判例解説 義務違反

適用される時効は3年?それても10年?

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適用される時効は3年?それても10年?

契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して相手方に情報を提供しなかった場合、債務不履行責任がないとされた事例(最高裁平23・4・22)

適用される時効は3年?それても10年?

この判例は「債務不履行による損害賠償請求権」が争点となっています。

債務不履行が焦点となる理由には、時効期間が関係してます。

■債務不履行の場合は10年で時効

■不法行為の場合は3年で時効

最高裁まで争った結果、債務不履行での請求は認められませんでした。

だからといって、契約をするかどうかの判断に影響がある重要なことを説明しないことは絶対にあってはならないことです。

事案の概要

結論

説明義務違反による、債務不履行は認められませんでした。

登場人物

信用協同組合(上告人、下級審の判決に不服を持ち訴えを起こした側)

個人ら(被上告人、訴えを起こされた側)

※上告審となる裁判所は、原則として最終審判の場は最高裁判所。、民事訴訟において第一審の裁判所が簡易裁判所の場合、高等裁判所が審理を行う。

(1)信用協同組合の債務超過

 信用共同組合(上告人:信用協同組合)は、平成6年に行われた監督官庁の立入検査において、自己資本比率の低下を指摘され、さらに、平成8年に行われた立入検査においても、実質的な債務超過の状態にあるなどの指摘を受け、文書をもって早急な改善を求められたが、その後も上記の状態を解消することができないままであった。

(2)説明義務違反

 平成10年ないし平成11年頃、信用共同組合は、債務超過の状態にあって、早晩監督官庁から破綻認定を受ける現実的な危険性があり、このことを十分に認識し得たにもかかわらず、個人ら(個人2人と法人2社)に対し、そのことを説明しないまま、信用共同組合に出資するよう勧誘させた。

(3)出資額

 個人らは、上記の勧誘に応じ、平成11年3月、信用共同組合に対し、各500万円の出資をした。

(4)信用共同組合の経営破綻

 信用共同組合は、平成12年12月、金融再生委員会から、金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(改正前のもの)第8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け、その経営が破綻した。

 個人らは、これにより、本件各出資に係る持分の払戻しを受けることができなくなった。

(5)債務不履行による損害賠償請求

 平成11年3月、個人らは信用共同組合に対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求権等を理由とする不当利得返還請求権に基づき、予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、出資相当額および遅延損害金の支払いを求めた。

 第1審は平成20年1月28日に判決、原審は平成20年8月28日に判決(いずれも不法行為は肯定するが消滅時効完成、債務不履行は肯定するが会社は消滅時効完成)がなされた。

 そこで、信用共同組合から敗訴部分について上告がなされた。

判決と内容のあらまし

 原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人らの予備的請求である債務不履行による損害賠償請求を、遅延損害金請求の一部を除いて認容すべきものとした。

 ①説明義務違反について

 上告人が、実質的な債務超過の状態にあって経営破綻の現実的な危険があることを説明しないまま、被上告人らに対して本件各出資を勧誘したことは、信義則上の説明義務に違反する(以下、上記の説明義務の違反を「本件説明義務違反」という。)。

 ②債務不履行について

 本件説明義務違反は、本件各出資契約が締結される前の段階において生じたものではあるが、およそ社会の中から特定の者を選んで契約関係に入ろうとする当事者が、社会の一般人に対する不法行為上の責任よりも一層強度の責任を課されることは、当然の事理というべきであり、当該当事者が契約関係に入った以上は、契約上の信義則は契約締結前の段階まで遡って支配するに至るとみるべきであるから、本件説明義務違反は、不法行為を構成するのみならず、本件各出資契約上の付随義務違反として債務不履行をも構成する。

 しかしながら、原審の上記判断のうち、本件説明義務違反が上告人の本件各出資契約上の債務不履行を構成するとした部分は、是認(ぜにん)することができない。

 その理由は、次のとおりである。

 契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。

 なぜなら、上記のように、一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために、相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り、損害を被った場合には、後に締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理(はいり)であるといわざるを得ないからである。

 契約締結の準備段階においても、信義則が当事者間の法律関係を規律し、信義則上の義務が発生するからといって、その義務が当然にその後に締結された契約に基づくものであるということにならないことはいうまでもない。

まとめ

 説明義務は、契約に基づいて説明する義務が生まれるのではなく、契約を結ぶ前に生まれる義務なので、債務不履行というのはおかしいということです。

 契約の義務として、契約のための説明義務があるというのは理屈として成り立たないという意味のようです。

 また、時効に関しては、今年の民法改正で改正点がありますので下記を参考にご覧ください。

 不動産に関して、 家賃債権の消滅時効は改正後も変わりはありません。

【改正前】民法第167条(債権等の消滅時効)
1.債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2.債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

【改正後】民法第167条(債権等の消滅時効)

1.債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2.債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

3.前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

【改正前】民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

【改正後】第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

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