5億6000万の物件を関係書類の精査をせず購入、約1455万の損害

 売主及び仲介業者の建物瑕疵に関する告知義務違反を理由とする買主の損害賠償請求が一部認められた事例(東京地判平27・10・14)

5億6000万の物件を関係書類の精査をせず購入、約1455万の損害

 民法改正前、雨漏りしている物件の取引では、売主が買主に、雨漏りがあった事を事前に伝えていれば、引渡し後「隠れた瑕疵」にならず、損賠賠償義務を負うことはありませんでした。

 民法改正後は、買主が雨漏りの事を知っていても知らなくても、「品質に関して契約の内容に適合しない」と認められれば、損害賠償義務を負う可能性があります。

 この民法改正があってから不動産の買取業者は引渡し後のトラブルを避けるため、築年数が古くなっている物件の買取を避けるようになってきています。

 建物状況調査をするという方法もありますが、建物状況調査に関しては検査までに時間がかかる事もあります

 また検査をして、不具合が発見された場合、基本は売主の費用負担で不具合箇所を直してからの引渡しとなります。

 後々のトラブルを避けるためには建物状況調査もよい方法ですが、今、特に築年数が古い一戸建に関しては、一般の方にも買取業者にもは売りにくくなっているように思います。

事案の概要

結論

買主の1455万円余の損害賠償請求はほぼ棄却され、汚水ポンプ交換工事費用40万円余の支払いのみ認められる。

登場人物

■買主(原告・訴えを起こした側)

■売主(被告・訴えを起こされた側)

■買主側媒介業者(被告・訴えを起こされた側)

■売主側媒介業者(被告・訴えを起こされた側)

時系列

平成22年11月 売主が本物件の防水の改修工事

■平成24年12月 汚水ポンプの故障、点検業者から交換・修理の推奨をする報告を受ける

■平成25年2月 汚水ポンプ1基停止させてもう1基のポンプの単独運転とした

■平成25年4月 瑕疵担保責任を負わない約定で5億6000万円にて本件売買契約を締結

■平成25年6月 決済

■平成25年8月 買主が、管理委託契約を解除、修繕履歴書等を受領したところ、平成22年9月以前に漏水があったことを認識

■平成25年8月 賃借人の1人より過去の雨漏りの補償と賃料の大幅減額を請求

■平成25年10月 台風による大雨により、本件建物の複数のフロアで雨漏りが発生

■平成25年11月 買主は857万円余をかけてシーリング等の改修工事を実施

■平成26年2月 買主は汚水ポンプの交換工事を発注、36万円余を支払う

■平成26年9月 工事費等計1455万円余の支払を求めて本件訴訟を提起した

 平成25年4月、東京都内に所在する築約24年の賃貸ビルについて、買主(原告)は、売主(被告)との間で、買主側媒介業者(被告)売主側媒介業者(被告)の媒介により、

売主は瑕疵担保責任を負わない約定で、売買代金額5億6000万円にて本件売買契約を締結した。

 その際、売主及び売主側媒介業者は,本件建物について、雨漏りや給排水設備の故障・漏水等の建物の瑕疵について、発見していない旨の記載がある「物件状況確認書(告知書)」(以下「告知書」という。)を交付した。

 同年6月に決済が行われ、同時に買主は、買主側媒介業者に本件建物の管理を委託し、修繕履歴書等は買主側媒介業者が保管することとなった。

 同年8月に買主が、買主側媒介業者との管理委託契約を解除し、重要事項説明書の付属書類となっていた修繕履歴書等を受領したところ、売主が本件建物を取得した平成22年9月以前に漏水があったことを認識した。

また同月、賃借人の1人より過去の雨漏りの補償と賃料の大幅減額を請求された(同年12月に当該賃借人は退去し、後継テナントは平成26年7月に入居した)。

 同年10月に台風による大雨により、本件建物の複数のフロアで雨漏りが発生し、調査の結果、その原因は外壁シールの劣化や外壁材の割れや止水対策の不備であると考えられたため、買主は同年11月から857万円余をかけてシーリング等の改修工事を実施した。

 平成26年2月に買主は汚水ポンプの交換工事を発注し、36万円余を支払った。

 平成26年9月、買主は売主らに対し、主位的には詐欺の共同不法行為、予備的に契約締結時の告知義務違反の不法行為により、

 ①シーリング等の改修工事費用

 ②雨漏りによるテナント退去に伴う空室損

 ③汚水ポンプの交換工事費用等として

 計1455万円余の支払を求めて本件訴訟を提起した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、買主の請求の一部を認容した。

⑴詐欺の不法行為について

 平成25年4月の本件売買契約締結時から同年8月頃まで、修繕履歴書等が買主に手渡されない状態であったことは認められるが、これは買主が本件建物の管理を買主側媒介業者に委託したことによるものであり、過去の雨漏りや修繕等の事実を秘して本件売買契約を締結しようとした意図が売主らにあったとは認められない。

⑵告知義務違反について

 ①雨漏りについて

 告知書は、売主が買主に対して物件の状況を報告するためのものであり、本件建物のように既に築後20年以上を経過し、所有権も転々と移転してきた商業ビルの売買契約時において、重要事項説明書の付属書類中に記載されている前所有者による修繕等の事実を記載する義務があるとまではいえない。

 売主は本物件取得直後の平成22年11月に防水の改修工事を行っているが、その後本件売買契約締結までの間に雨漏りがあったとも認められない。

 買主は簡単な内覧により本物件の購入を決断し、関係書類の精査を待たずに契約書を作成して売買契約を締結しており、買主の主張の事実は売主らの告知義務違反を根拠づけるものとはいえない。

 また、賃借人の退去と雨漏りとの因果関係も認められない。

汚水ポンプの故障について

  平成24年12月の点検作業時に点検業者から2基あるポンプの内1基について交換・修理の推奨をする報告があり、これを停止させてもう1基のポンプの単独運転とした旨記載の平成25年2月付のシールが当該ポンプに貼付されていることからすれば、本件売買契約時点では既に停止していたものと認められ売主らの告知義務違反と認められる。

⑶結論

 以上によると、原告の請求のうち、詐欺の不法行為による損害賠償請求は理由がなく、信義則上の告知義務違反の不法行為による損害賠償請求のうち、汚水ポンプの状況に関する告知義務違反による損害賠償請求権に基づいて40万円余の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

まとめ

 買主が、物件の購入前に物件の資料をしっかりと精査していれば裁判にはならなかったのかもしれません。

 また、仲介業者は売主に瑕疵担保責任免除、現状有姿の物件だからといって、引渡し後は、一切責任を負わなくていいことという意味と勘違いをされないように説明をする必要があります。

 説明義務違反で、仲介業者、売主が高額な損害賠償請求されることは多いので、民法改正後の今、特に注意をする必要があります。

【民法第1条第2項(基本原則)】権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

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