判例解説 家賃減額請求 賃貸

建物賃貸借契約で賃料減額確認請求が認容された事例

「建物賃貸借契約で賃料減額確認請求が認容された事例」(甲府地判 平成16年4月27日)

建物賃貸借契約で賃料減額確認請求が認容された事例

 コロナの影響で、今後、地価の大幅下落や景気悪化が進んだ場合、賃料改定が必用な場面が出てくる可能性があります。

 継続賃料の算定手法は、「1.差額分配法、2.利回り法、3.賃貸事例比較法、4.スライド法」4つの手法があり、各試算賃料について適切な比重を設定して計算を行います。

 この判例は、減額請求をする際の参考になると思います。

事案の概要

 ■運営会社は、日用雑貨品等の販売を行うショッピングセンター等を経営している会社であり、

 ■所有会社は、建物を所有する会社である。

 運営会社は、昭和62年11月、第1の建物(以下「本件建物」という。)のうち、1万5,010㎡を、同年11月21日から同82年(平成19年)11月20日までの期間、ショッピングセンターの店 舗、事務所等の施設として使用することとし、1カ月当たりの賃料を2,935万1,000円で所有会社と契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。

 平成4年6月10日、所有会社と運営会社は、

 ①、本件賃貸借契約の賃料が平成2年11月21日以降、同7年6月30日まで、1カ月3,228万6,100円(消費税別)であることを確認する。

 ②、①の賃料は、公租公課の増額、経済情勢の変動等を勘案し、運営会社・所有会社協議の上、平成7年7月1日以降将来に向かって改定できるものとし、以後3年毎に賃料額の改定を行うものとする。との訴訟上の合意が成立した。

 なお、平成8年7月、所有会社は、本件建物の所在する所有会社所有の土地の隣に、別の法人の経営するショッピングセンターを誘致することを決定した経過がある(平成10年10月開店)。

 また、平成10年9月14日、運営会社は、所有会社との間で、本件建物を増築した第2の建物(以下「本件増築後建物」という。)の賃料を1カ月3,321万4,100円に変更する旨合意(以下「本件賃貸借変更契約」という。)したが、平成11年7月、運営会社は所有会社に対し、本件増築後建物の賃料を、同年8月1日以降、現行賃料の50%に当たる1カ月1,660万7,050円(消費税別)に減額する旨の意思表示をし、同11年12月、運営会社は所有会社を相手方として、簡易裁判所に、賃料減額請求調停を申し立てたが、本件調停は不成立により終了した。

 しかし、運営会社は所有会社に対し、いわゆるバブル崩壊を契機とした土地価格の大幅下落や、経済事情に照らし、家賃について大きく減額すべきであると主張し、平成10年9月14日の本件賃貸借変更契約において、運営会社と所有会社の間で既存賃借部分における賃料改定に関する合意がなされたか否かについて争いとなり、運営会社は、平成11年8月1日の時点における本件賃貸借変更契約の対象物件の適正な継続月額賃料の確認を求めて争った。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のような判断を下した。

 (1)本件賃貸借変更契約において、既存賃借部分の賃料改定に関する合意がなされたか賃料改定についての交渉経過の認定事実を基に検討すると、本件賃貸借変更契約書において、本件増築後建物の既存賃借部分の賃料額と追加賃借部分の賃料額は区別して記載されず、変更後の賃料額のみが記載されているところ、証拠によっても、平成8年7月以降の本件賃貸借変更契約締結に至る交渉経過でも、既存部分の賃料の増減額の問題を正面から取り上げて話合いを行った形跡は認められない。

 また、本件賃貸借変更契約を締結するに当たっても、既存部分の賃料について触れることはせず、変更契約書上、既存賃借部分と追加賃借部分についての賃料額を区別して記載しなかったものと認められる。

 よって、平成10年9月14日の時点で、運営会社・所有会社間において、既存賃借部分についての賃料改定に関する合意が行われたと認めることはできず、既存賃借部分について現行賃料の合意がされた時点は、平成4年6月10日であると認められる。

 (2)本件増築後建物の適正な月額賃料について

 本件増築後建物について、運営会社が賃料の減額請求をしている平成 1 1 年8月1日の時点(以下「価格時点」という。)における適正賃料額を算定するに当たっては、不動産鑑定評価基準により承認されている差額配分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法の各手法を用いて試算賃料を算定し、本件賃貸借変更契約における具体的事実関係に即して総合的に判断し、合理的な額を算定するのが相当である。

 本件においては、運営会社の依頼に基づいて二つの鑑定が実施されているが、各方法による試算賃料についての比重について検討するに、差額配分法における積算賃料については、対象不動産周辺の用途を共同住宅とする収益用不動産の取引事例についての取引利回りを算出し、総合期待利回りについて合理性があることを検証しているのであるから、差額配分法における賃料については比重を3とするのが相当である。

 また、利回り法における継続利回り賃料については、現行賃料を定めたのがバブル崩壊後の地価下落期に当たる平成4年6月であり、当時の純賃料利回りが必ずしも適正な利回りであるということはできないことに照らすと、その比重を2とするのが相当である。

 これに対し、スライド法における賃料については、上記のような問題は認められないので、その比重を5とするのが相当である。なお、賃貸事例比較法については、鑑定手法に疑問の余地があるため採用できない。

 以上によれば、実質賃料を月額2,842万円と認め、ここから敷金運用益(月額44万円)を控除して、適正賃料額を2,798万円とするのが相当であり、これに、追加賃借部分の賃料(月額92万8,000円)を合計すると、賃貸借変更契約における適正賃料額は平成11年8月1日以降、2,890万8,000円(消費税別)であるとの確認を求める限度で理由がある。

まとめ

 賃料相場は変動します。

 バブル期の賃料のまま賃料改定がされておらず、話し合いを等も出来ていないようであれば不動産鑑定士に相談してみても良いかもしれません。

 もし、賃料減額請求等でオーナーとトラブルになり、賃料の受取りを拒否されるようであれば、法務局にある供託所に賃料を預けることで「支払ったこと」同じ効果になります。

 今後、コロナの影響で土地価格の下落や、経済情勢の悪化が進めばこういった賃料改定のトラブルが多くなってくるかもしれません。

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