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税理士への相談を怠り、約6億の損害賠償請求

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税理士への相談を怠り、約6億の損害賠償請求

 税制改正の説明を怠ったことが 銀行の条理上の説明義務違反になるとされた事例 (東京高判 平17・3・31)

税理士への相談を怠り、約6億の損害賠償請求

 9億5000万円で購入した物件が、約10年後に1億7000万円に…

 バブル期に不動産を購入した人によくある話です。

 バブル期は、昭和61年12月から平成3年2月まで

 バブル崩壊期間は、平成3年3月から平成5年10月までと言われています。

 この時程ではありませんが、今後も相続対策として買った不動産はやはり値下がりするリスクがあります。

 相続税対策で節税した分以上に、不動産の価格が値下がりしていては意味がありません。

 不動産を購入して相続税対策をする場合は、慎重にタイミングと物件を見極める必要があります。

事案の概要

■被相続人(81歳・「被相続人」とは亡くなった人のこと)」

■相続人ら(被相続人の妻と息子2人)

■東中央銀行(仮名)

■東中央信用保証会社(仮名)

■東中央債権回収株式会社(仮名)

■平成2年4月…被相続人が賃貸住宅とその敷地を9億5,000万円で購入

■平成3年8月4日…被相続人死亡

■平成13年11月6日…東中央信用保証会社は4億6千万円余り、5億6千万円余り、9千万円余りを代位弁済した。

■平成14年7月…相続人らは本件不動産を1億7,000万円で売却、自宅不動産も1億3,800万円で売却

 当時81歳の被相続人は、家族の相続税対策の要請を容(い)れ、平成2年4月、居住地から遠く離れた新潟市の賃貸住宅とその敷地95,000万円で購入したが、その購入資金は、直前に東中央銀行から合計10億円の借り入れを行なったものであった。

 被相続人は、平成3年8月4日に死亡し、相続人ら(被相続人の妻と息子2人)が相続した。

 その後、東中央信用保証会社(仮名)は、東中央銀行(仮名)の請求に基づき、平成13年11月6日、東中央銀行に対し、保証契約に基づく保証債務の履行として4億6千万円余り、5億6千万円余り、9千万円余りを代位弁済した。

 平成14年7月、相続人らは本件不動産を1億7,000万円で売却、自宅不動産も1億3,800万円で売却して、上記各代位弁済による求償金債務の一部弁済に充てた。

 妻は本訴請求で、東中央銀行の担当者は、相続税制の法改正について説明しなかったなどの義務違反があるとして、債務不履行または不法行為に基づき、支払済みの利息、上記貸付により相続税対策の為に取得した不動産の価格下落等による損害賠償を、東中央銀行に求めた。

 反訴請求は、東中央信用保証会社の委託を受けた東中央債権回収株式会社が妻に対し、代位弁済による求償権に基づき、9億円弱の求償金の残額支払いを求めるものであった。

 原判決(平15・11・28東京地判)は、東中央銀行担当者が、貸付実績を挙げる目的で、相続税対策と称して、被相続人被相続人及び子の妻を執拗に勧誘したとまでの事実は認められず、東中央銀行に契約上もしくは条理上の告知義務を認めることは出来ない、との前提のもと、東中央銀行が故意に税制改正の事実を告げなかったとの事実は認められないとして、妻の本訴請求を棄却し、反訴請求を認容したため、相続人らが控訴したものである。

判決と内容のあらまし

 (1)東中央銀行の説明義務違反については、本件各消費貸借契約に際して、被相続人に対して本件税制改正を説明しなかったことが、消費貸借契約上の義務に違反するものとは認められず、東中央銀行には所論の債務不履行責任はない。

 (2)しかし、これらの各契約は、被相続人の相続が発生した場合の相続税対策という1つの目的のために相互に関連する一体のものとして締結された契約であり、また、10億円という多額の融資であり、本件不動産の賃料収入では利息の支払に足りず、毎年3,000万円以上の不足が生じることが見込まれた上、相続開始後に本件不動産を売却することによって債務を返済するほかなく、不動産の価値が下落すれば、著しい損失が生じかねない危険性をもともと有していたと言える

 (3)本件税制改正により、不動産取得後3年以内に被相続人が死亡すれば、上記相続税対策は効果がないことになるのであるから、仮に、本件税制改正の内容を知らされていれば、被相続人の高齢と同人が心筋梗塞を患っていることを知っていた被相続人の家族は、3年以内に死亡する可能性も充分あるものと受け止め、10億円という多額の借入をしなかったであろうと考えるのが、通常の合理的判断というべきである。

 (4)被相続人に心筋梗塞の持病があったという事情を知らなかったとしても、当時81歳であった被相続人が、不動産取得後3年以内に死亡する可能性が少なくないことは東中央銀行担当者においても容易に認識し得たというべきである。

 (5)以上の事情に照らせば、東中央銀行の担当者は、被相続人や妻に対し、本件各消費貸借契約締結までの間に、本件税制改正により、被相続人が不動産取得後3年以内に死亡すれば、相続税対策としての効果がないことを説明すべき信義則上の義務があったというべきである。

 東中央銀行は、過失により第三者に加えた損害について、使用者として不法行為による損害賠償責任を免れない。

 (6)過失相殺については、相続税対策をとるについて被相続人及び妻が相当な注意を払うべきものであり、別途に税理士に相談するなどしていれば、本件税制改正を知り得たと考えられること、本件不動産の価格下落による損害6億2,400万円は、相続開始後速やかに売却処分していれば回避し得た部分があることなどの諸般の事情を考慮して、3割と認めるのが相当である

 (7)以上により、東中央銀行は、妻に対し、

 ■9億1,849万余円及び内4億441万余円に対する

 ■平成13年11月7日から、内4億3,680万余円に対する

 ■平成14年7月12日から、内7,728万円に対する

 ※【4億441万+4億3680万+7728=9億1849万円】

 同月18日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

まとめ

 判例では、銀行員の説明義務違反が指摘されていますが、宅建業者としても他人事では決してありません。

 不動産の査定時など、税金に関する質問を受け、回答することは日常的によくあることです。

 宅建の試験でも税金に関する知識は問われるところですので、税金計算や税金に関する知識は必須です。

 ただし、税理士でもない宅建業者が税理士業務を行うことは基本はできません。

税理士法第52条(税理士業務の制限)

税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

税理士法第59条4項

~略~(  4項.第52条の規定に違反した者は)2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

 宅建業者は一般論として概算を示すだけなら、税理士法違反とはなりませんので、正確な税額等に関しては、税務署又は税理士に確認、もしくは確認してもうように誘導すの事が正しい方法です。

 また、税務相談の依頼を受けた場合は、税務署や税理士に確認した記録を確実に残して置くことも重要です。

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