集中豪雨の際に建物の浸水被害が生じ得ることを買主は認識しており隠れた瑕疵に当たらないとされた事例(東京地判平28・12・8)
浸水被害の履歴を事前に説明していた場合、瑕疵には当たらないとされた事例
浸水被害の履歴について、不動産業者が調査を行ない重要事項として説明をしておかなければいけないという事を改めて認識させられる判例です。
近年、台風の影響により河川の氾濫や、高潮で建物が浸水してしまうという被害を受けた方も多くなっています。「昔の事だからもう大丈夫」となんの根拠もなく説明をしなかった場合には、後々で紛争となり損害賠償を支払わなければいけない状況にもなりかねません。
事案の概要
平成25年10月、買主(原告・個人)は売主(被告・宅建業者)より、本件土地及び建物(本件不動産)を4740万円で購入した。
平成26年1月、買主は本件不動産を賃借人に貸したが、平成26年7月に浸水被害が発生し、同年10月賃借人は本件建物から退去した。
また買主は、平成26年10月に本件建物を次の賃借人に貸したが、平成27年5月と同年9月に浸水被害が発生し、同年11月に次の賃借人も本件不動産から退去した。
同年12月、売主は買主の要請により本件建物に立ち入り、ユニットバスを解体して配水管等の調査を行ったが、浸水原因は判明せず、その後浴槽は外されたままの状態となった。
買主は、平成28年5月、本件不動産を第三者に5040万円で売却した。
買主は売主に対し、
①本件建物に排水ポンプが設置されていない瑕疵があり、そのため購入後3回の浸水事故が発生し借主が退去することとなった。
②売主は浸水調査のためユニットバスを解体して退去したが、以降浴槽を取り外した状態で放置したことは不法行為に当たる。
として、本件不動産の5か月半分の賃料に相当する158万円余の損害賠償を求める本件訴訟を提起した。
対して売主は、
①本件建物の浸水事故は、異常な降雨量の局地的集中豪雨によるもので本件建物の瑕疵ではない。
②排水ポンプは、地下排水設備に流入した雨水等を前面道路の公共排水設備へ流す補助機能を有するものに過ぎず、通常の排水能力の限界を上回るような局地的集中豪雨に対応することとは別次元の問題である。
③本件売買前において局地的集中豪雨により浸水被害が発生したため、売主は本件建物に排水逆流防止弁を追加設置し、買主にそれらの事情を説明し、これを前提として売り出し価格より1240万円減額して本件売買契約を締結した経緯がある。
よって買主・売主間では、浸水被害が生じたとしても、売主は損害賠償責任を負わない旨の合意があった。
④買主が主張する浴槽の放置については、売主は修復工事をしようとしたが買主の妨害工事によってできなくなったものである
などと主張した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のとおり判示し、買主の請求を棄却した。
⑴買主が本件不動産を購入して以降、本件建物に合計3回の浸水被害があったことは当事者間に争いがなく、買主は、これらの被害の発生は本件建物の瑕疵に基づくものであると主張するが、局地的集中豪雨の発生直後に本件建物に浸水被害が発生する原因については、買主の主張・立証を総合しても明らかではない。
買主は、本件建物が前面道路より下がった半地下状の1階部分を有する建物であること、局地的集中豪雨によっても近隣の建物に同様に被害が生じていないことなどから、本件建物の排水ポンプ不設置が瑕疵であるとするようであるが、専門機関の調査によっても排水ポンプの排水能力と降雨量との関係が不明であり、直ちに排水ポンプの不設置をもって本件建物の瑕疵と断ずることは出来ない。
⑵浸水被害が本件建物の瑕疵によるものであるかの検討はひとまずおき、売主主張の担保責任を負わない旨の合意があったか、また、これが「隠れた」瑕疵に該当するかについてであるが、
①売主は平成25年3月に竣工した本件建物を、当初5980万円で売りに出していたこと、
②本件売買前に局地的集中豪雨が発生し浸水被害が生じたため、売主は、対策として本件建物に排水逆流防止弁を追加的に設置したこと、
③売主は買主に対し、重要事項説明書に前記浸水被害に関する事情等を比較的詳細に記載し、口頭でも同内容の説明をした上、代金額を1240万円値引いた価格で本件売買契約を締結したこと。等の事実が認められる。
「浸水被害が生じても売主は損害賠償責任を負わない」とする旨の重要な合意が書面化されていないことからすれば、売主主張の賠償責任を負わない旨の合意があったとは認められないが、本件売買契約の締結において上記のような説明がされていることからすると、買主は、局地的集中豪雨の際には本件建物に浸水被害が生じ得る物件であることを十分認識していたというべきであり、仮に本件建物の浸水被害が建物の瑕疵によるものであるとしても、少なくとも買主・売主間に隠れた瑕疵があったということはできないことは明らかである。
⑶証拠によれば、売主は浸水原因の調査のみならず浴槽の再設置を含む本件建物の復旧工事の実施について誠実に取り組んでいたことが認められ、買主が主張する売主が取り外した浴槽等を放置したとの主張を認めるに足りる証拠はない。
⑷以上により、買主の主張はいずれも理由がないことからこれを棄却する。
まとめ
過去の浸水被害の履歴に関しては、分譲マンションであれば管理会社が把握している可能性が高いですが、一戸建等であれば見落としがちなポイントでもあります。
不動産業者であっても転勤をして間もない者や、その土地の歴史を知らない者であれば重要事項として説明をしないまま契約をしてしまっているケースも多々あると思われます。
しかし、この判例の買主は事前に重要事項説明で比較的詳細に説明も受けており、当初販売価格5980万円の物件を1240万円も値引きしてもらっています。
また、4740万円で買った物件を5040万円で売却しているようですので300万円高く売れています。リフォーム費用・諸費用・譲渡税等はかかりますが、賃借人も比較的早く付いているようですのでそこまで大きな損害が発生していたようにも思えません。
売主は修復工事をしようとしいるのに対して、買主が妨害工事をし、その期間の家賃を払えというのはあまりにも理不尽ではないでしょうか?
【関連記事】
中古マンションの設備故障、買主の瑕疵担保請求が否定された事例