判例解説 売買 瑕疵担保責任(契約不適合責任) 義務違反

消防法違反の建物、売主の説明義務

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消防法違反の建物、売主の説明義務

 建物の消防法違反に関して、売主の瑕疵担保責任が認められ、仲介業者に積極的調査説明義務はないとされた事例(大阪地判平22・3・3)

消防法違反の建物、売主の説明義務

 判例では、宅建業者は消防法違反に関して積極的な調査義務があったということはできないとされています。

 売主は、契約書の特約で瑕疵担保免除とされていても、買主に損害を与えるような事実を隠していた場合は説明義務違反となり、賠償責任を負うことがあります。

 収益物件では、コスト削減等を理由に消防点検を受けていない物件が多いです。

 現地を調査する際は、消化器の有無も確認をしておいた方が良いでしょう。

事案の概要

 買主は、宅建業者の仲介により売主から本件土地建物を1億9500万円で購入し、平成19年3月に引渡しを受けた。

 買主は同年7月頃、内装工事のため消防署に問い合わせたところ、売主は平成15年9月、本件建物に対する消防署立入検査で「屋内消火栓の不設置及び地下1階駐車場の特殊消火設備の不設置(以下「本件違反事実」という。)」の指摘を受けていたこと、 

 同年10月に本件違反事実の改善書を消防署に提出したが、実際はこれを是正していなかったことを知った。

 本件売買契約に先立って、宅建業者は買主に対し、売主が平成18年4月に消防署に提出した消防用設備等点検結果報告書(以下「点検報告書」という。)により本件建物に関する消防法違反の瑕疵について説明をしたが、点検報告書には本件違反事実は記載されていなかった。

 買主は本件違反事実の是正のため、消防署指導のもと地下1階駐車場面積を縮小し、一部にシャッターを入れて倉庫に改造する工事を行い、工事費用210万円を支払った。

 買主は、売主に対しては売主瑕疵担保責任に基づき、宅建業者に対しては媒介契約の善管注意義務違反に基づき、工事費用相当額210万円の損害賠償を請求した。

 買主の請求に対し、売主は、「本件違反事実があっても建物使用に支障はなく、本件違反事実は瑕疵には当たらない。本件違反事実は宅建業者に口頭により説明しており、買主に対して説明義務を負うのは宅建業者である。売主は売買契約書の売主瑕疵担保責任免除の特約により免責されている。」等と売主の責任を否定した。

 また宅建業者は、「売主よりは、点検報告書を受領しただけで本件違反事実についての説明は受けていない。

 仲介業者は違反事実を知っていた場合を除いて、消防法違反についての積極的調査義務はない。

 宅建業者は買主に対し消防法に関して確認をする必要があることを認めたり、調査を約束したりしたことはない。」とその責任を否定した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は以下のように判示し、買主の売主に対する請求を認容する一方、宅建業者に対する請求は棄却した。

(1)本件違反事実が瑕疵に当たるか

 本件違反事実は、消防署より指摘を受け、改善が求められており、本件建物を消防法との関係で適法に使用するためには、相応の改修費用が必要なのであるから、本件建物の瑕疵に当たる

 そして、買主は本件違反事実を知らず、また知らなかったことに過失はなかったのであるから、本件違反事実は民法570条の隠れたる瑕疵に当たる

(2)瑕疵担保免責特約について

 証拠等によれば、売主は平成15年の消防署立入検査により本件違反事実を知っていたにもかかわらず、その事実を売買契約の締結に際し買主及び宅建業者に告知していたとは認められない。

 従って、売主は瑕疵担保責任を免れない(民法572条)。

(3)仲介業者の調査説明義務について

 宅建業者は、本件仲介契約に基づき買主に対し善良な管理者の注意をもって本件売買契約の目的を達成するために必要な調査報告義務を負う

 しかし、本件建物の東側に増改築部分があること、地下駐車場があることをもって、宅建業者が消防法違反の存在を想定すべきであったとはいえないし、また、宅建業者は買主から点検報告書の交付を受け、これ以外に書類はないとの説明を買主より受けていたのであるから、宅建業者に消防法違反の事実があることを想定し消防署に問い合わせる等の積極的な調査義務があったともいうことはできない。

 買主は宅建業者が消防法違反について消防署に調査する旨約束したと主張するが、この主張は事実経過と整合しない一方、売買取引後になって買主が当該主張を始めたという宅建業者の供述は、宅建業者作成の経過報告書の内容と整合し、信用性があることから、買主主張の約束があったとは認められない。

(4) 損害について

 買主は、本件違反事実の是正のための改修工事費用210万円を支払ったものであるが、当該改修工事は、本来は全館にスプリンクラーを設置し、地下1階駐車場に特殊消火設備を設置するため2,500万円余が必要なところ、消防署の指導のもと地下1階駐車場の面積を縮小し、一部にシャッターを入れて倉庫に改造する工夫をして改修工事費用の圧縮を図ったものであり、本件違反事実の是正のために買主に生じた損害であると認められる。

 以上により、買主の売主に対する請求は理由があるからこれを認容し、買主の宅建業者に対する請求は理由がないからこれを棄却する。

まとめ

 実際に、飲食店複数が入っているビルでも消防設備点検が行われていない物件はあります。

 また、車庫転等の違反建築物の場合にも消防設備点検を受けていない物件がよくあります。

 消防設備点検を受けていない収益物件では、業種によっては役所の営業許可が下りないことがあり、工事を進めていた賃借人に何千万単位の賠償請求をされることが実際にあります。

 消防設備は人命に関わり、消防設備の不備が原因で火災となった場合は、多額の損害賠償責任を負うこともあるので、消防設備点検は受けておきましょう。

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