事故物件 判例解説 売買

殺人事件があった不動産、建物の取り壊し後も告知義務があるのか?

  1. HOME >
  2. 事故物件 >

殺人事件があった不動産、建物の取り壊し後も告知義務があるのか?

 取壊された建物での殺人事件について、媒介業者には調査すべき特段の事情は認められないとした事例(東京地判平24・8・29)

殺人事件があった不動産、建物の取り壊し後も告知義務があるのか?

 売主である宅建業者の本店が、殺人事件現場から近くにあるからと言って、そのことを知っているとは限りません。

 判例では、過去に殺人事件のあった場所において、購入者に主観的な忌避感を生じさせる可能性があると認めながらも

 「契約の1年前に建物が取り壊されて更地になっている場合には、特段の事情がない限り、取り壊された共同住宅において、過去数年間に何らかの事故が発生していたか否かについて調査すべきであるとはいえない」としています。

事案の概要

 ⑴平成19年9月19日、買主(原告・法人)は、居住用の建物を建築する目的で、買主の媒介業者(被告・法人・宅建業者)と、大都市の住宅地に存する土地の購入の媒介を依頼する旨の一般媒介契約を締結した。

 ⑵同年9月27日、買主は、買主の媒介業者の媒介により、売主(被告・法人・宅建業者)より、3筆の土地(以下「土地1」、「土地2」、「土地3」といい、3筆の土地を総称して「本件各土地」という。)を代金1億3360万円で購入する売買契約を締結し、同年10月18日までにその代金全額を支払った。

 また、買主は、同日までに、買主の媒介業者に対して仲介手数料427万1400円を支払った。

 ⑶平成20年5月18日、買主は、買主の媒介業者の媒介により、A(訴外)との間で本件各土地の南側に隣接する土地(以下「土地4」という。)を代金3230万円で購入した。

 ⑷同年8月5日、買主は、購入した土地上に建物(以下「新築建物」という。)を建築した。

 ⑸平成22年8月16日、本件各土地及び土地4並びに新築建物は、買主が第三者を債務者として設定した根抵当権に基づき担保不動産競売され、平成23年2月8日、落札価格が納付されて、買主は所有権を失った。

 ⑹なお、買主は、同年11月ころまでに、競売手続きに関連して、任意売却を依頼した近隣の宅建業者B(訴外)らを通じて、土地3の上にかつて存在していた共同住宅(以下「旧建物」という。)において殺人事件(以下「事件」という。)があったことを知った。

 ⑺買主は、売主及び買主の媒介業者が、本件各土地の契約の際に、事件があった事実を知っていたにもかかわらず、これを告げずに「周辺環境に影響を及ぼすと思われる施設等」は「ない」等と記載した書面を作成して説明したことなどが不法行為を構成するとして、土地の購入代金と適正価格との差額相当分や仲介手数料相当額の合計額のうち6603万円余の損害賠償を求めて提訴した

 ⑻売主が本件各土地を売却するまでの経緯等は次のとおりである。

 ①土地1及び土地2はC(訴外)、土地3はD(訴外)が所有し、それぞれに木造2階建ての共同住宅が建っていた。

 ②平成15年10月、旧建物の一室で事件があり、事件については、同年10月16日、同月17日の全国紙3紙の社会面に掲載された。

 ③平成17年11月、売主の元の代表者は、アパートを建てて賃料収入を得たいと考え、売主名義で、土地1及び土地2と共同住宅を購入し、平成18年2月、土地3と旧建物を購入した。

 ④平成18年9月、売主は、共同住宅及び旧建物を取り壊したが、アパート経営を断念し、本件各土地を転売することとした。

 ⑤前記③の購入に際し、売主が仲介業者(訴外)から受領した重要事項説明書及び賃借人に関する資料には、事件に関する記述はない。

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のように判示し、買主の請求を棄却した。

⑴売主の不法行為責任について

 ①居住用として土地を購入する場合、事件が起こった建物が建築されていた土地であることは、購入者に主観的な忌避感を生じさせる事項である。

 ②売主が、本件各土地等を購入した際に受領した資料には事件に関する記載はなく、また、売主が相場に照らして特に低い価格で購入したということはないので、購入の契約は事件を前提とした売買契約でなかったと推定される。

 ③新聞記事は、事件を大きく取り上げたものではなく、記事を読んだだけでその後長く記憶に残る事件であるとは言い難い。

 売主が地元の宅建業者であり、旧建物まで500mないし600mの範囲に本店があるとしても、そのことから、売主が事件を知っていたということはできない。

 ④したがって、売主が、事件を知っていたことを前提とする買主の請求には理由がない。

⑵買主の媒介業者の不法行為責任について

 ①新聞の報道内容は、記事を読んだだけでその後長く記憶に残るような記載内容でなく、新聞記事となったことから買主の媒介業者が事件を知っていたと推認することは出来ない。

 ②買主は、買主の媒介業者に対して主観的環境にも十分配慮するよう依頼したと主張するが、具体的にどのような事項を調査し配慮するよう求めているかは判然としない。

 買主の媒介業者が建物の閉鎖登記簿謄本等の調査以外の調査をした証拠はなく、何らかの調査の結果、買主の媒介業者は事件を知っていただろうという買主の主張は前提を欠く。

 ③したがって、買主の媒介業者が、事件を知っていたことを前提とする買主の請求には理由がない。

 ④一般に、仲介業者が、契約の1年前に建物が取り壊されて更地になっている場合には、特段の事情がない限り、取り壊された共同住宅において、過去数年間に何らかの事故が発生していたか否かについて調査すべきであるとはいえず、

 買主の媒介業者がこのような調査義務を負うべき特段の事情があったことを窺わせる事情は見当たらないから、調査義務を前提とする買主の主張も理由がない。

まとめ

 今は、不動産業者でも「大島てる」というサイトを使って事故物件を検索している人がほとんどだと思います。

 ここに掲載されている内容と事実が異なる場合がありますが、全くの嘘ではありません。購入希望者もこういったサイトを閲覧してくるので、自分の案件に関係のある物件は必ずチャックしておいた方が良いです。

 マンションであれば案内する別の部屋で自殺があったということはよくある話です。知らないうちに事故物件を紹介してしまわないように注意しておきましょう。

【関連記事】

相続放棄できない!?死後2ヶ月半の事故物件

医師の死体検案書では自殺、裁判所は自殺と認定できないとした事例

自殺遺族への損害賠償金はいくらになるか?貸主の行き過ぎた損害賠償請求

-事故物件, 判例解説, 売買

Copyright© クガ不動産【不動産裁判例の解説】 , 2024 All Rights Reserved