売主が私道の通行・掘削承諾を取り付ける特約を履行しなかったとして、買主が求めた違約金請求が認容された事例(東京地判平26・4・23)
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掘削承諾がとれずに700万の損害賠償
一戸建や土地の取引で前面道路が私道の場合、通行の承諾書や、新築を建築する場合は水道管を引き直す際に他人の私道を掘削する必要がある場合は、掘削の承諾書を取得します。
また、これらの承諾書を取得を条件に契約をする場合は、契約書の特約に「承諾書が取得できなかった場合白紙解除できる」と記載します。
この判例では、契約書にこの白紙解除できる特約を記載せずに、期日になっても承諾書を取得できなかったため、違約となり、売主が700万円の損害賠償の支払いを負う事になってしまています。
白紙解除の特約を付けないのであれば、契約前に近隣土地所有者に承諾書を取得しに行くなりできたはず、媒介業者にも責任はあるように思います。
事案の概要
平成23年末頃、宅建業者である買主(原告)は、媒介業者から、売主(被告)所有の借地権付建物(以下「本件建物」という。)の購入を持ちかけられ、買主は本件建物解体後の跡地に戸建住宅2棟の新築分譲を計画し、解体・新築工事のためには本件建物に通じる私道の権利者から工事車両の通行承諾書と水道管・ガス管・下水管等の敷設工事等を実施するための掘削承諾書(以下両承諾書を合わせ「本件各承諾書」という。)が不可欠であると考え、買側媒介業者に対し、売主が本件各承諾書を取得することが売買契約締結の条件であると買側媒介業者に伝え、買側媒介業者がこれを約束したため、買主は本件建物を購入することを決めた。
平成24年4月27日、買主と売主は、買側媒介業者、売側媒介業者立ち会いのもと、以下の内容の本件建物の売買契約を締結した(以下「原契約」という。)。
・売買代金3500万円
・手付金500万円
・引渡日平成24年5月17日
・違約金売買代金の20%相当額特約条項
①買主は既設の上水道管を利用しないこととし、土地所有者の所有する私道に新設する。また、私道使用料が発生した場合には売主の負担とする。
②買主は測量図を作成しポイントを設置する。その費用は売主の負担とする。
③買主は本取引決済後3か月以内に建物を解体するものとする。
④売主は本件建物の底地所有者及び他の者が所有する前面私道の本件各承諾書を各所有者(以下「私道所有者」という。)より取り付けるものとする(以下「本件各承諾書取得義務」という)。
契約締結後、売側媒介業者は事実上売主を代行して、また買側媒介業者もこれに協力して、私道所有者の調査や交渉等本件各承諾書取得のための作業を行ったが、売主は決済日である平成24年5月17日までに本件各承諾書を取得することができなかったため、買主と売主は、同月16日、同年6月18日、同年7月18日及び同年10月25日の4回にわたり、不動産売買変更確認書を締結して残金決済日を変更し、最終的な残金決済日は同年12月18日とされた。
なお、同年7月頃には、本件建物の底地所有者が既存の上水道管を使用することを事実上認めたが、売主は期限までに私道所有者全員から本件各承諾書を取得できなかった。
平成24年12月24日、買主は、売主に対し平成25年1月10日までに、契約に基づく本件各承諾書取得義務及び本件建物の引渡義務(以下、これらの義務を併せて「本件債務」という。)を履行するよう催告し、残代金の支払と売買目的物の引渡しを受ける用意を整えていたが、売主が期限までに本件債務を履行しなかった。
平成25年1月19日、買主は、売主に対し、違約金条項に基づき契約を解除するとの意思表示をするとともに、手付金500万円の返還及び違約金700万円の支払を請求した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のように判示して買主の請求を全て認容した。
原契約上、売主が本件各承諾書取得義務を負うことは争いがなく、争点は、本件各承諾書取得義務の前提として、買主が水道管工事業者を選定して工事契約を締結し、同業者において私道所有者に対し工事概要を説明する義務(以下「本件先履行義務」という。)を負うか否かである。
本件先履行義務について、契約書に何らの記載もなく、契約締結の際に話題にも出ていないこと、決済時期の変更の際も本件先履行義務が履行されていないことが指摘されていないことなどに照らせば、買主と売主との間で、本件先履行義務を買主が負う旨が合意されたということはできない。
その他、契約の解除前に本件先履行義務の不履行の指摘がなく、かえって売主の父親は手付金返還はやむを得ないと考えていたことなどに照らすと、買主が本件先履行義務を負う旨の合意はなかったと認められる。
以上の認定によれば、買主と売主との間で、本件先履行義務を買主が負う旨の合意をしたことは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
以上を前提として、当事者間に争いのない事実によれば、契約は、売主の本件債務の履行遅滞により平成25年1月19日に解除されたものである。
したがって、売主は、買主に対し、契約解除に伴う原状回復義務(民法545条1項)に基づき、手付金500万円及びこれに対する商事法定利率年6分の割合による利息の支払義務と、売主に契約上の債務不履行があるから、本件違約金条項に基づき、売買代金額3500万円の20%相当額である700万円及びこれに対する商事法定利率年6分の割合による損害賠償義務を負う。
まとめ
私道の所有者が遠方に住んでいる事や、近隣トラブル等で承諾書を取得できない場合などはよくある事です。
個人の売主様の場合は、承諾書がもらえなかった場合には白紙解除にする特約を付けておくの一般的な事です。
この判例に限らず、私道に面する不動産の取引はトラブルも多いため、近隣の調査等を慎重に行う必要があります。
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