改正民法で変更になった原状回復の内容とは?
今年の民法改正で「原状回復義務」について、以下の内容が明記されました。
民法 第621条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」
原状回復義務の範囲について、通常の使用によって生じた物件の損耗、経年劣化は借主が回復する義務を負わないことが改めて明示されています。
民法改正前は原状回復義務について、改正前618条が準用する改正前598条において「原状に復して」と簡略な規定を置くのみでした。
では、原状回復について、どこまでは通常損耗にあたるのか?
下記は、国土交通省原状回復をめぐるトラブルのガイドラインをもとに作成した表です。
貸主負担 |
借主負担 |
冷蔵庫跡の壁の黒ずみなど |
冷蔵庫下のサビ跡など |
カーペットの家具跡など |
フローリングの傷など |
画びょう、ピン等の穴など |
くぎ穴、ねじ穴など |
タバコのヤニ |
タバコのヤニ |
畳、クロスの変色など |
結露によるカビ、シミなど |
そのほか、貸主の負担とされるのは、
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そのほか、借り主の負担とされるのは、 |
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はこちら
経年変化や通常損耗によって汚れたり壊れたりした部分の修理費用を、賃貸借契約に明記された特約によって借主に負担させることは可能です。
条件としては、契約書の特約に具体的にどこにどれくらいの費用がかかるのか等の明記をする必要があります。
クロスの張り替え費用等を明記する場合は、その平方メートル当たりの単価だけでは裁判では有効とされません。
下記、判例に関しても特約で具体的に補修内容が明記されていなかったため、修理費用の請求は認められませんでした。
原状回復の範囲に関する判例
賃貸借契約書の約定による通常損耗を借主負担とする特約が有効に成立していないとして、効力が否認された事例(東京地判平29・4・25)
事案の概要
結論
原状回復費請求のうち、通常損耗部分の請求を棄却、通常損耗を超える部分のみの原状回復費の請求が認容
結論
貸主(原告=訴えを起こした人・被控訴人=上級裁判所に不服申し立てをされた人)
借主(被告=訴えられた人・控訴人=一審の判決に不服を持ち、上級裁判所に不服申し立てをした人)
平成15年8月22日、貸主(原告・被控訴人)と借主(被告・控訴人)とは、建物の一部(以下「本住戸」という。)を次の内容で賃貸借契約を締結した。
期間:平成17年8月22日まで賃料:10万円、共益費4000円、敷金20万円なお、賃貸借契約書の特約等(以下「本件約定」という。)は次のとおりであった。
・貸室は現況のまま使用し、退室時は室内を入居の際の現況に復すこと。
・解約時の畳・襖・クロス・クッションフロア等の張り替え及び壁等の塗り替え等その他補修費用は折半とする。
但し、室内クリーニング・エアコンクリーニング・破損箇所修理は全額借主負担とする。
その後、貸主及び借主は、賃貸借契約を更新し、契約は平成27年9月30日まで継続した。
平成27年9月26日、貸主が委託した管理会社(訴外)と借主は、本住戸の退室確認をし、借主は、不動文字で「記載された事項につき承諾いたしましたので署名します」との記載の入った賃貸借物件退室確認項目と題する書面に署名した。
その後、借主から支払いがないため、貸主の申立により簡易裁判所は、平成28年2月3日、借主に原状回復費及び同支払いがないため修繕及びその後の使用できなかった期間の賃料相当額54万5063円の支払いを求め支払督促を発したが、借主が異議を申立てたため、裁判となった。
裁判では、貸主の請求が全部認容されたため、判決を不服として、借主は原判決の取消を求め、控訴した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のように判示して、貸主の請求について一部のみ認容した。(約定に基づく通常損耗に係る原状回復費用の支払請求の可否)建物の賃貸借においては、借主が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませて、その支払を受けることにより行われている。
そのため、建物の賃貸借において、借主に通常損耗についての原状回復義務が認められるためには、少なくとも、借主が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、貸主が口頭により説明し、借主がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決)と解される。
本件約定では、「解約時の畳・襖・クロス・クッションフロア等の張り替え及び壁等の塗り替え等その他補修費用は折半とする。
但し室内クリーニング・エアコンクリーニング・破損箇所修理は全額借主負担とする。」と記載されているにとどまり、借主が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲を具体的に明記したものと認めることはできず、本件約定をもって通常損耗補修特約を定めたということは困難であるといわざるを得ず、貸主の主張は採用することができない。
また、全証拠を精査しても、通常損耗補修特約が明確に合意されていることを認めるに足りる的確な証拠はないので、通常損耗に係る補修費用を借主が負担するものと認めることはできない。
(借主が負担すべき原状回復費用の額)借主の居住期間(12年間)を考慮したうえで、借主の善管注意義務違反による通常損耗の範囲を超える毀損汚損部分とその原状回復費用は、
①和室4.5帖、6帖の畳の破れ・変色2万6250円
②和室4.5帖の天井板の穴1万1790円
③台所の天井化粧石膏ボードの穴 1万2402円
④洋室の天井化粧石膏ボードの破損及び壁クロスの穴・変色3万3125円
⑤洋室の床フローリングの破損1万5120円
⑥その他1万6980円の合計11万5667円、消費税を加え12万4920円となり、借主の負担する未払の原状回復費用は、敷金残額11万7967円との差額の6953円となる。
まとめ
特約に補修内容や費用が具体的に明記されていなければ、修理費用を請求することは認められません。
しかし、経年変化や通常損耗によって汚れたり壊れたりした部分の修理費用を、契約の特約に明記することによって借主に負担させることは可能であり、最高裁の判例でも認められています。
ただ、この判例の部屋は、いろんな場所で天井に穴があいていたようですが、いったいどんな使い方をしていたのでしょうか?
「家具運ぶ際にぶつけてしまった」という話はよくありますが、それにしては数が多い…
クリエイティブな仕事をする人の中には、散らかっている部屋や机の方が、新しい発想や発明をすることができるという人もいますが、私が貸主の立場であれば、このような借主には部屋を借りてほしくないと思います。
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