土地の固定資産の登録価格決定にあたり、容積利用権の譲渡事実は減価要因として考慮すべきであるとした事例(東京地判平29・9・14)
判決内容に対する主観的なコメント
「特例容積率適用地区制度」とは容積率を移転できる制度です。
これは、都市計画で一定の区域を定め、その区域内の建築敷地の指定容積率の一部を複数の建築敷地間で移転することを認める制度で、2001年に創設されています。
一般的に、容積率の移転は隣接する敷地の間でしか認められいませんが、特例容積率適用区域制度では、その区域内であれば隣接していない建築敷地の間で移転が認められています。
これによって区域内での「空中権」の売買が可能となります。
この空中権の売却後、たとえ建物が取り壊されたとしても、特定行政庁の取り消しがない限り、譲渡後の容積率でしか建物が建築できないため、固定資産の登録価格に減価原因が考慮されていないのは明らかにおかしいです。
事案の概要
平成14年5月、行政庁は、昭和35年から本件土地を所有する法人(容積率1300%)を含むP地区約116.7haを、特例容積率適用地区に指定した。
平成20年12月、行政庁は建築基準法57条の2第3項に基づき、本件土地の特例容積率の限度を1140.2%に、本件隣接地の特例容積率の限度を1507.6%に、それぞれ指定した。
平成21年6月、土地所有者はAとの間で、容積利用権譲渡及び地役権設定契約書(本件契約)を取り交わした。
<本件契約の概要>
・土地所有者は、Aに対し、本件土地から本件隣接地に移転される未利用容積に係る容積利用権(本件土地の容積率159.8%相当)を、代金199億円余にて譲渡する。
・Aの容積利用権の存続期間は永久とする。
・土地所有者は、Aに対し、本件土地を承役地とし、本件隣接地を要役地とする建物建築制限地役権を設定する。
平成24年3月、行政庁は平成24年度の本件土地の固定資産の価格を、本件容積率限度指定を減価要因とせず決定し、土地課税台帳に本件登録価格を登録した。
同年7月、土地所有者は、裁決行政庁に対して、本件価格決定を不服として審査申出をしたが、執行行政庁は、平成26年10月、審査申出を棄却する旨の決定をした。
土地所有者は、特例容積率の限度の指定を減価要因として考慮していない本件価格は、固定資産評価基準によって決定された価格とはいえないとして、行政庁に対し本件審査決定の取消しを求める訴訟を提起した。
判決と内容のあらまし
裁判所は、次のとおり判示し、土地所有者の請求を認容した。
地方税法は、土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を、当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳等に登録されたもの(登録価格)とし、その価格とは適正な時価をいうと定めているところ、適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。
したがって、土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、その登録価格の決定は違法となる。また、当該登録価格が、
①当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか、あるいは、
②これを上回るものではないが、その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、
又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき、その登録価格の決定は違法となるということができる(最二判平25・7・12民集67-6-1255)。
土地所有者が主張する、本件土地に係る価格の決定に当たり、本件容積率限度指定がされた事実を減価要因として評価基準において考慮すべきかであるが、特例容積率の限度の指定は、土地所有者等の申請に基づき、特定行政庁の審査の上でされるものであって、このような仕組みに照らせば、当該指定は単なる私人間の合意による土地利用の制限であるということはできず、公法上の土地利用の制限という性質を有するというべきである。
次に、特例容積率の限度の指定の法的効果についてみるに、この指定は特例容積率適用地区内の2以上の敷地を対象とするものであり、同指定が特定行政庁により取り消されない限りは、当該土地上の建築物が滅失するなどした場合でも指定の効果は存続し、指定された特例容積率の限度を超える建物を建築することはできないものと解される。
また、特例容積率の限度の指定の法的効果は、指定の対象となった敷地の譲受人に対しても及ぶものと解される。
このような特例容積率の限度の指定の性質や法的効果に鑑みれば、基準容積率を下回る特例容積率の限度の指定がされた土地については、当該指定の効果が存続する限り、当該指定がされていない場合と比較して客観的な交換価値がその制限の程度に応じて一定程度減少することは明らかであるといえる。
以上によれば、本件土地の価格の決定に当たっては本件容積率限度指定がされたことを評価基準において考慮することが合理的であり、本件土地に係る市街地宅地評価法に基づく評価の過程でそのような指定がされた事実を適切に考慮すべきものといえる。
本件価格決定においては、本件容積率限度指定がされたことが何ら考慮されていないから、本件登録価格は、評価基準の定める評価方法によって決定されたものということはできない。
そして、本件登録価格が評価基準の定める評価方法によって決定される価格を上回ることも明らかであるから、本件価格決定は違法というべきである。
まとめ
特例容積率適用地区は、東京駅周辺の大手町・丸の内・有楽町地区に指定されています。
特例容積率適用地区ではありませんが、2020年7月1日神戸市の三宮~神戸間のエリアでは、容積率が400%に制限されるタワマン規制【特別用途地区(都心機能誘導地区)】が施行されました。
こういった、規制の情報をいち早く入手して、すぐに行動できるかどうかで何千万と得をする人がいます。
不動産は情報が命です。
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