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大規模修繕はしなくてもいい!?建物の建築等を勧誘した会社に対する損賠賠償請求

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大規模修繕はしなくてもいい!?建物の建築等を勧誘した会社に対する損賠賠償請求

賃貸マンションの建て主が、建物の建築等を勧誘した会社に対して行った損害賠償請求が一部認められた事例(東京地判平28・10・14)

大規模修繕はしなくてもいい!?建物の建築等を勧誘した会社に対する損賠賠償請求

 この判例は、建て主が賃貸マンションを建てる契約をしてから約14年経過してからの訴えです。

 賃貸マンションの経営は事業ですので、大規模修繕をすることすら知らない建て主にもある程度の責任はあるようにも思いますが、修繕費のシミュレーション本来であれば年間360万掛かるところを、年間32万5千円と記載するのはやりすぎでしょう。

 判決では、不動産業者に信義則上の義務違反があったとして、10年以上たった後であっても損害賠償請求が一部認められています。

事案の概要

 建て主(昭和20年生まれの女性:原告)建物建築請負、不動産の管理の受託、賃貸借等を業として行う不動産会社(被告)は、平成9年10月16日、建物(6階建て50戸のマンション)建築工事に係る請負契約を締結し、建て主は、本件請負契約の支払いに充てるため、銀行から3億6000万円を借り入れた。

 なお、建て主はそれまで、本件建物の敷地部分で貸し駐車場を経営し、年500万円程度の収益を得ていた。

 本件建物は、平成12年3月に完成し、建て主と不動産会社は、同月23日、管理委託契約を締結した。

 本件建物の各室は、不動産会社作成の提案書において、5万2千円で賃貸することが予想されていたが、当初は1部屋につき月額4万8千円ないし5万円の賃料額で賃貸され、平成19年中盤頃は各室5万2千円で賃貸されたものの、その後賃料額は低下し、賃料月額5万円未満の部屋が多くなっていた。

 なお、本件建物は、平成20年以降不動産会社が建て主から一括して借り上げる方法がとられた。

 建て主は、平成20年頃、不動産会社担当者から、建築後8年が経ったら水道メーターを交換するのが市の決まりであり、取換え費用は300万円程度である旨の連絡を受けたが、知人を通じて、130万円で他の業者に取換えを依頼した。

 そのころ、建て主は、不動産会社担当者から、建築後10年が経ったら、大規模修繕をする必要がある旨を言われ、その負担を建て主がすることについて、話が違うのではないかなどと思った。

 建て主は、本件賃貸事業による収入状況が不動産会社から説明を受けていた状況と異なっていたことや、これから先も高額の費用がかかることにつき不安を抱いたことなどから、本件建物の売却を決意し、平成23年4月、本件建物及びその敷地を2億4500万円(うち、建物価格は1億7115万円)で訴外工務店に売却した。

 建て主は、不動産会社は虚偽・不当な勧誘を行い、説明義務を怠るなどの不法行為に及んだと主張し、不動産会社に対し、建物建築等に要した費用(3億6000万円)と売却価額(1億7115万円)の差額1億8885万円及び弁護士費用の一部115万円の合計1億9000万円の損害金並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求めて提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、建て主の請求を一部認容した。

 ⑴建て主不動産会社双方の属性や利益状況によれば、不動産会社には、本件請負契約の勧誘や説明に際し、建て主に対し、契約を締結するか否かについて的確な判断ができるよう正確な情報を提供した上で、適切な説明を行うべき信義則上の義務があったというべきである。

 また、不動産会社が前記義務に違反した結果、建て主において的確な判断ができないまま、本件請負契約を締結し、本件賃貸事業を実施した場合には、不動産会社は、建て主に対して、同義務違反の不法行為に基づき、損害を賠償すべき義務を負うものである。

 ⑵不動産会社作成の提案書には、本件建物に係る「修繕費」の見積りとして、1年目から40年目までの間、それぞれ年額32万5千円と記載されている。

 一般に、大規模建物については、建築後、一定期間を経過すると、大規模修繕を実施することが必要となり、国土交通省が発表したマンション修繕積立金の目安を参考とすると、本件建物については大規模修繕に係る費用として、年平均で年360万円程度を要することが見込まれるところ、本件各提案書における修繕費のシミュレーションは、極めて過小であったというべきである。

 建て主にとって、いかなる程度の修繕費用の支出が見込まれるかは、重要な事項であったというべきであり、駐車場経営に係る負担は、本件建物のような大規模建物の建築及び管理に伴う負担に比して相当程度軽度であることがうかがわれるところ、建て主は、不動産会社から修繕費について正確な説明がなされていた場合は、多額のローン債務を負担してまでして本件賃貸事業を実施するとの選択に至らなかった可能性が高い。

 以上によれば、不動産会社は、本件請負契約の締結に先立ち、本件賃貸事業に係る事業収支、特に、修繕費についての説明において、信義則上の義務に違反したところ、同違反は建て主に対する不法行為を構成するというべきである。

 ⑶建て主は、本件建物の建築に際し、3億6000万円を出捐(しゅつえん)したにもかかわらず、本件建物の売却価格は1億7115万円であったところ、不動産会社の不法行為により差額である1億8885万円の損害を被ったことが認められる。

 建て主は、本件賃貸事業を開始してから本件建物を売却するまでの約11年2か月間に、ローン債務の返済等に充てた分を除いても、合計8561万円余程度の収益を得ていた。

 他方、建て主は、従前の駐車場経営を継続していた場合に得られていた収入(合計5583万円余程度)を得ることができなかったという損失を被っており、8561万円余から5583万円余を差し引いた2978万円余を損益相殺することが相当である。

 以上によれば、不動産会社が賠償すべき損害額は、1億8885万円の損害から、1億602万円余(ローンの返済元本)及び上記2978万円余を控除した5304万円余となり、弁護士費用115万円は、相当因果関係がある損害というべきである。

まとめ

 修繕費のシミュレーションに大規模修繕の費用を含めていなかったくらいですので、平成20年以降、不動産会社が建て主から一括して借り上げる方法(サブリース)に関してもちゃんとした説明をしていたかどうか疑わしいところです。

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