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定期借家契約、契約書だけでは無効?

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定期借家契約、契約書だけでは無効?

 当該賃貸借契約は定期賃貸借契約とは言えないとして貸主の請求が棄却された事例(東京地裁平成26年11月20日判決棄却ウエストロージャパン)

定期借家契約、契約書だけでは無効?

 借主は、借地借家法で保護をされていますが、定期賃貸借契約は、貸主に有利な契約です。

 そこで、有利な契約をする貸主には「書面の交付による説明」というルールを厳格に守ることが要求されるというのが判例の考え方です。

 また、定期建物賃貸借契約について「国土交通省ホームページ」には下記のような記載があります。

賃貸人は「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書等とは別に、予め書面を交付して説明しなければならない。

※国土交通省ホームページ【出典】

ポイント

■不動産業者ではなく賃借人が説明

■重要・契約書等以外の書面の交付

 定期建物賃貸借契約では、書面の交付による説明という要件を厳格に捉えているため、説明書を単に郵送しただけでは説明したことにならないとされています。

 定期建物賃貸借をする際は「借地借家法38条所定の厳格な書面性」が重要です。

 「定期建物賃貸借についての説明書」は、国土交通省HPからもダウンロードできます。

事案の概要

 被告借主は、昭和55年12月、原告貸主の夫から、同人所有の建物(以下「旧賃借建物」という。)を賃借した。

 借主は旧賃借建物に約33年居住していた。

 貸主の夫は平成21年11月に死亡し、貸主は平成22年3月に旧賃借建物を含めて3件の貸家を相続した。

 貸主は、上記3件の借家が築50年を超えて老朽化したため、建替えを計画し、貸主は、自分の娘に依頼して、賃借人に対し、立退き交渉を行い、借主以外の賃借人との間では、立退き交渉が成功している。

 貸主の娘は貸主の代理人として、借主との間で、平成22年12月頃、借主が、旧賃借建物の向かいにある建物(以下「本件建物」という。)に転居すること、その際の引越費用は貸主が負担すること、本件建物の家賃については13万円から12万円に減額することなどを合意した。

 貸主の娘は、平成23年1月22日、借主との間で、「定期住宅賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わした。

 本件契約書には、特約事項として

1.本物件(契約)は

■契約期間:3年間

■定期借家

■更新不可

■ペット飼育不可

 2.本契約は、契約期間の満了と(同一貸主の)隣接する戸建から戸建への移動に伴い、明渡しの期限が定められた「定期住宅賃貸借契約」にて締結する。との文言がある。

 貸主の娘は、同日、借主との間で、「定期建物賃貸借規約についての説明」と題する書面(以下「本件説明書面」という。)を取り交わした。

 本件説明書面は、借地借家法38条2項に定める説明をした旨の内容が記載されている。

 借主が平成25年7月頃、手違いで賃料を10万円で送金したことが原因で、賃料の請求方法等をめぐり貸主の娘と借主との間で紛争となり、貸主は、借主に対し、平成25年7月31日付け書面により、本件賃貸借契約は定期建物賃貸借契約であることを理由に、平成26年1月31日の期間満了日にて契約が終了する旨を通知、借主に対し明渡しを求めて提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のとおり判示して、貸主の請求を棄却した。

【時系列まとめ】

昭和55年12月、原告貸主の夫から賃借

平成21年11月、貸主の夫死亡

平成22年3月、原告貸主が相続

平成22年12月頃、貸主の娘が立退き交渉

平成23年1月22日、借主との間で「定期住宅賃貸借契約」

(契約期間3年、平成26年1月まで)

平成25年7月頃、手違いで賃料を10万円で送金

平成25年7月31日、書面により平成26年1月31日の期間満了日にて契約が終了する旨を通知

 認定した事実によれば、次のとおりの事実が認められる。

 ア.本件契約書及び本件説明書面については、宅地建物取引業者が、本件賃貸借契約の締結に当たり、本件賃貸借契約が定期建物賃貸借となる旨の説明については、宅地建物取引業者である不動産業者が代行して行った旨の記載があるところ、実際には、不動産業業者は、本件契約書及び本件説明書面の作成を代行しただけで、本件賃貸借契約の締結には一切関与していない。

 イ.貸主の主張によっても、本件契約書及び本件説明書面に基づいて、本件賃貸借契約が定期建物賃貸借となる旨の説明を行った者は、賃貸人である貸主本人ではなく、貸主の娘である。

 ウ.貸主の主張に沿う貸主の娘の供述によれば、旧賃借建物については普通賃貸借であったにもかかわらず、本件賃貸借契約が定期建物賃貸借として新たに締結されることとなるが、これによって生じる借家権喪失を補填しうるだけの経済的合理性、必要性を認めることができない。

 すなわち、借主は、本件賃貸借契約の締結は、旧賃借建物から本件建物へ移転に伴うものであったが、この際、借主が受けた経済的給付等の利益は、引越費用、玄関先の塀の改造等とわずかであり(その他の移転補償は受けていない。)、他方で、貸主の娘においても、借主からの申し出があれば、普通賃貸借による条件でも応じたと供述していることからすると、本件賃貸借契約を定期建物賃貸借に該当すると解すべき経済的条件を欠いている。

 エ.貸主が、本件賃貸借契約が定期建物賃貸借に該当することを前提にして行った平成25年7月31日付け書面による定期建物賃貸借の終了通知は、同日に生じた借主と貸主の娘との間の紛争と前後してなされている。

 貸主の娘は、上記紛争との関連性を否定する供述をするものの、上記終了通知は、上記同日よりも前に行うことが可能である上終了通知可能期限内に到達したことが確認し難い平成25年7月31日にあえて行うことは考えがたいことからすると、貸主の娘の供述には疑問がある。

 オ.借主が、本件契約書及び本件説明書面にした署名・押印行為について、本件建物への移転居住が新築建物への再入居を前提にした書面である旨を誤信した旨の主張については、これを裏付ける証拠は借主本人の供述以外にない。

 しかしながら、再入居の約定違背に関する借主の不満は、本件訴訟提起前の段階の公開質問状にも記載されており、借主の供述には一貫性が認められる。

 以上に説示したことに加え、定期建物賃貸借契約については、当該契約に係る賃貸借契約は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、法38条所定の厳格な書面性を要すると解される最高裁判例(最一判・平成24年9月13日民集66巻9号3263号RETIO88-108参照)に照らすと、前記ア及びイの要式性等の不備を看過しえないばかりか、さらに、前記ウないしオの事実を併せ考慮すると、本件賃貸借契約は、定期建物賃貸借であると解することはできない。

まとめ

 借主は借地借家法で手厚く守られています。

 「借主には契約書と重要事項で説明したから大丈夫」とは限りません。

 定期建物賃貸借契約の説明について、事前説明書の交付及び説明は、宅地建物取引士による重要事項説明書の交付、説明により代えることも認められないとされています。

(定期建物賃貸借)借地借家法 第38条2項

定期建物賃貸借契約をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

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