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アルツハイマー型認知症である高齢者の不動産を売却、司法書士にも責任は!?

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アルツハイマー型認知症である高齢者の不動産を売却、司法書士にも責任は!?

 高齢者の不動産売却に際し、意思能力に疑念がある場合、司法書士には調査を尽くすべき義務があるとした事例(東京高判平27・4・28)

アルツハイマー型認知症である高齢者の不動産を売却、司法書士にも責任は!?

 アルツハイマー型認知症で意思能力がない売主とは、取引することができない事くらい不動産業者であれば誰でも知っていること。

 この判例では、不動産業者の営業担当者が、売主に電話をして訪問したその日に契約を締結し、翌日には引き渡しまで終えています。

 おそらく、売主と会って話をした営業担当者が、認知症であることにに気付き、覚えている間に契約を締結してしまおうとしたのでしょう。

 かなり悪質な不動産業者です。司法書士も同罪であるとしか見れない判例です。

事案の概要

 平成17年4月、売主(原告)は、アルツハイマー型認知症と診断され、平成24年には、病院の勧めで、月に一・二回の通院を行っていた。

 平成24年7月、87歳の売主は、都市部のマンションの一室(総戸数100戸、1LDK、42.36㎡、以下「本物件」という。)を所有し、賃料等合計月額14万3千円で第三者に賃貸していた。

 同年7月23日、不動産登記記録の調査により、売主が本物件を所有していることを知った不動産会社(被告)の営業担当者(被告)は、売主に何度か電話した後、売主宅を訪問した。

 同日、売主と不動産業者は、本物件に関し、媒介価格を400万円とする専属専任媒介契約を締結したが、同日に媒介契約を解約するとともに、売買代金を700万円、買主を不動産業者とする売買契約を締結し、営業担当者は、売主に手付金140万円を交付した。

 売主は、契約に際し、営業担当者に対し、権利証と実印は紛失したと話し、また、本物件の賃貸借契約書は示さなかった。

 7月24日、営業担当者は、売主宅を訪問し、権利証と実印について尋ねたが、見つからなかったため、売主を伴って区役所(出張所)に行き、売主は改印手続を行い、印鑑証明書を受領した。

 その後、営業担当者は、売主と共に喫茶店に行き、売主に、残代金及びその他の清算金の合計額563万円余を額面とする小切手を交付した。

 なお、その場に、司法書士(被告)が同席し、不動産業者社と売主から、所有権移転登記手続に必要な書類を徴求した。

 8月22日、不動産業者は、他の不動産業者の代表者の娘に本物件を1350万円で売却した。

 9月、不動産業者の代表者は、売主宅に電話し、電話に出た売主と同居する長男に対し、不動産業者の代表者の娘が本件物件を購入したので、賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継してほしいと申し出た。

 10月、売主は、腰痛の悪化等により入院したが、同月15日、入院先の医師は、売主に関し、見当識(けんとうしき)について、障害が高度、社会的手続や公共施設の利用はできない、記憶力は問題があり程度は重い、脳の萎縮又は損傷は著しいとして、自己の財産を管理・処分することができないと診断した。

 11月、売主の長男は、家庭裁判所で、売主の成年後見人に選任される審判を受けた。

 平成25年7月19日、売主の長男は、売主の法定代理人として、不動産業者・不動産業者の代表取締役(被告)及び営業担当者並びに司法書士に対し、売買契約は売主の意思能力欠如に乗じて不動産を奪取したものだとして、共同不法行為等に基づく損害賠償を請求する訴えを提起した。

 平成26年12月3日、一審地方裁判所は、本件取引は、売主の理解力・判断力が乏しいことに乗じて、本物件を買い取ったものと言わざるを得ないとして、不動産業者・営業担当者・不動産業者の代表取締役(以下、総称して「不動産業者」という。)に対する請求を認容したが、司法書士に過失があるとは言うことはできないとして、司法書士に対する請求を棄却した。

 12月16日、一審判決を不服とした売主及び不動産業者らが各々控訴し、平成27年4月28日、高等裁判所は、不動産業者の控訴を棄却し、司法書士についての原判決を変更し、司法書士の責任を認容した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のように判示して、司法書士の責任を認容した。

 ⑴司法書士は、その業務内容に照らし、疑わしい事情がない限り、申請人の意思能力の有無や登記原因証明情報に係る書面が偽造によるものでないこと等の実質的な要件についてまで調査する一般的な義務を負っているということはできない。

 ⑵しかし、司法書士は、登記等の専門家として、依頼者の属性や依頼時の状況、依頼内容等の具体的な事情に照らし、登記申請意思の真実性に疑念を抱かせるに足りる客観的な状況がある場合には、これらの点について調査を尽くし、上記の疑念を解消できない場合には、依頼業務の遂行を差し控えるべき注意義務を負っているものと解するのが相当である。

 ⑶本件売買契約が、売主が87歳という高齢で、親族の立会いもなく、登記済証も所持しておらず、司法書士が、代金額が相場に比し相当低廉(ていれん)(注・原審・控訴審とも本物件の時価相当額は少なくとも2000万円を下らないと認定した。)であることを不動産取引の専門業者として認識していたと推認できること、売買契約の翌日に残代金の決済と登記手続が完了するという内容で、決済も喫茶店で行われたことに照らすと、司法書士において、売主が700万円で本物件を売却して所有権移転登記を申請する意思の真実性には疑念を抱かせるに足りる客観的な状況があったというべきである。

 ⑷司法書士は、売主が、「営業担当者から十分な説明を受けて本物件を売却することを了承する」旨等が記載された立会決済確認書に署名押印を徴したにとどまり、それ以上に特段の調査をしたことがうかがわれない本件においては、注意義務を尽くさなかったものといわざるを得ず、登記申請代理業務の専門家として、不法行為責任を免れない。

 ⑸売主の請求は、被告らの全員に対し、各自1430万円及び遅延損害金の支払いを求める限度で認容すべきであるから、この限度で原判決を変更する。

まとめ

 アルツハイマー型認知症で意思能力がない人とは取引をすることはできません。

 ただ、売主が高齢者の場合、契約の時から引渡しまでの間に病気になってしまう事もよくあります。

 適正価格での売却で、売主本人も売却を望んでいる場合は、司法書士の先生も協力的に動いてくれたり、不動産業者も引渡日を早めにする努力をする事はあります。

 また、成年後見の申立てには時間がかかる為、今は家族信託にも注目をする人が増えています。

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