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原状回復ガイドラインの基準、クロスの張替に関する判例(タバコ編)

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原状回復ガイドラインの基準、クロスの張替に関する判例(タバコ編)

 賃貸マンションの退去時における原状回復費用について、通常損耗を超える部分が賃借人の負担とされた事例(東京地判平28・6・28)

原状回復ガイドラインの基準、クロスの張替に関する判例(タバコ編)

 喫煙者の数は年々減少傾向です。

 禁煙をする人の理由は、「健康の為」「タバコ代が高い」「吸える場所がなくなってきたから」「タバコ代が高くなったから」「受動喫煙で家族や彼女の健康を害さない為」等があります。

 ルールを守り、誰にも迷惑を掛けず喫煙をする人がいる一方で、駅前の混みの中、歩きタバコをする人や、吸い殻を他人の敷地内に放り込む人もいます。

 外では吸う場所が無いからといって、賃貸物件の室内でタバコを吸うと、高額な修繕費用を請求させる事もあり、また、持ち家であっても、ヤニで黄ばみ、匂いがする部屋は第一印象も悪く、売却価格にも影響します。

事案の概要

 平成25年2月4日、賃借人(被告・個人)は、賃貸人(原告・個人)から、東京都所在のマンション(以下「本件マンション」)の105号室(以下「本件建物」)を、月額賃料7万9000円、敷金7万9000円、という条件で賃借した(以下「本件賃貸借契約」)。

 なお、本件賃貸借契約には、以下の特約が付されていた。

 ・明渡後の室内クリーニング及びエアコンクリーニングは特段の定めのない限り、賃借人の費用負担により行う。

 ・賃借人の故意、過失による物件内の設備及び備品等の破損又は故障や自然損耗ではないクロス、カーペット、フローリング、クッションフロア、畳、襖、障子等の汚損、破損においては、賃借人の負担とし、部分又は全面張替えを行うものとする。

 平成26年12月31日、本件賃貸借契約は賃借人の解約申し入れにより終了し、同日賃借人は賃貸人に対し、本件建物を明け渡した。

 賃貸人は、

 ・賃借人は、本件賃貸借契約の期間中に、本件建物内の壁、ドア、収納扉、ユニットバス、化粧台の各所に穴、傷等の通常の使用方法では生じえないような破損又は故障を生じさせ、また喫煙等により本件建物内の壁のクロス等をヤニで変色させ、臭いを付着させるなど自然損耗ではない汚損を生じさせた。

 ・賃貸人は、賃借人の行為により賃貸期間中に本件建物に損傷、汚損等が生じた部分を回復、補修等するための費用として45万2520円を要した。

 ・原告は、平成27年1月26日、賃借人に対し、原状回復費用について敷金を控除した残額を請求したが、賃借人からは同年4月3日に賃貸人に対し10万円の支払があったにすぎない。と主張して、賃借人に対し、45万2520円から敷金7万9000円及び受領済の10万円を差し引いた27万3520円を請求する本件訴訟を提起した。

 これに対して賃借人は、本件賃貸借契約に定める原状回復特約については認めるものの、喫煙によるヤニ汚れは入居前から存在しており、また、収納扉の作り替えや化粧鏡の交換費用は高額に過ぎると反論した

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のように判示して、賃貸人の請求のうち、以下の諸経費5万円を除いた22万3520円を認めた。

⑴各損害額について

 ①天井クリーニング及び壁クリーニング

 いずれもヤニ汚れを除去するための費用であり、自然損耗ではない汚損であると認められるから、賃借人に支払義務がある。エアコン洗浄及び室内クリーニングについては、特約に基づく支払義務がある。

 ②壁の穴

 壁に穴があいており、少なくとも過失による破損であると認められるから、賃借人に支払義務がある

 ③収納扉の作り替え

 証拠によれば、収納扉が破損しており、少なくとも過失による破損であると認められるから、賃借人に支払義務がある。金額としても不相当とは認められない。

 ④壁クロス張替え

 ヤニ汚れによる汚損であり、自然損耗ではない汚損であると認められる。汚損の内容に照らし、数量的、場所的な限定は不可能であり、全額を相当と認める。

 ⑤発生材処分費

 少なくとも過失による破損の結果、損傷部分を交換し、不要になったものであるので、処分費として相当と認める。

 ⑥ユニットバス化粧鏡交換

 証拠によれば破損が認められ、賃借人が平成25年2月に賃借開始後、平成26年8月頃に落下したとのことであり、その他入居時点ですでに不具合があり、破損が不可抗力であったと認めるに足りる証拠はない。

 賃借人は、化粧棚のみ交換することで足りると主張し、より安い額で交換が可能であるとの証拠を提出しているが、化粧台と化粧鏡は一式セットで併せて交換しなければならなかったとのことであり、修繕は同種同等のものをもってすべきであるから、全額について相当と認める。

 ⑦諸経費

 現場監督費とのことであるが、必要性を認めるに足りる証拠はないから、費用として認められない。

 ⑵賃借人が主張するより安い見積書賃借人は、費用の相当性について、より安い金額で可能であると主張し、見積書を提出するが、同見積書は、実際に本件建物を検分して見積もりを作成しているものではなく、同見積書の存在によりただちに賃貸人主張の費用額が不相当であるとはいえない。

まとめ

 賃貸物件で、入居者に喫煙をしてほしくないのであれば、物件紹介時の資料や、契約書の特約に明記した上で、契約時、入居者にしっかりと説明をしてもらうよう、不動産仲介会社の担当者に伝えておくと良いでしょう。

【タバコ等のヤニ・匂い】※国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

 (考え方)喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合は、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられる。

 なお、賃貸物件での喫煙等が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる。

原状回復ガイドラインの詳細、2020年民法改正での変更点についてはこちらの記事も参考にご覧ください。

 

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